
相続などをきっかけに、当事者の意思によらず親族間で不動産を共有することになるケースは多くあります。そうした場合にそのまま放置してしまうと、親族間で関係が悪化した時に処分や適切な管理ができなくなってしまうといったリスクがあるため、親族間で話し合って共有名義を単独名義にしたり、相続人全員の同意をもって売却したりするなど、先々のリスクを見据えて早目の対応を行うことが最も重要です。
本コラムでは、不動産の共有に関する基本的な知識や、共有不動産を売却する方法・流れ、売却時の注意点を詳しく解説します。
共有名義の不動産でも持分は売却できる

共有名義の不動産とは、建物や土地などの不動産を複数の人が共同で所有する形態であり、それぞれの所有者は自分の持分に応じた権利を持っています。共有名義の不動産は、不動産全体を売却する場合には共有者全員の同意が必要ですが、自分の持分のみを売却する場合には、少なくともルール上は共有者の同意なく売却することが可能です。
例えば兄弟姉妹や配偶者と不動産を共同で所有していたとしても、自分が所有している持分については、法律上、第三者に売却する権利があります。これは民法上の権利として認められており、共有者全員の合意がなくても、自分の持分を単独で処分することができます。

しかし実際に持分を売却するとなると、いくつかの注意点があります。まず、共有状態のままでの持分売却は、買い手が現れる可能性がきわめて低いことに加え、もし現れたとしても売却価格は相場よりもかなり低くなります。
これは、共有名義の不動産は共有者の同意がなければ物件全体を自由に使ったり処分したりすることができないため、全くの第三者が持分を取得しても意思決定が複雑になり、取得した不動産を利用できる可能性が低いためです。
また、他の共有者との関係が悪化している場合や、売却に反対されている場合は、トラブルに発展する可能性もあります。
さらに、持分売却には法的な手続きや税金の問題も関係してきます。譲渡所得税や登記費用などの計算や手続きが複雑になる場合もあるため、事前に税理士や司法書士などに相談してシミュレーションを行うことが大切です。
そもそも共有名義とは?基本的な知識を確認
不動産の「共有名義」とは、1つの不動産に対して複数人が所有権を持っている状態を指します。例えば夫婦や相続人が共同で所有する場合です。共有者にはそれぞれ「共有持分」と呼ばれる権利の割合が存在し、その割合に基づいて不動産の利益や義務が分配されます。不動産の一部を共同で所有する権利を持つ人を「共有持分権者」と言います。
共有名義での不動産投資においては、意思決定の自由度が制限される場面も多く、持分割合や同意の要否といった点を理解しておくことが非常に重要です。
共有名義と単独名義の違い
単独名義とは、1人の所有者が不動産の名義人となり、その不動産に関するすべての決定を単独で行える状態をいいます。単独名義の不動産は自由に利用・処分することができ、例えば不動産の売却や賃貸、リフォーム、担保設定などを他人の許可なく自分の判断で進めることが可能です。
一方で共有名義とは、複数の人が所有者となっており、それぞれが一定の「持分」をもっている状態を指します。この場合、一部の共有持分権者が勝手な行為をすれば他の共有持分権者の利益を害してしまうこととなるため、行為ごとに単独でできる場合や全員の同意が必要な場合、もしくは多数決によって決定する場合があります。
いわば、共有名義の不動産とは株式会社のようなもので、持分権者は株主の1人のようなものといえるでしょう。
共有持分とは?持分割合の決まり方
共有名義における持分とは、各共有者が不動産に対してどれだけの権利を持っているかを示す割合のことです。
この持分割合は、物件を購入する際の出資額に基づいて決定されるのが一般的です。相続によって共有名義になる場合には、それぞれの法定相続分に基づいて持分が分けられます。例えば父が死亡し、母と子2人が相続人である場合、法定相続分に従えば、母の持分が50%、子2人はそれぞれ25%の持分となります。
不動産の登記簿には持分割合が明記されており、法的な効力をもちます。利益の分配や固定資産税の負担、売却時の収益分配などもこの割合に従って行われます。そのため、共有名義の不動産を売却する際には、まずは自分がどれくらいの持分をもっているかを登記簿で把握することが非常に重要です。
他の共有者の同意が必要な行為・不要な行為
共有名義の不動産では、どのような行為に他の共有者の同意が必要となるかを理解しておかなければなりません。民法では、共有物に関する行為を「変更・処分行為」「管理行為」「保存行為」に分けており、それぞれで求められる同意の範囲が異なります。
行為形態 | 同意の要否 |
---|---|
変更・処分 | 共有者全員の同意が必要 |
管理 | 各共有者の持分の価格に従い、その過半数の同意が必要 |
保存行為 | 各共有者が単独で行うことができる |
「変更・処分行為」とは、物件全体を売却したり、抵当権を設定したりする行為などが該当し、共有者全員の同意が必要となります。変更・処分行為にあたる行為は、他の持分権者に与える影響が非常に大きいため、特に厳しい条件が課されているのです。
「管理行為」は、不動産を適正に管理したり改良したりするための行為で、賃貸借契約の締結・解除、火災保険の加入などが該当します。これには、持分に基づく過半数の共有者の同意が必要です。
「保存行為」とは、共有物の現状維持や権利保全を目的とする行為であり、各共有者が単独で行うことができます。例えば、雨漏りの応急処置や不法占拠者の追い出しなどが該当し、各持分権者が単独で行うことができます
共有名義の不動産を売却する方法

共有名義の不動産を売却する際には、どの方法を選ぶかによって必要な手続きや得られる金額、かかる手間が大きく異なります。
事前に各方法のメリット・デメリットを理解し、最適な選択肢を見極めるようにしましょう。
自分の持分だけ売却する(持分売却)
共有名義の不動産において、自分の持分については、他の共有者の同意を得なくても第三者に売却することがルール上は可能です。ただし実務上、持分の売却はきわめて困難であり、基本的にあまり現実的ではありません。
前述した通り、共有名義の不動産は自由に利用・処分することができず、トラブルに発展するリスクを抱えているため、市場での需要が低くなる傾向にあります。そのため、買い手が現れない可能性が高く、現れたとしても思うような価格で売却できないことがほとんどです。
共有者同士で持分を売買する(持分売買)
共有名義の不動産を売却する際に、共有者同士で話し合い、他の共有者に自分の持分を買い取ってもらう方法があります。例えばある不動産を2人で共有しており、それぞれの持分が50%ずつである場合に、いずれか一方の持分を売却して単独名義とするような場合です。
共有者同士で行う持分売買は身近な相手同士での話し合いとなることが多く、比較的現実的でスムーズな売却方法とされています。ただし、売却にあたっては価格の交渉が必要となるため、交渉をきっかけに関係性が悪化してしまうこともあります。
また、もともと共有者との人間関係が悪化していた場合や、相手方に金銭的な余裕がない場合には、持分売買が成立しない可能性があります。
共有者全員で不動産を売却する
共有名義の不動産をもっとも高値で売却できる可能性があるのは、共有者全員の合意を得て、不動産全体を一括で売却することです。そうすることで、その不動産は単独名義の商品として市場に展開されることとなり、一般的に、持分を売却する場合と比べて市場からの評価額が高くなり、買い手を見つけやすくなるほか、自分の持分のみを売却する場合と比べ取引価格も高くなります。
ただし不動産全体を一括で売却するには、共有者全員の同意が必要になります。1つの不動産を複数人で所有している場合には、全ての共有者が同じタイミングで売却に同意することが必要なため、意見の食い違いや資産状況、生活背景の違いによって、話がまとまりにくいケースもあります。
分筆して売却する(土地の場合)
土地が共有名義になっている場合、条件が整えば土地の分筆(ぶんぴつ)を行い、それぞれの持分を単独名義に変更し、個別に売却するという方法もあります。分筆とは、1つの土地を物理的に複数の区画に分け、それぞれを独立した不動産として扱う手続きのことを指します。
分筆ができれば、元々共有者が存在した土地が自分の土地となり、共有による制限から解放され自由に売却できるようになります。
ただし分筆を行うためには、その土地の面積や形状が分筆に適していることが前提となります。また、測量や土地の査定、登記などの手続きが必要となるほか、共有者の過半数の同意が必要です。
また、分筆後の各土地の面積がその周辺に流通している不動産と比べて小さくなり過ぎてしまう場合などは、その土地に対する市場からの需要が見込めないケースもあるため、注意が必要です。
共有持分を売却する場合の流れ
ここまで解説したように、共有名義の不動産を売却する際には、通常の不動産取引に加えて異なるポイントにも注意しなければなりません。
以下からは、共有名義の不動産について、単独名義で持分を売却する場合の流れや注意点を解説します。
他の共有者への事情説明
持分を売却する場合も、必ず他の共有者に事情を説明しましょう。法的にいえば持分権者は各自の持分を自由に売却することが可能ですが、トラブルを避けるためにも、まずは売却の意向を伝えることが大切です。
他の共有者がその持分を買い取りたいと考えている場合など、外部の第三者へ売却するよりもスムーズに取引が進む可能性もあります。
購入希望者の募集
他の共有者による買取が成立しなかった場合は、第三者への売却を検討することになります。このとき、個人で買主を見つけることは難しいため、共有持分の買い取りを専門としている「持分買取業者」に依頼することが一般的です。
もっとも、共有名義の不動産は市場からの購入ニーズがかなり限定的なものとなるため、価格面での妥協が必要となる可能性を理解しておきましょう。
不動産売買契約の締結
購入希望者が決定したら、不動産売買契約の締結に進みます。共有持分の売買契約は通常の不動産売買契約とは異なり、持分のみが対象となるため、契約書の内容も特殊な構成になります。例えば、物件の使用権や管理に関する取り決め、他の共有者との関係性など、注意すべき点が多く含まれます。
そのため、共有持分の売買契約にあたっては、不動産取引に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。また、他の共有者に売却する場合などでも、のちに「言った・言わない」という紛争になる可能性もあるため、仲介会社を入れて契約することをおすすめします。
所有権移転登記・抵当権抹消登記
売買契約が完了したら、最後に法務局で所有権移転登記手続きを行います。また、売却する共有持分に抵当権が設定されている場合には、同時に抵当権の抹消登記を行う必要があります。抵当権の抹消登記を行うには借入を事前に完済することが必要となる点にも注意しましょう。登記手続きは自力で行うことも可能ではありますが、専門的な知識が必要となるため、司法書士に依頼することが一般的です。
登記については、司法書士や金融機関との調整、書類の取得など費用だけでなく一定の手間もかかりますが、登記手続きを怠ると売却後に買主や第三者との間でトラブルに発展する可能性があるため、必ず登記手続きを行うようにしましょう。
共有名義の不動産を売却する際のトラブル・注意点

共有名義の不動産を売却する際には、単独名義の売却とは異なるリスクや注意点が多くあります。法的な制約だけではなく、感情面でのトラブルも起きやすいため、慎重に対応しなければなりません。
以下では、共有名義の不動産売却における主なトラブル・リスクと、その対応方法について解説します。
共有者が売却に反対することがある
共有名義の不動産全体を売却するためには、共有者全員の同意が必要となるため、他の共有者のうち一人でも反対している場合には成立しません。実際には、「売却自体には同意しているものの、時期や金額で折り合いがつかない」といったトラブルもよく起こります。
このような場合は、他の共有者の意見や事情を丁寧に聞き取りながら、売却の必要性やメリットを根気強く説明して理解を得る努力が重要です。無理に売却を進めようとすれば関係性が悪化し、さらに交渉が難しくなるため、まずは冷静に話し合いの場を設けることが大切です。
他の共有者との関係が悪化する可能性がある
共有名義の不動産においても、自分の持分だけを第三者に売却することは可能ではあるものの、このような行動は他の共有者との関係を悪化させる大きな原因にもなります。特に、事前に相談もなく持分を外部の第三者に売却した場合、他の共有者から「裏切られた」と感じられるなど、感情的な対立に発展することもあります。
こうしたトラブルを避けるためにも、売却を検討している段階から他の共有者と丁寧に話し合い、できるだけ情報を共有することが重要です。可能であれば、他の共有者に買取の意思があるかどうかを確認し、内部での持分調整を優先する方が円満な解決につながりやすくなります。共有関係は長期的に続くものであるため、信頼関係の維持を意識した行動が求められます。
弁護士や司法書士など専門家に相談しながら進める
共有名義の不動産売却は、法律や税務、不動産評価といった多岐にわたる知識が必要となるため、個人で全てを判断して進めるのは非常にリスクが高いといえます。特に、持分売却などの複雑な手続きでは、契約書の内容や登記の方法などにも注意が必要であり、専門知識がないまま進めるとトラブルに発展する可能性が高くなります。
そのため、売却を検討し始めた段階から、弁護士や司法書士、不動産会社の担当者など、専門家に相談することが重要です。特にトラブルが想定される共有関係の場合には、早めの相談が後々の安心につながります。安全な取引を実現するためにも、専門家の力を借りながら慎重に進めるようにしましょう。
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