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職場の心理的安全性を高める鍵は「経営・管理者層の積極的な関わり」や「公正感」


研究レポート発表「心理的安全性の高い職場のつくり方 ~働きがい・エンゲージメントの観点から~」

2023年12月14日
Great Place To Work® Institute Japan
(株式会社働きがいのある会社研究所)

 「働きがいのある会社」に関する調査・分析を行うGreat Place To Work® Institute Japan(株式会社働きがいのある会社研究所、本社:東京都品川区、代表取締役社長:荒川陽子、以下GPTW Japan)は、2023年12月、「心理的安全性の高い職場」の特徴や事例を分析した研究レポートを発表しました。

コロナ禍でリモートワークの導入が一気に進んだものの、状況が落ち着いてきた最近では、出社と組み合わせたハイブリッド型が主流になりつつあります。理由は複数考えられますが、一つにリモートワーク一辺倒の功罪から対面でのコミュニケーションの価値が見直されていることもあるでしょう。そして、職場の心理的安全性への関心の声も聞かれます。

本レポートではGPTW Japanで実施した209社の働きがいに関するアンケートデータを用いて、心理的安全性と働きがいとの関係を確認すると共にどう高めたらよいかについてヒントを探ります。

 

研究レポートサマリー

・心理的安全性の高い職場は、“年齢”、“人種”、“性別”などに関係なく正当に扱われるといった「公正」に関する設問のスコアが高い

・反対に、心理的安全性の低い職場は、“仕事に行くことを楽しみにしている (誇り) ”、“誰でもなじめる雰囲気がある (連帯感) ”といった設問のほか、“報酬”、“利益の公正配分”、“昇進昇格への納得感”といった「公正」に関する設問のスコアが低い

・職場の心理的安全性は「働きがい」や「新しいことや改善に挑戦する機会」にポジティブな影響を及ぼす

・コロナ禍の3年間で心理的安全性が上がった企業・下がった企業の分析からは、マネジメントの関わりや職場の公正さが心理的安全性の向上に関連していることが分かった

 

研究背景

コロナ禍で対面の価値は変わった

コロナ禍で多くの企業がリモートワークを導入し働きやすさは高まった。一方で、従業員同士の直接的なコミュニケーションの機会が減少し、GPTW Japan調査企業においても働きがいの要素である「連帯感」が低下する企業も出始めた。仲間との協働や一体感を感じることが 少なくなったことで会社への誇りを持ちにくくなっているのではという相談も受ける。従業員の直接的な対面回帰を望む企業では、リモートワーク一辺倒では職場のコミュニケーションの質は保てないとの危惧もあり、コロナ禍が落ち着いた今はリモートワークと出社を組み合わせたハイブリッド型の働き方が進んでいる。WeWork Japan 合同会社が実施した調査(2022年10月)(*1)によると、ハイブリッドワークが認められている人は55.6%となっており、前年の48.0%から上昇している。

GPTW Japan調査企業においても2022年1月~3月頃の出社状況について、64.7%が「ハイブリッド型」と最も多くなり、次いで「出社」24.1%、「フルリモート」11.2%となった。またコロナ禍となってオフィスなどで従業員が対面で集う価値が変化したかどうかについて聞いたところ、「変わった」(37.7%)、「どちらかと言えば変わった」(34.9%)を合わせると72.6%となり、なにかしらの変化を感じている企業が多い結果となった。特に大規模ほど「変わった」と感じている割合が多い(大規模66.7%、中規模38.1%、小規模32.0%)(*2)。

 

心理的安全性の高い職場ニーズの高まり

対面で集う価値が変わったと感じる企業は、社員総会、表彰、研修、お祭りなどのイベントは対面で実施する方が効果が高いと考えていた。ねらいはスピーカーの熱意やその場で沸き起こる感動を参加者同士で共有することにある。あるいは、オフィス空間で偶然に出会った従業員同士が雑談することで、相互理解を深めたり、楽しい会話から新しいアイデアが生まれたりすることもあるかもしれない。

一方で、組織によっては、単に対面でのイベントを実施したり、出社を促したりするだけでは理想的な相互理解や偶発的な雑談は生まれるとは限らない。そもそも土台となるカルチャーが不十分なのか、心理的安全性を高めるべきではないか、最近GPTW Japanの顧客からも悩みを聞くことが多くなった。そこで本レポートでは、心理的安全性をどう高めたらよいのかGPTW Japan調査結果からヒントを探る。まずは心理的安全性という言葉のイメージも様々であることから定義について確認することから始めたい。

 

心理的安全性とは

「心理的安全性」とは、1999年、エドモンドソンが提唱した概念であり、チームにおいて、他のメンバーが自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態と定義されている。(*3)

心理的安全性が職場にもたらす効果については様々な研究がなされている。心理的安全性が広く注目を集めるようになったきっかけでもある研究として、Googleが 2012年に実施した調査「プロジェクト・アリストテレス」がある。心理的安全性の高いチームのメンバーは離職率が低く、他のメンバーが発案したアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、また「効果的に働く」とマネジャーから評価される機会が2倍多いという結果を報告している(*4)。また、フレイザーら(2017)の136の実証研究を用いたメタ分析によれば、学習行動、エンゲージメント、創造性など、望ましい結果変数との関係が報告されている。さらに、心理的安全性に影響を及ぼす要因についても、支援的な組織風土、リーダーとの良好な関係性、学習目標志向、裁量が大きく明確な仕事などとの関係が示されている(*5)。

本レポートでは、GPTW Japan調査企業のデータを用いて、コロナ禍においても心理的安全性が高い企業と働きがいとの関係、心理的安全性を高める働きがいの要素について、探索的に見ていくこととした。分析にあたって、GPTW Japanが実施している「働く人へのアンケート」の60設問のうち、心理的安全性として用いる5設問を選定し、その平均値を心理的安全性スコアとした(使用データの詳細は文末調査概要参照)。

 

研究結果

1. コロナ禍においても心理的安全性が高い職場の特徴

最初に心理的安全性の高い職場とはどのような特徴を兼ね備えているのか確認した。2023年版調査(回答期間:2021年7月~2022年9月)について、心理的安全性(=Psychological Safety、以降PS)スコアを出現率に基づいて2群に分け、「PS高群」・「PS低群」別に企業の特徴を確認した。企業の特徴としては、リーダーへの“信用”、従業員の“尊重”や“公正”な扱い、仕事への“誇り”と仲間との“連帯感”から成る「働く人へのアンケート」を企業単位に集計したスコアを用いた。

「PS高群」において「働く人へのアンケート」スコアの上位設問は、“年齢”、“人種”、“性別”などに関係なく正当に扱われるといった「公正」の要素の設問が多くを占めた。心理的安全性の高い職場では、個人の属性に関係なくフラットな関係性があるといえる。また“入社した人を歓迎する雰囲気がある”、“責任のある仕事を任されている”も上位設問となった。職場に温かさがあり、責任感が持てることも特徴といえる。

■PS高群の上位設問

n=104

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M101256/202312114099/_prw_PT1fl_Y9DfH5Wd.png

一方で、「PS低群」についてスコアの下位設問をみると“仕事に行くことを楽しみにしている”、“ 仕事の割り当てや人の配置を適切に行っている ”が低い。また“報酬”、“利益の公正配分”、“昇進昇格への納得感”について不満があるなど、評価や制度に関する「公正」についての設問が複数占めていることがわかる。基幹人事制度への不満があるのと、職場における楽しさもあまり感じられていない。

■PS低群の下位設問

n=105

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M101256/202312114099/_prw_PT2fl_fvJpl1W7.png

 

2. 心理的安全性と結果変数:心理的安全性が働きがいに及ぼす影響

心理的安全性が職場にもたらす効果について、先行研究で紹介したとおりだが、GPTW Japan調査企業のデータにおいても同様の傾向は確認できるだろうか。2023年版調査と3年前(コロナ禍前)の2020年版調査(回答期間:2018年7月~2019年9月)のいずれも「働く人へのアンケート」に回答した企業97社のデータを用いて、2020年版調査の心理的安全性と2023年版調査の「働きがい」と「新しいことや改善に挑戦する機会」の関係を分析した。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202312114099-O1-C5x9ZqYs

心理的安全性が高いほど数年後のその企業の働きがいが高ければ、心理的安全性は働きがいにポジティブな影響を及ぼしているといえる。そこで、3年前の心理的安全性の高低で2群に分け(以下、「3年前PS高群」「3年前PS低群」)、2023年調査時点での「働きがいスコア(GPTW総合設問のスコア)」を集計した。結果、「3年前PS低群」に比べて、「3年前PS高群」の方が、2023年調査時点での「働きがいスコア」が統計的に有意に高く(「3年前PS高群」83.4%、「3年前PS低群」は57.4%)、コロナ禍前の心理的安全性が2023年調査時点での働きがいにポジティブな影響を及ぼしていることが確認された。

■「働きがいスコア(GPTW総合設問「総合的にみて働きがいのある職場といえる」)」の「3年前PS高群」と「3年前PS低群」比較

n=97

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202312114099-O2-M0apQv0m

同様に「新しいことや改善に挑戦する機会」スコア(「過去1年間において、あなたは職場で新しいことや改善を行う機会がどのくらいあったか」)についても、2020年版調査の心理的安全性の「3年前PS高群」と「3年前PS低群」別に「多くあった」の選択率について確認した。その結果、「3年前PS高群」は55.6%、「3年前PS低群」は32.8%となり統計的に有意な差があった。

■「新しいことや改善に挑戦する機会のスコア」の 「3年前PS高群」と「3年前PS低群」比較

n=97

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202312114099-O3-GefT2Jl8


つまり、心理的安全性が高い職場の方が低い職場よりも、働きがいが高く、イノベーションにつながるような新しいことや改善のためのアクションも実際に多く行われていることが確認できた。フレイザーの先行研究では、心理的安全性がもたらす好効果としてエンゲージメントやアイデアの活用が示唆されていたが、今回も同様の結果が確認された。またコロナ禍前より心理的安全性が高い職場はコロナ禍を経ても引き続き働きがいが高い状態であることが確認できた。

 

3-1. コロナ禍でも心理的安全性が高まった企業は、コロナ禍前にどのような職場の特徴があったか

コロナ禍前にどのような特徴があると心理的安全性が上昇・下降しているのかを確認するために、2020年版調査における特徴を確認した。

2023年版調査で心理的安全性が高まった「PS上昇群」について2020年版調査におけるスコア上位設問をみると、“人種”、“性別”に関係なく正当に扱われるといった「公正」の設問が複数含まれていた。このことは、心理的安全性を高める土台として職場の公正感があることがポイントになると示唆される。

■2020年版調査時点の「PS上昇群」の上位設問

n=70

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M101256/202312114099/_prw_PT3fl_52F4BA4J.png

また2023年版調査で心理的安全性が低下してしまった「PS低下群」が2020年版調査で低いスコアであった設問を見てみると、“仕事に行くことを楽しみにしている”が最も低く、加えて、“報酬”、“適切な人の配置”、“利益の公正な分配”なども挙げられる。

これらは、冒頭で述べた心理的安全性の高い職場、低い職場の特徴と類似している。

■2020年版調査時点の「PS低下群」の下位設問

n=27

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M101256/202312114099/_prw_PT4fl_44Fo4DBT.png

 

3-2. コロナ禍でも心理的安全性が高まった企業は、どのような職場の特徴の変化があったか

では、心理的安全性を高めるにはどのようなことをすればよいのか。それを考えるために、本分析も、前項と同一の2020年版調査と2023年調査の両方に回答した97社のデータを用いて、3か年において心理的安全性を高めた「PS上昇群」と低下させた「PS低下群」との比較を行った。

その結果、「PS上昇群」が3か年において上昇した設問は、“裏工作・誹謗中傷はない”(+9.5pt)、“誰もが認められる機会がある”(+8.1pt)といった、「公正」の要素の設問に加え、“働く環境の設備が整っている”(+8.9pt)、“仕事に必要なものが与えられている”(+8.8pt)といった「尊重」の要素の設問も同じく上昇した。加えて、“経営・管理者層の言行が一致している”(+8.6pt)のようなマネジメントの「信用」の要素の設問も上昇している。「PS上昇群」の企業では、コロナ禍という先行き不透明な状況な中でも組織における公正さを醸成し、経営・管理者層がしっかり マネジメントとしての責任を果たしたこともよい結果の背景にあると考えられる。もちろん働く環境への配慮も上昇の背景にありそうだ。

■「PS上昇群」が3か年で上昇した設問

n=70

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M101256/202312114099/_prw_PT5fl_okRmS7bp.png

一方で、心理的安全性が3か年において低下してしまった「PS低下群」が特にスコアを落としたのは、 “経営・管理者層は従業員を意思決定に参画させている”(-8.9pt)や“経営・管理者層は従業員の提案・意見を求め対応している”(-6.6pt)といった経営・管理者層が従業員の意見やアイデアを聞く機会に関係する設問であった。加えて、 “経営・管理者層は、事業を運営する能力が高い” 、“経営・管理者層の示すビジョンが明確である”(共に-7.2pt)も低下した。経営・管理者層が従業員に職場の目指すゴールを明示し、達成に向けては、どう関わり支援しているのか問われている。

■「PS低下群」が3か年で低下した設問

n=27

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M101256/202312114099/_prw_PT6fl_Z826bAJM.png

「PS上昇群」「PS低下群」のいずれの分析も、マネジメントの関わりや職場の公正さが心理的安全性の向上に関連していることが分かった。あるいは、心理的安全性が高まると、マネジメントとの関係性や公正感が改善されるという考え方もあるだろう。

先行研究でもあった通り、心理的安全性の向上には、支援的な組織風土、リーダーとの良好な関係性、裁量の大きさなどと関連していることが確認できた。

 

企業事例

ここでは、実際にコロナ禍において課題に直面した企業がどのように乗り越え、心理的安全性を高めたか、事例をご紹介したい。

ホスピタリティ業界のA社は、コロナ禍において事業を停止せざるを得ない苦しい状況に陥った。同業他社は人件費の削減などコストカットを進める企業もあり、従業員は今後どうなっていくのか不安を抱えていた。勤務地は全国にあり、経営層と従業員が直接会話することもままならない状況で、従業員は精神的に安心して働くことが難しい状況であった。

そのような中、会社が行った施策は以下の3つである。

各拠点を結ぶコミュニケーションの確立

全国各地で離れて働く従業員とスピーディーにやりとりができるチャットツールを導入した。「〇〇が足りずに困っている、〇〇について改善してほしい」と言った現場の声を集め、すぐに対応。

経営層が直接疑問や不安を解消

コロナ禍となり、従業員の中で高まる不安に対し、経営層が心の内や思いを伝え、コストカットなどはしない予定であることをメッセージとして届ける。

生活を守る制度の整備

コロナ禍で苦しい状況ではあるが、若手層の給与についてより納得感を得られる制度改定を行ったり、様々な働き方(地域限定職や専門職制度など)が選択できるようにしたりなど人事制度の改定を行う。

上記の取り組みの結果、コロナ禍を経ても働きがい、心理的安全性を高めていくことができた。経営層が本当に従業員を信頼し、考えていることを伝えるなど積極的に関わったことで経営層への「信用」が増し、また、厳しい環境下であってもあらゆる従業員が活躍できるよう環境を整えられたことが「公正」な職場づくりにつながったと考えられる。

 

まとめ

コロナ禍前、出社が当たり前の時代には職場でのコミュニケーションは自由であった。ただコロナになって対面での集いが当たり前では無くなったからこそ、その場をどう活かしていくのか改めて考え直す機会を得たともいえる。

今回の研究から、心理的安全性の高い職場は、働きがいも高く、新しいことへの挑戦も多い職場であることが分かった。しかしそのためには、経営・管理者層の積極的な関わりがあることや公正感が組織に備わっていることが鍵になりそうだ。多様な働き方を取り入れつつも職場の心理的安全性も担保するにはどうしたらよいか、本レポートが各職場で考える一助となれば幸いである。

 

補足

使用データ

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M101256/202312114099/_prw_PT7fl_PI76IsJ6.png

注釈(参考文献)

*1:WeWork Japan合同会社(2022)コロナ禍長期化における働き方意識調査

*2:GPTW Japan(2023)2023年版 日本における「働きがい のある会社 」ランキング 全体傾向レポート

*3:Edmondson, A. (1999) Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative science quarterly, 44(2), 350-383.

*4:Google(2012)Guide: Understand team effectiveness

*5:Frazier, M. L., Fainshmidt, S., Klinger, R. L., Pezeshkan, A., &Vracheva, V. (2017) Psychological safety: A meta‐analytic review and extension. Personnel psychology, 70(1), 113-165.

*6:エイミー・C・エドモンドソン. 野津智子 (訳)(2021)『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』英治出版

*7:エイミー・C・エドモンドソン. 野津智子 (訳)(2014)『チームが機能するとはどういうことか』英治出版

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