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世界初!コムギとイネの雑種植物の創生


1. 概要
 コムギとイネは世界の主要作物ですが、異なる亜科に属していることから交雑することができず、それらが持つ優良遺伝資源を相互に利用することは出来ませんでした。
 東京都立大学大学院理学研究科のTety Maryenti(大学院生)、岡本龍史教授、および鳥取大学乾燥地研究センターの石井孝佳講師は、コムギ−イネ間の交雑不全を乗り越え、世界で初めてコムギとイネの交雑植物の作出に成功しました。
 今回の研究では、コムギおよびイネの花から単離した配偶子(卵細胞と精細胞)を様々な組み合わせで融合させ、多様なコムギ−イネ交雑受精卵を作出し、それらの発生過程を解析することで、コムギ−イネ雑種植物へと生育するコムギ−イネ異質倍数性交雑受精卵の人工的な作出に成功しました(図1)。この結果は、コムギとイネの遺伝子資源の相互利用に向けた大きな一歩であり、また、新たな育種技術としても期待されます。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202110061192-O1-41i3eleS

2. ポイント
■ 顕微授精(IVF)法を用いることによって、コムギとイネの生殖的隔離を打破することが可能になった。
■ IVF法によりコムギとイネの配偶子(卵細胞と精細胞)を任意の交雑組み合わせで融合することにより、多様なコムギ−イネ交雑受精卵を作出した。
■ 多様なコムギ−イネ交雑受精卵の発生能を調べることにより、交雑植物へと発生・再分化するコムギ−イネ交雑受精卵を特定し、雑種不全を乗り越えるためのコムギ配偶子とイネ配偶子の組み合わせを見つけ出した。

3. 研究の背景
 三大穀物であるコムギ、イネ、トウモロコシは世界の穀物生産の約9割を占めていますが、その理由としてこれら作物の農業上の遺伝的特性が他の植物に比べて特に秀でていることが挙げられます。一方で、これら3種の作物はすべてイネ科植物ですが、異なる亜科に属していることから交配による交雑が非常に困難であり、それらがもつ優れた遺伝資源を相互に利用することは出来ませんでした。一方で、近年の気候変動や人口増加に目を向けると、乾燥・高温化によりコムギの輸出大国であったオーストラリアがコムギ輸入国に転じ、また、中進国・発展途上国などでは人口増・食生活変化によって穀物需要が著しく増加しており、人類の食料生産はこれまでにない危機に直面しているといっても過言ではありません。それゆえ、コムギ、イネ、トウモロコシなどの間の交雑不全を乗り越え、新たな交雑植物を作出する技術の確立が求められていました。

4. 研究の詳細
 コムギ精細胞とイネ卵細胞を融合させて作出したコムギ−イネ交雑受精卵(WR受精卵)は分裂・初期発生を進めましたが、球状様胚のステージで発生が停止してしまいます(図1A)。WR初期胚細胞中におけるコムギおよびイネゲノムの存在様態をFISH解析により調べたところ、交雑胚細胞中ではイネ染色体のほとんどが脱落(染色体脱落現象)してしまう一方で、コムギの染色体は核内に安定して存在することが示されました。このことから、WR初期胚細胞はコムギの核ゲノムとイネの細胞質ゲノムを合わせ持つこと、およびWR胚の交雑不全は核−細胞質相互作用機構における異種間不全に起因することが考えられました。このことから、WR受精卵にさらにコムギ卵細胞を融合させることで、コムギの細胞質をRW受精卵に付与することで交雑不全を回避できると考え、WRW受精卵を作出して発生させたところ、植物体へ発生・再分化しました(図1B)。この再分化個体は基本的にコムギの形態を示しましたが、由来する受精卵により矮性形質など多様な草型形質が確認されたことから(図2)、再生植物体はイネ染色体・ゲノムの一部を保持している可能性が考えられました。
 次に、雌雄を逆にして作出したイネ−コムギ受精卵(RW受精卵)では、核の合一は進行しましたが、細胞分裂をすることなく1細胞ステージで発生が停止しました。この結果により、受精卵(融合コムギ卵細胞)の活性化が十分に進行していないことが推定されました。この状態を打破するために、4倍体イネから単離した2倍体イネ精細胞を、コムギ卵細胞と受精させて交雑受精卵を作出したところ、それらは植物体に発生・再分化しました。これらのことから、植物の異種間交雑における胚発生には、核と細胞質間の組み合わせと量的な関係が重要であることが明らかになりました。

 
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202110061192-O2-j8n4fly2

5. 研究の意義と波及効果
 本研究で確立された異種配偶子の顕微受精 (IVF) 法により、これまで不可能であったコムギとイネの雑種作成が可能となりました。これによりコムギとイネの遺伝資源の相互利用が可能となり、新たな優良形質をもつ新作物の作出に繋がることが期待されます。また、IVF 法は配偶子の単離が可能な植物種に適応可能であることから、コムギとイネだけに留まらず、トウモロコシ、オオムギ、サトウキビなどの多くの有用植物間の遠縁雑種植物の作出も視野に入ってきます。さらには、コムギ−イネ雑種受精卵の発生過程を解析することで、遠縁雑種植物の成立機構についての知見が得られることが考えられます。

6. 論文情報
<タイトル>
Development and regeneration of wheat–rice hybrid zygotes produced by in vitro fertilization system
<著者名>
Tety Maryenti, Takayoshi Ishii, Takashi Okamoto
<雑誌名>
New Phytologist
<DOI>
DOI: 10.1111/nph.17747

7. 補足説明
[1] 顕微授精(IVF)法
植物の花器官から卵細胞と精細胞をそれぞれ単離し、それら配偶子を電気的に融合させて受精卵を作出する手法。In vitro fertilization (IVF) 法ともいう。作出した受精卵を培養することで、植物体にまで発生・再分化させることができる。

[2] 三大穀物
コムギ、イネおよびトウモロコシの3種のイネ科作物を指す。世界の穀物生産の94%をこれら3種の作物が占めている(2018年 FAO報告)。

[3] 交雑不全
種が異なると交配を行っても受精が生じない、あるいは、交雑胚が正常に発生しないことによって次世代の個体が得られないこと。特に亜科間および属間雑種などの遠縁の種間の交配(交雑)においては、ほとんど場合で交雑不全が生じる。

[4] 染色体脱落
同種間、異種間交雑した雑種細胞内部から特定の染色体が脱落していく現象。これまでに動植物を含む様々な生物種で報告されている。

[5] FISH法
Fluorescence in situ hybridization法の略称。蛍光物質をつけたプローブ(標的とするゲノム配列と相補的な塩基配列を有するDNA配列)を標的細胞中の染色体と結合させ、蛍光顕微鏡下で目的の染色体部位を可視化する手法。

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