これまでの制度では年金受給権の時効が5年のため、
- 本来の受給額を受け取る
あるいは、
- 繰下げ受給するかの選択は実質70歳までにしなければなりませんでした。
今回の改正で70歳以降も安心して繰下げ待機を選択できるようになりました。
その内容について紹介します。
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これまでの制度ではどうなっていたのか?
2022年(令和4年)4月に年金の繰下げ受給の上限が70歳から75歳まで引き上げられました。
年金受給権の時効が5年なので、実質は70歳までに本来の受給額を受け取るか、あるいは繰下げ受給するかの選択をしなければならず、繰下げ受給の上限引き上げに伴う弊害がありました。
例えば、65歳から繰下げ待機して71歳になりましたが、まとったお金が必要になり繰下げ申し出しないことを選択した人がいたとします。
これまでの制度では先述の年金受給権の時効が5年のため、その人は65歳からの受給分ではなく、66歳から71歳までの受給分を一括で受け取り、それ以降は本来の年金受給額を受け取るという流れでした。
その人の本来の受給額が年額180万円だったとして時効がなければ「180万円×6年分」の1,080万円を71歳で受け取れますが、時効があるため1年分の180万円が減額されて900万円になってしいます。
この時効分を踏まえると実質70歳までにどうするかの選択をしなければなりません。
「特例的な繰下げみなし増額制度」によってどう変わるのか?
今回の制度改正によって先述の弊害が次のように是正されました。
≪画像元:日本年金機構≫
(出所:日本年金機構HP内より)
図では繰下げ申出をするときとしないときに分けて図示されております。
今回の改正の焦点は、繰下げ申出をしないときのことです。図に示されておりますように年金請求の5年前に繰下げ申出したものとみなされての計算になるというのが要点です。
先の例(図中の例と同じ)に当てはめると、年金請求の5年前の66歳の時に繰下げ申出したものとされ、65歳からの1年間繰下げとなり、受給額は8.4%増額されて年額195万円(本来の受給額は年額180万円)になります。
年金受給権の時効が5年ということは変わらないので一括で受け取れる分は増額された195万円×5年分で975万円、それに71歳以降の年金受給額も増額された195万円になります。
時効分が丸々補填できたわけではないですが、増額された年金額で残りを取り戻すイメージになります。
今回の例では7年で残りを取り戻したことになります。
この内容なら70歳以降も安心して繰下げ待機を選択できると考えられます。
この「特例的な繰下げみなし増額制度」の対象となる方は?
ただし、この制度の対象者は下記のいずれかに該当する方です。
- 昭和27年4月2日以降生まれの方(令和5年3月31日時点で71歳未満の方)
- 老齢基礎・老齢厚生年金の受給権を取得した日が平成29年4月1日以降の方
※ 令和5年3月31日時点で老齢基礎・老齢厚生年金の受給権を取得した日から起算して6年を 経過していない方
※ 80歳以降に請求する場合や、請求の5年前の日以前から障害年金や遺族年金を受け取る権利がある場合は、特例的な繰下げみなし増額制度は適用されません。
「特例的な繰下げみなし増額制度」の手続きは令和5年4月1日から可能になります。
過去分の年金を一括で受給した場合には、遡って健康保険料や介護保険料、税金(場合によっては延滞税を含む)等を納める必要がありますので、その点はご留意ください。(執筆者:CFP認定者、1級FP技能士 小木曽 浩司)