物理学者でありながら、随筆家や俳人でもあった寺田寅彦さんが残した、「天災は忘れた頃にやってくる」という有名な言葉があります。
あえて説明する必要はないかと思いますが、「地震や台風などの天災は、その被害の恐ろしさを忘れた頃に、再びやってくるので、これらがいつやってきても大丈夫なように、日ごろから対策をしておきない」という意味の言葉です。
ただ近年は東日本大震災や熊本地震などの大きな地震が、頻繁に発生しており、少なくとも地震に関しては、忘れた頃にやってくるものではなくなっております。
それにより地震への対策は急速に進み、例えば地震保険の加入率は、右肩上がりに伸びているのです。
阪神・淡路大震災が発生した時の地震保険世帯加入率はわずか9%
日本損害保険協会が発行している、「ファクトブック2016日本の損害保険」によると、1995年に阪神・淡路大震災が発生した時の地震保険世帯加入率は、全国平均で9%しかありませんでした。
しかもこの地震による主な被害があった兵庫県の、地震保険世帯加入率は全国平均より更に低く、わずか2.9%でした。
そのためこの時に地震保険から支払われた保険金は、783億円に止まっております。
東日本大震災が発生した時の地震保険世帯加入率は23.7%まで上昇
阪神・淡路大震災の被害を通じて、地震への対策が必要であるという意識が、全国的に高まっていきました。
また1996年1月に地震保険の加入限度額が引き上げされ、建物が5,000万円(以前は1,000万円)、家財が1,000万円(以前は500万円)になりました。
こういった影響により、2011年に東日本大震災が発生した時の地震保険世帯加入率は、全国平均で23.7%まで上昇していたのです。
そのためこの時に地震保険から支払われた保険金は、約1兆3,113億円に達しました。
熊本地震が発生した時の地震保険世帯加入率は29.5%と更に上昇
2011年に東日本大震災が発生してから5年後の2016年には、熊本地震が発生しました。
阪神・淡路大震災よりも多くの命が犠牲になった東日本大震災を通じて、地震への対策が必要であるという意識は、更に高まっていったのです。
そのため熊本地震が発生した時の地震保険世帯加入率は、全国平均で29.5%まで上昇しており、この時に地震保険から支払われた保険金は、2016年8月31日現在で、3,573億円に達しております。
地震保険世帯加入率の上昇で住宅を失うリスクは減少しつつある
このように近年は大きな地震が多く、その被害により地震への対策が必要であるという意識が高まり、地震保険世帯加入率は右肩上がりに伸びております。
つまり忘れた頃にやってくるはずの地震が、頻繁に発生することによって、それに対する対策が急速に進んでいるというのが、最近の傾向なのです。
こういった傾向は大きな地震が発生するたびに続いていくと予想され、そうなると地震によって住宅を失うリスクは、現在より減少していくのではないでしょうか?
地震だけでなくインフレも忘れた頃にやってくる
地震に関しては上記のように、忘れた頃にやってくるものではなくなっているため、それに対する対策も進んでおります。
しかしインフレ(物やサービスの値段が全体的に上がり、お金の価値が下がり続ける現象)はまだ、忘れた頃にやってくるものであり、それに対する日ごろからの対策も、あまり進んでいるようには見えないのです。
日本では1990年代の後半あたりから、デフレ(物やサービスの値段が全体的に下がり、お金の価値が上がり続ける現象)が続いており、デフレであることが当たり前になっております。
そのためインフレは怖いから、インフレ対策を進めた方が良いと言っても、共感してくれる方は少ないと思うのです。
しかしデフレが約20年も続く日本が珍しい国なのであり、歴史的に見ると日本を含めた多くの国が、インフレに苦しんできたのです。
少子高齢化による労働力人口の減少がインフレを発生させる
これからの日本でインフレが発生する可能性が高いのは、少子高齢化により労働力人口(15歳以上で労働する能力と意思をもつ者の人数) が、減少に向かうからです。
つまり労働力人口が減少すると、現在より賃金を引き上げしなければ、企業は従業員を集められなくなり、賃金を引き上げた分は、商品やサービスの値段に反映せざるを得なくなるので、インフレが発生するのです。
また労働力人口が減少すると、物づくりに従事する人間が少なくなって、それによる物不足が発生し、需要と供給の関係から、インフレが発生するという考え方もあります。
インフレ抑制のため変動型の住宅ローンの金利が引き上げされる
インフレが発生すると中央銀行(日本であれば「日銀」)は、政策金利を引き上げ、預金金利や銀行の貸出金利が上昇するように誘導します。
この理由として預金金利が上昇すると、個人は消費より預金にお金を回すようになり、また貸出金利が上昇すると、企業は設備投資を控えるようになり、インフレが抑制されるからです。
銀行の貸出金利の上昇は、もちろん個人にも影響を与え、変動型の住宅ローンを組んでいる場合には、その金利が引き上げされます。
インフレによって住宅を失うリスクに備える時代がやってくる
今では考えられないことですが、バブル景気のピークの時に変動型の住宅ローンの金利は、8.5%に達したことがありました。
またバブル景気の時代を除いても、4~6%であることが珍しくなく、もしこの程度まで金利が引き上げされた場合には、返済額が大幅に増えてしまいます。
そうなると住宅ローンを返済できなくなり、住宅を失うリスクが増加するのです。
このようなリスクを減少させるには、変動型の住宅ローンより金利が高かったとしても、全期間固定型の住宅ローンを選択すべきだと思うのです。
インフレへの日ごろからの対策が、地震への日ごろからの対策と同じように、リスクが現実のものになった時に明暗を分ける時代が、すぐそこまで来ているのではないでしょうか?(執筆者:木村 公司)