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能登半島の地形は地震がつくってきた


2024年の能登半島地震が、地形形成にどのような影響を与えたかが解明されました。衛星レーダー画像解析と野外調査により、海岸の隆起や海底の陸化、山間部の大規模な地すべりが観測され、隆起は最大で4mを超え、陸化された海底の総面積は4.5km²に達しました。この研究は、東北大学、東京都立大学、大分大学、ドイツ地球科学研究センターが連携して行われ、地震が地形形成に与える重要性を示しています。能登半島の現在の地形や海成段丘が、過去に繰り返された同様の地震の結果であることが明らかになりました。研究成果は2024年12月4日に科学誌Science Advancesに掲載されています。今後も地震履歴や隆起分布のさらなる解明に期待がかかっています。

2024年能登半島地震と地形の形成の関係を解明

発表のポイント
・衛星レーダ画像解析と野外調査により、2024年能登半島地震による海岸隆起・海底の陸化・山間部斜面
 変動等の地形変化を明らかにしました。
・半島の北岸沿いでは、顕著な隆起とそれに伴う海底面の陸化があることがわかりました。隆起の最大量は 
 4mを超え、陸化域の総面積は4.5km2でした。
・山間部斜面のいたる箇所で、岩盤・土塊がまとまって下方に最大2m程度移動する形態の地すべりが発生  
 していました。また、若山川の谷沿いに出現した崖地形は、南北斜面の地すべりによるものである可能性 
 が高いことが明らかになりました。
・半島の標高分布、発達している海成段丘(注1)、多数の地すべりの痕跡という地形的特徴は、今回のよう 
 な地震の繰り返しにより説明可能です。

概要
 地形は、地震に伴う地殻変動や雨・風・波による侵食・堆積などの影響を受け、非常に長い時間をかけて形作られます。私たち人間が地形の劇的な変化を目にすることは稀ですが、2024年元日に発生した能登半島地震では、隆起に伴う海底の陸化など、顕著な地形の変化がありました。
 東北大学、東京都立大学、大分大学、ドイツ地球科学研究センターの研究チームは、衛星レーダ画像解析と野外調査の統合により、今回の能登半島地震による地形変化の詳細を明らかにしました。その結果、現在の能登半島の地形的特徴は、今回と同様のタイプの地震の繰り返しにより説明できることがわかりました。本成果は、大地震が地形形成に果たす重要な役割を鮮やかに示すものです。
 本成果は、 2024 年 12 月 4 日午後2時(アメリカ東部時間。日本時間 12 月5日午前 4 時)に科学誌 Science Advances 誌に掲載 されました。

詳細な説明
研究の背景
 私たちが目にする地形は、地球の長い歴史の中で起こったさまざまな地殻変動や、雨・波・風などの自然現象によって形作られています。地震(活断層の動き)は、陸地を持ち上げて(隆起させて)山地をつくり、揺れによって地すべりを引き起こし、崩壊した土砂が川をせき止めるなどして、地形に大きな影響を与えます。しかし、地震が地形形成にどのように寄与しているかは、地震が発生して初めて明らかになることも多くあります。
 能登半島は本州日本海側で最大の半島で、過去数十万年にわたる隆起が海成段丘として記録されています。2024年元日に発生したマグニチュード7.6の地震は、半島の下から北側の海底へと続く活断層が150km以上にわたって活動したことによるもので、この活断層の動きによって顕著な地形変化が生じました。

今回の取り組み
 地形変化を詳細に分析するためには、まず正確な計測が不可欠です。衛星画像や衛星測位技術による「マクロの視点」と現地フィールド調査による「ミクロの視点」を組み合わせることで、何が起こったのかを詳細に理解するための重要な手がかりが得られます。また、活断層の動きは数km以上にわたる広範な地形変化を引き起こしますが、その動きを正確に推定・補正することで、活断層による地殻変動以外の変化も明確になります。
 本研究は、この課題認識に基づき、今回の地震による地形変化を総合的に理解することを目指して、東北大学、東京都立大学、大分大学、ドイツ地球科学研究センターの測地学、地震学、地形学を専門とする研究者のチームが連携して実施しました。
 測地学チームは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する地球観測衛星「だいち2号」の合成開口レーダ(SAR)(注2)画像を使用した解析を行いました。まず、地震前後に撮影された2枚の画像間の微細な違いから変化量を推定する「SARピクセルオフセット解析(注3)」から、地震に伴う変化を明らかにしました。今回の地震による変動域は、1枚の画像に収まらないほど広範囲に及びましたが、異なる位置・方向・入射角で撮影した画像を用いた解析結果を、国土地理院の電子基準点データを利用して統合し、能登半島北部全域の3次元変動場を明らかにしました。
 その結果、半島北岸沿いの最大4m超の隆起や、山間部の広域的な地すべり(すべり量は最大2m程度)が明らかになりました(図1A,B)。また、SAR画像における濃淡の変化と国土地理院の航空写真を用い、海岸沿いで海底面が陸化した範囲を調べました。隆起量が大きい地域の沖合に陸化域が広がっている傾向が確認され、陸化範囲は4.5km2と算出されました(図2)。さらに、干渉SAR解析という別の手法を用いることで、石川県志賀町(しかまち)北部の富来(とぎ)地域付近で多数の副次的な小断層の破壊が発生していたことも明らかになりました。
 地震学チームは、衛星画像解析結果、電子基準点の変動データ、地震波形データ、そして余震震源解析結果を基に、今回の地震を引き起こした断層の「断層すべり分布モデル」を構築しました。その結果、大きなすべりが発生した領域は石川県輪島市門前町と石川県珠洲市(すずし)内の半島北東端付近の地下に位置し、最大すべり量は約10mに達していました(図1C)。また、2007年の能登半島地震の震源断層では今回の地震で大きなすべりが確認されず、この断層が今回の地震のすべりの南西への進行を阻止した可能性が示唆されました。得られた断層すべり分布モデルから予測される変動(地形変化)を衛星画像解析で計測された変動から差し引くことで、山間部斜面の変動を明瞭に可視化することができました(図1B)。
 地形学チームは、主に海岸沿いの隆起と、珠洲市内を流れる若山川沿いに現れた崖地形の調査を行いました。海岸沿いの隆起調査では、半島の西岸から北岸にかけての120 kmにわたる区間の52地点の海岸で、隆起によって干上がった岸壁や岩礁に付着している生物遺骸の上端から海面までの高さを計測し、隆起量を測定しました。計測結果は、衛星画像解析で得られた隆起量とよく一致しており、衛星画像解析の信頼性を裏付ける結果となりました(図1A)。若山川沿いに現れた崖地形については、フィールド観察を通じて変形の大きさや向きを詳細に調査し、測地学チームの成果を合わせて総合的に検討した結果、若山川の両側斜面の変動(地すべり)による圧縮性の動きに伴うものであると結論付けました(図3)。
 能登半島北部は、北側の沿岸に切り立った崖が分布し、南に進むにつれて標高がなだらかに低くなるという特徴があります。これらの地形の特徴は、本研究によって明らかになった今回の地震による地殻変動パターンと一致しています。能登半島には新旧の海成段丘が発達していますが、今回の地震で陸化した部分は最新の海成段丘と言え、将来的に新たな海成段丘面として残ると考えられます。さらに、本研究では山間部の広範囲で地震に伴う地すべりが検出されました(図1B)。この結果は、強烈な地震動が地すべりを誘発し、能登半島の特徴的な山地の発達に寄与してきたことを示唆しています。総じて、今回のような地震の繰り返しが、現在の能登半島の山地・海岸地形の形成における主要因であると考えられます。

今後の展開
 今回のような大規模な地震が過去に繰り返されてきた可能性は、新しい海成段丘の調査から指摘されていますが(宍倉ほか, 2024, 第四紀研究)、その詳細はまだ十分には解明されていません。今後の調査により、過去の大地震の履歴や隆起分布が明らかになることが期待されます。日本海東縁部では、1964年の新潟地震(新潟県沖)や1983年の日本海中部地震(秋田県沖)など、今回の能登半島地震と同規模の地震が発生しています。能登半島近傍で発生する地震に関する知見は、日本海側の海域活断層で起こる地震の特性を理解する上でも重要です。
 本研究では、地震に伴う山間部斜面の広域地すべり変動が捉えられましたが、この変動は一部の道路破壊などに関連していると考えられます。今後、より詳細な現地調査結果と照らし合わせたり、他の地震事例の解析を行ったりすることで、地震による広域地すべり誘発現象の理解が進み、地すべりハザード評価の精密化が進むことが期待されます。
 衛星データの高精度化や解析技術の進展により、広範囲にわたる微細な変化の検出が可能になっています。進化するテクノロジーを活用しながら、フィールドでの丹念な観察を行うことで、私たちがまだ知らない自然現象のメカニズムを解明する新たな機会が開かれると考えられます。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202412031001-O3-79rAiR7v
図1.(A)衛星画像解析により得られた隆起分布と現地調査による隆起測定結果、(B)断層すべりによる変動を補正した衛星画像解析による南北方向の変動、(C)断層すべり分布推定結果。Bの破線の楕円は、地すべり変動を捉えていると考えられる領域を表す。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202412031001-O4-E7S17Y8i
図2. (A) 海岸沿いの隆起分布(黒線)と陸化による海岸線の変化量(海岸線が沖に後退した距離、青線)。(B) 隆起による陸化域の写真。 (C) 鹿磯漁港における隆起量計測の様子。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202412031001-O5-0c4Qc3pS
図3. (A, B)若山川沿いの上下・南北方向の変動マップと(C, D)隆起地点の写真。写真中の赤印が、地震により出現した崖地形。Eは、地理院地図によるA, Bと同範囲の陰影起伏図。

【謝辞】
本研究では、JAXA、国土地理院、気象庁、防災科学技術研究所のデータや解析結果を使用させていただきました。記して感謝いたします。

【用語説明】
注1.海成段丘 過去の海面付近で形成された平坦面が離水し、海岸線沿いに階段状に分布する地形。多く
  の場合、海成段丘の存在はその場所が長期的に隆起していることを示す。

注2. 合成開口レーダ(SAR) 地球観測衛星に搭載する装置で、マイクロ波を地表に当て、その反射波を受
   信することにより地表面の様子を調べる。
  
注3. ピクセルオフセット解析 2枚のSAR画像を精密に位置合わせして地表の変位を計測する技術。位置
   合わせをして残った局所的な位置のずれを地表変位とみなす。約10数cm~数10cmの精度で計測が
   できる。

【論文情報】
タイトル:Landscape changes caused by the 2024 Noto Peninsula earthquake in Japan
著者: Yo Fukushima(a), Daisuke Ishimura(b), Naoya Takahashi(c), Yoshiya Iwasa(d), Luca C. Malatesta(e), Takayuki Takahashi(a), Chi-Hsien Tang(a), Keisuke Yoshida(c), Shinji Toda(a)
掲載誌:Science Advances Vol.10 No.49
DOI: https://doi.org/10.1126/sciadv.adp9193
責任著者:福島洋(a) 著者:石村大輔(b),高橋直也(c),岩佐佳哉(d),Luca C. Malatesta(e) 高橋尚志(a),Chi-Hsien Tang(a),吉田圭佑(c),遠田晋次(a)
(a)  東北大学災害科学国際研究所
(b)  東京都立大学大学院都市環境科学研究科
(c)  東北大学大学院理学研究科
(d)  大分大学減災・復興デザイン教育研究センター
(e)  ドイツ地球科学研究センター

測地学チーム:福島 洋, 高橋直也
地震学チーム:Chi-Hsien Tang, 吉田圭佑, 遠田晋次, 福島 洋
地形学チーム:石村大輔, 高橋直也, 岩佐佳哉, Luca C. Malatesta, 高橋尚志,遠田晋次

【問い合わせ先】
 (研究に関すること)
東北大学災害科学国際研究所 陸域地震学・火山学研究分野
准教授 福島洋
TEL: 022-752-2069
Email: yo.fukushima.c3@tohoku.ac.jp

東京都立大学大学院都市環境科学研究科
助教 石村大輔
TEL: 042-677-2595
Email: ishimura@tmu.ac.jp

大分大学 減災・復興デザイン教育研究センター
助教 岩佐佳哉 
TEL:097-554-6164
Email: yiwasa067@oita-u.ac.jp

(報道に関すること)
東北大学災害科学国際研究所 広報室
TEL: 022-752-2049
Email: irides-pr@grp.tohoku.ac.jp

東京都立大学管理部企画広報課 広報係
TEL: 042-677-1806
Email: info@jmj.tmu.ac.jp

大分大学総務部総務課 広報係
TEL: 097-554-7376
Email: koho@oita-u.ac.jp

 

 

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