年金が生活費を賄えるほど十分にもらっていない方もたくさんいらっしゃいますし、法改正でますます減るのでは、と憶測も呼んでいます。
だからこそ、これからの年末調整で扶養に当てはまるのであれば、きちんと扶養として申告しておいたほうがいいですし、そうしないと思わぬ社会保障への影響も考えられます。
年金受給者の扶養の範囲
合計所得金額38万円以下・同一生計(お財布が一緒)の親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)を税法上の扶養親族・控除対象配偶者とできます。
公的年金以外の所得がない場合であれば、年金の年額で判定できます。
公的年金等控除額の下限が60歳~64歳では70万円、65歳以上では120万円になります。
よって64歳までであれば年額108万円、65歳以上では年額158万円以内となり、パート労働者の壁に比べると高めです。
老齢基礎年金だけなら完全に扶養の範囲内ですし、老齢厚生年金・企業年金をもらっていても場合によってはなる可能性があります。
なお生命保険会社の個人年金は公的年金等に係る雑所得ではなく、支払保険料と給付額によりその他の雑所得として計上されます。
扶養親族・老人扶養親族・同居老親等
上記の扶養の要件にあてはまり、12月31日時点で70歳未満なら扶養親族、70歳以上であれば老人扶養親族(配偶者であれば老人控除対象配偶者)となります。
所得控除額が違い前者は、所得税38万円・住民税33万円、後者は所得税48万円・住民税38万円と異なります。
70歳以上の老人扶養親族のうち、常に同居していて本人か配偶者の直系尊属(父母・祖父母・曽祖父母等)であれば「同居老親等」に該当し、控除額が58万円(住民税45万円)とさらにプラスされます。
逆に扶養親族や老人扶養親族であれば同居は必ずしも要件とされていません。
病院の長期入院は同居とみなされますが、老人ホームに入ってしまうと同居とみなされない点も注意が必要です。
年末調整で提出する扶養控除等(異動)申告書の中に「同居老親等・その他」と記載された欄がありますので、70歳以上の場合該当する欄に〇をつけましょう。
「無年金者を扶養」と申告しない危険性
扶養として申告しない場合は、税金を高く払うというのはわかるはずです。しかし無年金者を扶養としない場合はそれ以外の損を被る危険性もあります。
無年金者が確定申告または住民税申告していればいいのですが、していない場合は住民税未申告者の扱いとなります。
未申告扱いで損するのは、高額療養費の計算などです。70歳未満・70歳~74歳・75歳以上で扱いは異なりますが、所得に応じて自己負担額が上昇します。
前期高齢者に関しては未申告者が最上位の所得者として扱われ、住民税非課税者と比べてあるひと月の自己負担上限額が、万単位で変わってきます。高齢者にとっては結構きつくなることも考えられます。
なお低年金者の場合は、日本年金機構等の年金支払者が「公的年金等支払報告書」を、年金受給者お住いの自治体に提出します。この場合は所得が把握されますので未申告扱いとはなりません。
民間保険会社の個人年金だけの場合は、申告しなければ未申告扱いになりますし、場合によっては申告漏れで税務署から連絡が来ます。
平成29年10月からは無年金者が救済される方向へ
これまで受給資格期間は25年必要とされていました。
つまり25年間国民年金・厚生年金・共済年金のいずれかに加入し、かつ国民年金の場合は保険料を納付している(もしくは免除を受けているか、いわゆる合算対象期間が含まれている)という要件を満たさない場合は、無年金者になってしまいました。
これを10年に短縮するための改正法案が、平成28年の臨時国会で可決成立しました。
無年金者約90万人のうち約64万人は29年9月分から(入金は29年10月)もらえるようになるとされています。
これは一部無年金者の未申告状態を解消して高額療養費申請などにも影響を及ぼし、また所得をマイナンバーで管理するという副次的効果ももたらします。
ただし、扶養の範囲を外れる程はもらえないと思われます。その後も扶養として申告しておくに越したことはありません。(執筆者:石谷 彰彦)