多くの自治体では、住民税の明細と同時に国民健康保険料(自治体によっては保険税)の明細がお手元に届くころです。
国民健康保険料(税)の額は自治体による差が大きいのですが、低所得世帯の場合軽減が適用されます。
この軽減制度ですが、年度ごとに軽減の基準が変わります。平成29年度はどうなったのでしょうか?
国民健康保険料(税)の構成
75歳未満の自営業者などが加入する国民健康保険(国保)ですが、保険料(税)の構成は下記の通りです。
・ 均等割… 1人あたり一定額の保険料(税)
・ 所得割… 所得に応じてかかる保険料(税)
自治体によっては、下記の2つを課すところもあります。
・ 平等割… 1世帯あたり一定額の保険料(税)
・ 資産割… 固定資産税額に応じてかかる保険料(税)
前年の世帯所得に応じて7割・5割・2割軽減
国保の明細で
「(所得割)算定基礎額」
「(所得割)賦課基準額」
となっている金額が所得に相当します。ここに住民税の基礎控除にあたる33万円をプラスすると「総所得金額等」になります。
また会社の社会保険に加入していても世帯主は、世帯内に国保加入者がいれば、国保の考えでは「擬制世帯主」として納付義務者となります。さらに世帯所得の対象になることに注意してください。
世帯所得とは
になります。なお、公的年金受給者に対しては総所得金額等から15万円差し引くことになります。
「総所得金額等」に関しては「確定申告によって自分の受ける社会保障はどう変わってくるのか(2)~基準となる所得~」で詳しく触れています。
この世帯所得に応じて、国保の均等割・平等割が減額されます。7割・5割・2割の三段階あります。
7割軽減
世帯所得 ≦ 33万円
が基準ですが(これは改正されていません)、5割・2割軽減は基準額がもう少し高くなります。
5割・2割軽減の改正点
平成28年度までは、軽減の基準が下記の通りでした。
5割軽減
世帯所得 ≦ 33万円 + 26.5万円 × 加入者数
2割軽減
世帯所得 ≦ 33万円 + 48万円 × 加入者数
平成29年度は、下記の通りになります。
5割軽減
世帯所得 ≦ 33万円 + 27万円 × 加入者数
2割軽減
世帯所得 ≦ 33万円 + 49万円 × 加入者数
上限が増えましたので、対象者が拡大されることになります。
なお、加入者数に関しては擬制世帯主・同一世帯の後期高齢者医療保険加入者(75歳時に国保から移行した高齢者)も含みます。
軽減適用上の注意点
軽減に関して特段届出は必要無く、住民税の所得に基づき要件にあてはまれば、軽減後の保険料(税)納付書が送られてきます。
もっとも確定申告・住民税申告が影響しますので、これらの申告の仕方には気をつける必要があります。
よく似た国民年金保険料の一部免除については、こちらの記事をご参照ください。
こちらの制度と異なる点
(1)国民年金の免除が本人・世帯主・配偶者それぞれの所得で判定するのに対して、国保の軽減は対象者全員の所得の合計で判定する
(2) 国民年金の一部免除では、医療費控除などの所得控除が考慮されるが、国保の軽減では一切考慮されない
(3) 国保の軽減では申請不要だが、国民年金の一部免除は申請が必要
ポイントを説明
(1)に関しては、国民年金においては3者それぞれで判定要件を見て、全員が要件にあてはまれば一部免除になるということですが、国保では世帯全員で足して1回判定することになります。
・ 配偶者Bさん
・ 世帯主Cさん
3人の総所得金額等がそれぞれ
・ 13万円
・ 60万円
であれば(全員、医療費控除等の所得控除は0円とします)、全員が国民年金保険料4分の3免除の要件を満たし、Aさんは保険料を4分の1だけ払うことになります。
この3人が全員同じ世帯の国保加入者とした場合、軽減を考える上での世帯所得は113万円となります。
平成28年度の基準では、5割軽減は112.5万円以下、2割軽減は177万円以下ですので、2割軽減が適用されます。
これが平成29年度の基準では、5割軽減は114万円以下、2割軽減は180万円以下ですので、5割軽減が適用されます。
(2)ですが、国保の軽減では(そもそも保険料計算でも)医療費控除などを申告しても意味が無いということです。
しかし、対象者の「総所得金額等」を引き下げる努力をすることに意味はあります。
過去3年の繰越損失があれば、総所得金額等においては相殺できます。自営業者であれば、青色申告を行うことにより繰越損失との相殺が可能です。
上場株式等の譲渡損失があれば、損失が生じた年から相殺し切るまで(最長3年間)確定申告しておきましょう。(執筆者:石谷 彰彦)