
政府が2024年12月2日に健康保険証を廃止した主な理由は、マイナ保険証(健康保険証の利用登録を済ませたマイナンバーカード)に一本化するためです。ただ廃止日から最長1年の経過措置期間が終了するまでは、マイナ保険証を使える方でも、健康保険証を使っても良いのです。
またマイナンバーカードを取得していないなどの理由で、マイナ保険証を使えない方に対しては、経過措置期間が終了するまでに資格確認書が交付されます。2025年中盤辺りになると、経過措置期間が終了する健康保険証が増えるため、マイナ保険証への一本化が進む見込みでしたが、見込み通りにいかない可能性が出てきました。
その理由としては一部の保険者(公的医療保険の運営主体)が、マイナ保険証を使える方も含めた全加入者に対して、資格確認書を交付すると発表したからです。こういった措置が実施される理由や、保険者の一種である健康保険組合が鍵になりそうな理由は次のようになります。

資格確認書を全加入者に交付する保険者の例
自営業者、農業者、フリーランス、無職の方と、その親族などが加入する国民健康保険の保険者は、自治体(市区町村、都道府県)と国民健康保険組合になります。資格確認書を全加入者に交付すると発表した国民健康保険の保険者は、東京都の渋谷区と世田谷区です。
同様の措置は各都道府県の広域連合が保険者の、後期高齢者医療(75歳以上の方や、一定の障害があると認定された65歳以上75歳未満の方が加入)でも実施されます。これらの保険者の加入者は経過措置期間が終了した後も、当面(例えば後期高齢者医療は2026年7月末まで)の間は、マイナ保険証と資格確認書を状況によって選択できます。
そのため経過措置期間が終了した後に、マイナ保険証に一本化するという政府の目標は、一部の保険者では延期が確定したのです。また追随する保険者が次々に現れたら、延期がドミノ倒しのように広がっていく、マイナ保険証延期ドミノが起きるかもしれません。
資格確認書を全加入者に交付する理由
医療機関で資格確認書を使用する際は、健康保険証と同じように受付に提示します。一方でマイナ保険証を使用する際は、顔認証付きカードリーダーにマイナ保険証を置いた後に、次のような方法で本人確認を実施します。
顔認証付きカードリーダーが撮影した顔写真と、マイナ保険証のIC チップから読み取った顔写真のデータを照合する
マイナ保険証のIC チップに搭載された、利用者証明用電子証明書の暗証番号(数字4桁)を入力する
本人確認が済むと医療機関は、各患者の自己負担の割合や、加入する保険者名などがわかる資格情報を、支払基金・国保中央会からオンラインで取得します。これにより健康保険証を提示した時と同じように、1割~3割の自己負担で診療を受けられるのです。
ただIC チップの破損や顔認証付きカードリーダーの不具合などにより、本人確認が上手くいかない場合があります。こういった時に保険者から交付された資格情報のお知らせを、マイナ保険証とセットで医療機関の受付に提示すると、1割~3割の自己負担で診療を受けられます。
そのため市区町村としては本来であれば、マイナ保険証を使える方には資格情報のお知らせを交付し、マイナ保険証を使えない方には資格確認書を交付するのです。しかし国民健康保険の全加入者を、マイナ保険証を使える方と使えない方に分けるシステムを作るのは、市区町村にとってコストがかかるだけでなく、誤交付すると問題が起きます。
例えばマイナ保険証を使えない方に、単体では使用できない資格情報のお知らせを誤交付した時には、特に問題が起きると思います。また2025年度は電子証明書の有効期限を迎える方が多いので、更新忘れでマイナ保険証を使えない方が増える点も、一部の市区町村が全加入者に資格確認書を交付する理由のようです。
一方で後期高齢者医療の全加入者に資格確認書を交付する理由のひとつは、75歳以上の方はマイナ保険証の利用率が低いからのようです。
健康保険組合の現状がわかる3種類のニュース
会社に雇用される方などが加入する健康保険の保険者は、次のような2種類に分かれます。
【全国健康保険協会(47都道府県ごとに支部がある)】
主に中小企業に勤務する会社員と、その親族が加入する協会けんぽを運営しており、都道府県ごとに保険料率が違うなどの特徴があります。
【健康保険組合(2025年4月1日時点で1,372組合)】
企業が単独で設立、または同種同業の複数の企業が共同で設立し、主に大企業に勤務する会社員と、その親族が加入する組合健保を運営しています。
2025年前半にインターネットで検索していたら、後者の健康保険組合の現状がわかる、次のような3種類のニュースを見つけました。
(1)資格確認書の交付条件に関するニュース
マイナ保険証を使えない方には、原則的には申請なしで資格確認書が交付されますが、一部の健康保険組合は申請が必要という誤った方針にしていたのです。
また一部の健康保険組合は資格確認書を再交付する時の手数料を、マイナンバーカードを再交付する時の約10倍となる、1万円に設定しているというニュースもありました。
(2)資格確認書の有効期限に関するニュース
資格確認書の有効期限は5年以内の期間で各保険者が設定しますが、一部の健康保険組合は3か月という非常に短い期間に設定しているそうです。
(3)健康保険組合の財政に関するニュース
約8割の健康保険組合(1,372組合のうち1,043組合)は、2025年度の予算が赤字になる見通しなのです。後期高齢者医療の医療給付の財源は、公費が約5割、現役世代が拠出した支援金が約4割、後期高齢者医療の加入者が納付した保険料が約1割になります。
約8割の健康保険組合が赤字になる見通しの主な理由は、支援金の負担が年々増えているからのようです。財政が厳しくなった健康保険組合は、例えば保険料率を引き上げして、加入者や事業主から徴収する健康保険の保険料を増やすのです。
また全国健康保険協会よりも保険料率が高くなると、健康保険組合を存続する必要性が薄れるため、解散して全国健康保険協会の各支部に移行する場合があります。
マイナ保険証延期ドミノの鍵になるのは健康保険組合

一部の健康保険組合が資格確認書の交付条件を厳しくしたり、有効期限を短くしたりするのは、マイナ保険証を使って欲しいからだと思います。その主な理由としては、資格確認書を交付するためのコストが減るため、赤字の削減になるからです。
これ以外の方法でも健康保険組合は赤字の削減に取り組んでいるため、他の保険者が全加入者に資格確認書を交付しても、簡単には追随しないと推測します。また健康保険組合が追随しなかったら、マイナ保険証延期ドミノが起きても途中で止まるため、健康保険組合が鍵になりそうだと思うのです。
健康保険組合が交付した健康保険証の経過措置期間が終了する日は、2025年12月1日という場合が多いため、この数か月前には結果がわかるはずです。