starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

植物の乾燥耐性を支えるミオシンXI


早稲田大学の研究により、植物のストレス耐性を強化する技術の開発に新たな道が拓かれました。ミオシンXIというモータータンパク質が植物のストレス耐性、特に干ばつ時の気孔閉鎖に重要な役割を果たすことが明らかになりました。本研究は、ミオシンXIを欠損させたシロイヌナズナの多重変異体が干ばつストレスに対し弱くなることを発見し、このタンパク質がアブシジン酸(ABA)を介した気孔の閉鎖を助けるメカニズムを解明しました。ミオシンXIの機能により、干ばつ地帯での作物の水利用効率化が期待されます。この発見は、干ばつや高塩ストレスなどの環境ストレス下での持続可能な農業技術の基盤として期待されます。

作物のストレス耐性を強化する技術開発に新たな道筋

2025年6月23日
早稲田大学

植物の乾燥耐性を支えるミオシンXI 作物のストレス耐性を強化する技術開発に新たな道筋

詳細は早稲田大学HPをご覧ください。
【発表のポイント】
 〇 植物細胞に存在するモータータンパク質ミオシンXI※1の多重変異体では、乾燥時の水分の喪失速度が野生型の4倍になることが分かりました。
 〇 植物が干ばつストレスに対処するため、植物ホルモンを介した気孔の閉鎖に、ミオシンXIが関与していることを明らかにしました。植物の環境適応戦略の理解に、新たな視点が加わりました。
 〇 「モータータンパク質-植物ホルモン伝達」という新たな概念が見出されたことで、ストレス応答の基礎研究や、干ばつ地帯における作物の水利用効率化技術の開発に貢献すると考えられます。

気候変動の深刻化に伴う干ばつ被害が拡大する中、農業の生産持続性の鍵の一つを握る「植物の干ばつ耐性メカニズム」の解明が急務になっています。

早稲田大学教育・総合科学学術院の富永基樹(とみながもとき)教授と博士後期課程2年の劉海洋(りょうかいよう)は、モータータンパク質ミオシンXIが干ばつストレスに関与するメカニズムをモデル植物シロイヌナズナ※2を用いて研究しました。その結果、ミオシンXI遺伝子を欠損させた多重変異体では、干ばつストレスに弱くなることを発見しました。さらに、干ばつ時に上昇し気孔の閉鎖を誘導する植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)※3で処理したところ,活性酸素の生成や微小管※4の脱重合が野生型と比較し阻害され、気孔が閉じにくくなるというメカニズムを初めて明らかにしました。

この発見は、ミオシンXIが干ばつ耐性に関与する初めての研究であり、今後、干ばつに強い作物の開発や、限られた水資源のもとで収量を維持する技術に貢献することが期待されます。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506230983-O2-x4rhN210

本研究成果は国際学術誌「Plant Cell Reports」に2025年6月19日(木)に掲載されました。
論文名:Myosin XI coordinates ABA-induced stomatal closure via microtubule stability and ROS synthesis in drought-stressed Arabidopsis

キーワード:
ミオシンXI、アブシジン酸、気孔の閉鎖、干ばつストレス、シグナル伝達

これまでの研究で分かっていたこと
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506230983-O3-XLtt35O4
図1 シロイヌナズナのミシオンXI
13種類のミオシンXIが存在し、植物のさまざまな生理プロセスに関与しています。

植物細胞内のモータータンパク質ミオシンXIは、原形質流動※5の駆動力として以前より研究されてきました。近年、シロイヌナズナには13種類のミオシンXIが存在し、これらが植物の栄養成長や生殖成長、重力応答、さらには生物的・非的ストレスへの応答など、多岐にわたる生理プロセスにおいて重要な役割を果たしていることが明らかとなってきました(図1)。

気孔は陸上植物の葉や茎の表面にある小さな開口部で一対の孔辺細胞※6により形成され、植物が二酸化炭素を取り込み、酸素や水を放出するための通路となっています。気孔は、植物が干ばつストレスに対処するための重要な役割を担っています。例えば、水分不足時には気孔を閉じて水分の損失を抑えることで被害を軽減します。このプロセスは複数のシグナルによって制御されていることが知られています。特に、孔辺細胞内での活性酸素種(ROS)※7の急速な生成や微小管の迅速な脱重合は、気孔閉鎖を引き起こす主な要因として働いています(図2)。

アブシジン酸(ABA)は干ばつストレス応答に重要な植物ホルモンで、気孔の動きから遺伝子発現に至る多層的な適応戦略を統合し、植物が水分不足環境下でも生存できるように働いています。節水型品種やストレス耐性品種の開発において、このメカニズムの解明が重要な課題となっています。

図【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506230983-O4-5nn0U4aO
図2 孔辺細胞内でのROSの急速な生成や微小管の迅速な脱重合の様子
A. 気孔閉鎖の過程で、放射状の微小管が脱重合し平行へと再構成されます。B. 閉鎖された気孔では、ROSシグナルが瞬間的に増強されます。

新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
干ばつは、気候変動によって拡大する自然災害のひとつとして、世界の農業や関連産業に深刻な被害をもたらしています。これまでにミオシンXIが干ばつに対するストレス応答に関与することが一部示唆されていましたが、具体的なメカニズムは不明のままでした。

本研究において、ミオシンXI遺伝子を欠損させた多重変異体ではABA応答が鈍化し、干ばつストレスに弱くなることが明らかになりました。また、乾燥条件下では、孔辺細胞における微小管再構成とROSが抑制され、その結果、気孔の迅速な閉鎖が阻害されることが明らかになりました(図3)。特に、乾燥条件下における変異体の水分喪失速度は、野生型の約4倍に達することが分かりました。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506230983-O5-F3IF7KUr
図3 A. 干ばつ処理による植物生育への影響。B. 干ばつ処理による気孔の開度の変化。
C. ABA処理による孔辺細胞内の微小管の変化。D. ABA処理による孔辺細胞内のROSの蓄積。

研究の波及効果や社会的影響
本研究では、ミオシンXIとABAシグナル伝達経路の関連性を初めて明らかにしました。今後さらに、干ばつストレスだけでなく、塩ストレスや低温ストレスといった他の的ストレスにおいても、ミオシンXIが同様の機能を有するかどうかを検証する新たな研究指針を提示しました。本発見は、植物の非生物的ストレス応答メカニズムへの理解を深め、干ばつや高塩などの環境下における持続可能な農業の発展に向けた基盤技術の開発に寄与すると期待されます。

用語解説
※1 ミオシン
細胞骨格であるアクチンフィラメント上を運動するモータータンパク質。動物、植物を含めて約80クラスが見つかっており、植物には植物特異的なミオシンVIII(クラス8)とミオシンXI(クラス11)の2クラスが存在します。原形質流動は、ミオシンXIの運動により発生していることが知られています。

※2 シロイヌナズナ
アブラナ科シロイヌナズナ属の一年草。学名はArabidopsis thaliana。育てるのに場所を取らない、発芽から種を付けるまでの期間が短い、ゲノムサイズが小さいなど、遺伝学的な研究を進める点での利点が多く、2000年に植物の中で最初に全ゲノム配列が解読され、モデル植物として広く使われています。

※3 アブシジン酸
植物ホルモンの一種で、乾燥などのストレス応答に重要な働きをします。特に、種子休眠の促進、発芽の抑制、気孔の閉鎖、乾燥ストレス耐性の獲得などに作用しています。

※4 微小管
”細胞骨格”の一種で、円筒形の繊維状タンパク質です。”チューブリン(tubulin)”というタンパク質が重合してできており、細胞の構造維持や物質輸送、細胞分裂などに重要な役割を果たしています。

※5 原形質流動
細胞の内部で、原形質(細胞質)が流れるように動く現象。植物では、細胞内に張り巡らされた細胞骨格の一種であるアクチン繊維上を、細胞小器官に結合した植物特異的なミオシンXIが運動することにより発生します。

※6 孔辺細胞
植物の葉や茎の表皮に存在する”気孔”という小さな開口部を形成する一対の特殊な表皮細胞で、形を変化させることで孔の大きさを調節します。

※7 ROS(Reactive Oxygen Species:活性酸素種)
酸素(O₂)を基にしてできた非常に反応性の高い化学種のことです。植物、動物、微生物などすべての生物の細胞内で代謝の副産物として発生します。

論文情報
雑誌名:Plant Cell Reports
論文名:Myosin XI coordinates ABA-induced stomatal closure via microtubule stability and ROS synthesis in drought-stressed Arabidopsis
執筆者名(所属機関名):Haiyang Liu1, Motoki Tominaga1 2*
1 Graduate School of Science and Engineering, Waseda University
2 Faculty of Education and Integrated Arts and Sciences, Waseda University
掲載日時(現地時間):2025年6月19日(木)
DOI: https://doi.org/10.1007/s00299-025-03538-2

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2025
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.