厚生年金保険に加入しながら60歳以降に働くと、「在職老齢年金」という制度により、受給する年金が減ってしまう場合があります。
例えば原則65歳になると、厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」は、減額の対象になります。
また60~64歳(生年月日や性別によって違う)になると、厚生年金保険から支給される「特別支給の老齢厚生年金」も、減額の対象になります。
一方で次のような年金は、厚生年金保険に加入しながら60歳以降に働いても、減額の対象にはならないのです。
・ 原則65歳になると、国民年金から支給される「老齢基礎年金」や、厚生年金保険から支給される「経過的加算額」
・ 一定の障害状態になった時に支給される、障害基礎年金や障害厚生年金などの「障害年金」
・死亡した時に所定の遺族に対して支給される、遺族基礎年金、寡婦年金、遺族厚生年金などの「遺族年金」
どのくらい年金が減ってしまうのかを知りたい方は、60歳以降の月給や賞与の見込額を入力すると、在職老齢年金による減額を試算してくれる、「ねんきんネット」を活用するのです。
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「基準額」について知っておく
また年金の減額が開始される、次のような金額の「基準額」について知っておくと、月給や賞与の金額を調整するなどの、何かしらの対策がとれると思います。
【60~64歳の方:基準額は28万円】
「月給+直近1年間の賞与の総額÷12」と、「特別支給の老齢厚生年金÷12(年金の月額)」の合計が28万円を超えると、在職老齢年金による減額が始まります。
【65歳以上の方:基準額は47万円】
「月給+直近1年の賞与の総額÷12」と、「老齢厚生年金÷12(年金の月額)」の合計が47万円を超えると、在職老齢年金による減額が始まります。
以上のようになりますが、法改正により2022年4月からは、60~64歳も基準額が47万円になります。
また賃金や物価の変動に応じて、基準額を定期的に見直しするというルールになっているため、将来的には47万円でなくなる可能性があります。
【裏技1】雇用契約から業務委託契約に切り替える
在職老齢年金によって年金が減額されるのは、厚生年金保険に加入しながら働く場合になります。
そのため厚生年金保険に加入しない、パートやアルバイトなどの非正規雇用者として働けば、年金は減額されないのです。
ただ労働時間や賃金月額が所定の基準を超えると、非正規雇用者でも厚生年金保険に加入するため、できるだけ長時間働いて収入を得たいという場合には、この方法を選択できません。
このジレンマを解消する方法のひとつとして、よく紹介されているのが、雇用契約(正社員、非正規雇用者)から業務委託契約(フリーランス、個人事業主)に切り替えて、仕事を続けるという裏技です。
なぜ業務委託契約が良いのかというと、厚生年金保険に加入する所定の基準を超えるくらいの、長時間労働を行ったり、収入を得たりしたケースでも、厚生年金保険には加入しないからです。
60歳以降に業務委託契約で働くというのは、あまり一般的ではないと思いますが、これからは一般的になる可能性があります。
その理由として2021年4月1日から、65歳から70歳までの就業機会の確保が、企業の努力義務になりました。
また65歳から70歳までの就業機会を確保するために、企業が実施すべき「高年齢者就業確保措置」には、次のような雇用以外の措置も含まれているからです。
【雇用に関連した措置】
・ 70 歳までの定年年齢の引き上げ
・ 定年制度の廃止
・ 70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度)の導入
【雇用以外の措置】
(これらの措置を導入する場合、労働者の過半数を代表する労働組合などの同意が必要になります)
・ 70歳まで継続的に「業務委託契約」を締結する制度の導入
・ 事業主が自ら実施する社会貢献事業、または事業主が委託、出資(事務スペースの提供なども含む)する団体が実施する社会貢献事業に、70歳まで継続的に従事できる制度の導入
ただ業務委託契約で働く場合は原則的に、労災保険や雇用保険には加入しないため、業務災害でケガをした時や失業した時などに、保険給付を受けられません。
そのため労災保険に任意加入して自分で保険料を支払ったり、失業期間を乗り切るための預貯金を貯めたりする必要があるため、雇用契約の時よりお金がかかります。
また業務委託契約で働く場合は原則的に、勤務先で年末調整を受けられないので、所得が一定額を超えた時には、自分で所得税の確定申告をする必要があります。
こういった点から考えると、業務委託契約で働くという裏技が合っているのは、雇用契約の時より高い収入を得られる見込みがある方、または税金に関する知識が多少はある方だと思います。
【裏技2】給与の一部を退職金で受け取る
60歳以降に働いても年金が減らない裏技として、業務委託契約の次によく紹介されているのは、給与の一部を退職金で受け取るという裏技です。
それは例えば月給40万円の方が、月給を30万円に引き下げた後に、残りの10万円を企業内部、または中小企業退職金共済に積み立て、退職する時に貯まった積立金を、退職金として受け取るというものです。
なぜこのような裏技が有効なのかというと、月給が30万円になれば、厚生年金保険に加入しながら働いたとしても、在職老齢年金によって年金が減額する可能性が低いからです。
また月給の金額が下がると、雇用保険や社会保険(健康保険、厚生年金保険)の、保険料の約半分を負担している勤務先は、以前より負担が軽くなるので、従業員だけでなく勤務先にもメリットがあります。
ただ大企業で働いている場合、自分だけ特殊な取り扱いをしてもらうのは、おそらく難しいうえに、大企業は中小企業退職金共済を利用できないため、
この裏技は大企業で働いている方には、あまり合わないと思います。
一方で従業員の少ない中小企業で働いている場合、勤務先が柔軟に対応してくれるかもしれないので、この裏技が合っているのは、中小企業で働いている方になります。
【裏技3】副業で小規模の個人事業を始める
副業で小規模の個人事業を始めることは、60歳以降に働いても年金が減らない裏技になると思うのです。
その理由として従業員数が5人未満の個人事業は、社会保険の適用事業所にならないため、副業で厚生年金保険に加入する所定の基準を超えるくらいの、長時間労働を行ったり、収入を得たりしたケースでも、厚生年金保険には加入しません。
また本業で厚生年金保険に加入しても、副業では加入しない場合、47万円という基準額を超えるか否かは、本業の月給、本業の賞与、年金の月額のみで判定されるため、副業については何時間働いても、年金が減らないからです。
ただ個人事業で成功するには、スキルや資格だけでなく、経理や営業などの知識が必要になります。
そのため個人事業を活用した裏技が合っているのは、これらを身に付ける意欲がある方だと思うのです。
なお個人事業が難しい方は他の企業などで、パートやアルバイトの副業をすれば良いと思います。
ただ副業の労働時間や賃金月額が増えると、副業の方でも厚生年金保険に加入する場合があるため、在職老齢年金よる年金の減額を回避したい方は、労働時間や賃金月額が増えすぎないように、注意する必要があります。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)