上場株の取引をされている方はご存じでしょうが、
という話があります。
「損益通算」の制度
所得税や住民税の課税対象になる個人の所得には10種類ありますが、異なる所得同士で損失と所得を相殺するいわゆる「損益通算」の制度があります。
この損益通算はどんな形でもできるわけではありませんし、平成28年も改正点がありましたので正しく理解しましょう。
副業の損失(雑所得)は通算できない
損失が他の所得と通算できるもの
下記の所得に関しては、発生した損失が他の所得と通算できます。(原則的な損益通算)
・事業所得
・不動産所得(土地に対する借入金利子等を除く)
・譲渡所得
・山林所得
副業などによる雑所得や満期保険金・解約辺戻金などの一時所得は、損失・元本割れがあっても他の所得と通算できません。
ただし元本割れの解約辺戻金とそうでない満期保険金の損失・所得を通算するようなこと(同種同士の通算)は可能です(内部通算)。
譲渡所得の損益通算に関して
また譲渡所得は、損益通算できるものが限られています。総合課税の譲渡所得に関しては、生活に通常必要のない資産(ゴルフ会員権・金地金など)は損益通算の対象外です。
分離課税の譲渡所得で損益通算できるのは、
・居住用財産に係る譲渡損失
・株式等の譲渡所得
です。
株式等の譲渡所得に関しては独特の損益通算方式があるのですが、改正点もあるため後述します。
損益通算の方法:全部そのまま足し合わせるわけではない
原則的な損益通算には順序があります。
事例で考えましょう。
・ 不動産所得 △130万円
・ 給与所得 110万円
・ 雑所得副業の収入 5万円で必要経費 10万円
・ 譲渡所得 △5万円(居住用財産の譲渡損失)
・ 一時所得 25万円
下記の通りに計算します。
第一次通算
山林・退職所得以外の8所得でグルーピングして合算
経常所得グループ
利子所得 0円+配当所得 10万円+事業所得 0円+不動産所得 △130万円+給与所得 110万円+雑所得 0円=△10万円
譲渡一時グループ
譲渡所得 △5万円+一時所得 25万円=20万円
第二次通算
△10万円+20万円=10万円
合計所得金額
10万円×1/2=5万円となります(譲渡一時グループがプラスのため、最後に1/2をかけています)。
第二次通算でもマイナスの場合は、山林所得や退職所得から差し引くことができます。
青色申告で事業の損失が過去3年以内に生じている場合
合計所得金額からマイナスして総所得金額等を求めます。
このような形で計算した合計所得金額や総所得金額等が、社会保障制度における所得制限で審査されます。
合計所得金額と総所得金額等については、こちらの記事を参照してください。
株式等の譲渡所得の場合:平成28年分の改正点
株式等の譲渡所得等に関しては、損益通算の仕方が平成28年分で変わりました。
株式等は大きく「上場株式等」と「一般株式等」に分かれ、この2者をまたいで損益通算はできなくなりました。
「上場株式等」
平成27年以前の範囲に加えて、(国債や上場企業社債などの)特定公社債が加わりました。
上場株式等の譲渡損失と配当所得に加え、特定公社債等の利子/配当所得・譲渡損失との間でも損益通算が可能になりました。
「一般株式等」
非上場株式や私募債などが該当します。
なおこれは平成27年以前からの話ですが、上場株式等の配当所得は、
・「総合課税」を選択すると、上記事例のような形で損益通算
・「申告分離課税」を選択すると、上場株式等の譲渡損失とのみ損益通算
となります。(執筆者:石谷 彰彦)