
不動産登記に必要な費用は、国に支払う登録免許税と、司法書士や土地家屋調査士などの専門家に支払う報酬からなり、登記の目的によっても異なりますが、区分マンションや戸建、アパートなどであれば一般的に数万円から数十万円程度の金額が必要となることが多いです。登記はトラブルを防止するために非常に重要な役割を果たすため、登記手続きは必ず済ませるようにしましょう。
本コラムでは、不動産登記に必要な費用の内訳や計算方法、費用負担を抑える具体的な方法を解説します。
不動産登記とは?基礎知識を解説

はじめに、不動産登記に関する基礎知識を解説します。
基本的に不動産登記は法的な義務ではないものの、怠ると第三者に対して自分の所有権を主張できないため、しっかりと基本的な知識を理解し、正確に手続きを済ませることが求められます。
不動産登記の役割と目的
不動産登記とは、土地や建物といった不動産に関する情報を法務局で記録し、権利関係を公的に管理する制度です。登記制度の最大の目的は、誰がその不動産の所有者であるか、またその不動産にどのような権利関係が存在するかを明らかにすることにあります。
例えば、土地を購入した際にその土地の登記を行っていれば、他の誰かが勝手に「これは自分の土地だ」と主張することはできません。また、不動産を担保にして融資を受けるときや相続の場面でも、その不動産の所有者が誰なのか、どんな土地なのかといった登記の内容が非常に重要になります。つまり、不動産登記は「不動産の身分証明書」のようなものといえます。
不動産登記簿は、大きく「表題部」「権利部(甲区・乙区)」の3つに分かれており、それぞれ異なる情報が記録されています。
登記簿の区分 | 概要 | 対応する専門家 |
---|---|---|
表題部 | 不動産の物理的な現況(所在や地積など) | 土地家屋調査士 |
権利部(甲区) | 所有権の現況(所有権移転や差し押さえなど) | 司法書士 |
権利部(乙区) | 所有権以外の権利の現況(抵当権や地上権など) | 司法書士 |
表題部には、その不動産の物理的な情報として、所在地や地積、構造などが記載されており、土地家屋調査士が登記手続きを担当します。表題部に関する解説はこちらのコラムで詳しく解説しているため、ぜひ併せてご覧ください。
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これに対して、権利部の甲区には所有権に関する事項が記録されており、所有権が誰から誰に移転されたのかということや、差し押さえの有無などが記載されます。また、乙区には所有権以外の権利が記録されており、金融機関が設定する抵当権や根抵当権のほか、地上権や賃借権、地役権などが該当します。
登記を行うタイミング
不動産登記は、所有権が移転したタイミングやローンを借りる際など、法的に重要な局面で行われます。
例えば中古マンションを購入した際には、前所有者から自分に所有権を移すための「所有権移転登記」が必要になります。このとき金融機関から住宅ローンを借りて購入する場合、金融機関が抵当権を設定するための「抵当権設定登記」も同時に行われます。
基本的には表題部・権利部に記載されている内容に変更が生じる際に登記が必要となりますが、このように複数の登記を同時に行うことも実務上多く行われているため、必要に応じて司法書士などの専門家に相談するようにしましょう。
登記を怠るリスク
不動産登記は法律上の義務ではありませんが、登記を怠ると重大なリスクを抱えてしまうことになります。これは民法により、登記をしていない場合、自分が所有者であることを第三者に証明できないとされているからです。このことを法律用語で「第三者に対抗できない」といいます。
例えば、A氏がB氏から不動産を購入し、A氏が所有権移転登記をしないまま放置していたところ、B氏がC氏に対してもその不動産を売却し、C氏が先に所有権移転登記を済ませてしまったとします。この場合、A氏はC氏に対して「その不動産を先に買ったのは自分なので、その不動産の所有権は自分にある」と主張することができなくなってしまいます。

このように、登記を怠ると権利関係が曖昧となり、せっかく取得した不動産の権利を他人に奪われてしまうリスクも生じてしまうため、必ず登記手続きを済ませるようにしましょう。
不動産登記にかかる費用一覧と内訳
不動産登記に必要な費用は「登録免許税」と「専門家に支払う報酬」の2つに分けられます。
このうち登録免許税は登記手続きのなかでも大きな金額を占めるほか、登記の目的や対象不動産の固定資産税評価額によって金額が大きく変わるため、登記を依頼する司法書士や土地家屋調査士に見積もりを取るなどしてあらかじめ金額を確認しておきましょう。
主な登記の種類
不動産登記にはさまざまな種類がありますが、行われる頻度が高いものとして所有権保存登記、所有権移転登記、抵当権設定登記、抵当権抹消登記、住所変更登記の内容を以下にまとめました。
所有権保存登記 | 建物の新築時に必要。その不動産の初めての所有者であることを記録する。 |
---|---|
所有権移転登記 | 売買や相続で必要。登録免許税は固定資産税評価額の一定割合。 |
抵当権設定登記 | 住宅ローンを組む際に必須。金融機関が担保設定することを記録する。 |
抵当権抹消登記 | 住宅ローンを完済し、借入時に設定した抵当権を抹消する。 |
住所変更登記 | 所有者の住所が変わった際に必要。費用は比較的少額 |
所有権保存登記とは、建物を新築したり新築の不動産を購入したりした際に、その不動産の初めての所有者であることを記録する登記です。所有権保存登記の登録免許税は、固定資産税評価額に0.4%の税率をかけた税額となります。また、令和6年度の税制改正により特定認定長期優良住宅もしくは認定低炭素住宅の所有権保存登記については、令和9年3月31日までは軽減措置が適用され0.1%の税率となります。
所有権移転登記とは、不動産の売買や相続の際に、新しい所有者の名義に変更するための手続きのことです。この登記には登録免許税が必要で、不動産の固定資産税評価額に一定の税率をかけた額が税額となります。
通常の売買や贈与などは2.0%の税率が適用されますが、相続や法人の合併が登記原因となる場合などは0.4%の税率となり、取得の理由によって税率が異なる点に注意が必要です。また、特定認定長期優良住宅や認定低炭素住宅、特定増改築等がされた住宅用家屋については、令和9年3月31日までは0.1~0.2%の軽減税率が適用されます。
抵当権設定登記とは、主に住宅ローンを利用する際に行われる登記のことです。金融機関が融資の担保として不動産に対して抵当権を設定することを記録するもので、これも固定資産税評価額に0.4%をかけた登録免許税が必要になります。
また、マイホームの軽減特例として①自己居住用の住宅であること、②取得後1年以内に登記されたもの、③登記床面積5㎡以上など一定の要件を満たした不動産であれば、令和9年3月31日まで0.1%の軽減税率が適用されます。
抵当権抹消登記とは、住宅ローンを完済し、金融機関の担保として不動産に設定していた抵当権を抹消するものです。不動産1つに対し1,000円の登録免許税が必要となり、例えば,
土地2筆の抵当権を抹消する場合には、2,000円の登録免許税が必要になります。
住所変更登記は、不動産の所有者が引っ越しなどで住所を変更した場合に行う登記で、抵当権抹消登記と同様に1つの不動産に対して1,000円の登録免許税が必要となります。住所変更登記を放置すると後々の登記手続きや税務手続きで不整合が生じることがあるため、忘れずに対応しておくことが重要です。
登録免許税とは?計算方法と税率
不動産登記に際しては、登録免許税の納付が必要となります。登録免許税の金額は登記の種類や不動産の評価額によって異なり、基本的には以下の式により計算されます。
登録免許税額=不動産の固定資産税評価額×税率
固定資産税評価額は市区町村が毎年発行する固定資産税通知書で確認できるほか、市区町村の税務課や資産税課などで調べることも可能です。税率は登記の目的に応じて、以下の表のように定められています。

このように、登記の目的によって税率に大きな違いが生じるため、事前にしっかり確認しておくようにしましょう。
不動産登記の費用相場とは?具体的な金額をチェック

ここでは、不動産登記にあたって必要な費用の相場や、具体的な金額例を紹介します。実際に必要な費用は状況に応じて大きく異なるため、必要に応じて司法書士などの専門家に相談しましょう。
物件価格ごとの目安費用
まずは登録免許税の目安費用をみてみましょう。固定資産税評価額を物件価格のおおよそ80%とし、一般的な売買により所有権を取得した場合の金額を計算すると、次のようになります。
物件価格 | 固定資産税評価額(概算) | 登録免許税率 | 所有権移転登記の登録免許税 |
---|---|---|---|
1,500万円 | 約1,200万円 | 2.0% | 24万円 |
3,000万円 | 約2,400万円 | 2.0% | 48万円 |
5,000万円 | 約4,000万円 | 2.0% | 80万円 |
7,000万円 | 約5,600万円 | 2.0% | 112万円 |
1億円 | 約8,000万円 | 2.0% | 160万円 |
このように、物件価格が3,000万円ほどの物件であっても、固定資産税評価額次第で登録免許税は約50万円と大きな負担となります。軽減措置などを活用できれば負担を抑えることも可能ですが、登記手続き自体に高額な支出が必要となる可能性があることは理解しておきましょう。
司法書士報酬の相場
不動産登記は専門的な知識と正確な手続きが求められるため、司法書士に依頼するのが一般的です。地域などによっても変わりますが、司法書士報酬の相場はおおよそ2万円から9万円程度となっています。
登記の種類 | 報酬の目安(全国平均) |
---|---|
所有権保存登記 | 2万9,060円 |
所有権移転登記(売買) | 5万6,678円 |
所有権移転登記(売買・複雑なもの) | 9万4,887円 |
所有権移転登記(相続) | 7万4,888円 |
所有権移転登記(贈与) | 5万3,902円 |
抵当権設定登記 | 4万2,699円 |
抵当権設定登記(複雑なもの) | 7万6,383円 |
抵当権抹消登記 | 1万7,470円 |
所有権登記名義人住所変更登記 | 1万3,913円 |
報酬額は事務所の方針や登記の目的に応じて異なるため、事前に複数の司法書士事務所から見積もりを取ることを検討してみても良いかもしれません。
不動産登記費用を安く抑える方法はある?
登録免許税の金額は法律で定められているため、費用を抑えることはできません。
一方で司法書士に支払う報酬については、事務所選びや交渉次第で費用を抑えられる可能性があります。たとえば不動産会社や金融機関に紹介された司法書士ではなく、自分で司法書士を探すことで、より低い報酬額の司法書士を探すことも可能です。
ただし、登記は専門的な手続きであり、正確性や対応の丁寧さも重要な要素となってきます。そのため、金額だけでなく実績や対応スピード、口コミ評価なども加味して慎重に選ぶことが大切です。また、不動産会社や金融機関が提携する司法書士は、融資のスケジュールや契約日程の共有がよりスムーズになるため、手続きを円滑に進める上での安心感もあります。
適切に登記を行い自分自身の権利を守る意味では、費用を抑えることよりも、まずは信頼できる専門家を選ぶことを最優先として考えるべきです。
不動産登記でよくある質問Q&A

最後に、不動産登記に関するよくある疑問とその答えをまとめました。
登記は専門的な手続きとなるため、なにか不明点があれば法務局や司法書士などに相談しながら手続きを進めるようにしましょう。
登記費用は住宅ローンに含めることができる?
不動産登記にかかる費用は、原則として住宅ローンの融資対象には含まれません。住宅ローンはあくまで物件そのものの購入資金に充てるものであり、登記費用や仲介手数料などの諸費用は、購入者自身が自己資金で負担するのが一般的です。
ただし、金融機関によっては「諸費用ローン」と呼ばれる別枠の融資制度を用意している場合もあります。この制度を利用することで、登記費用や火災保険料、引っ越し費用など、購入に関連するさまざまな支出を住宅ローンとは別に借り入れることが可能となります。
諸費用ローンは審査基準や金利、借入限度額などが住宅ローンとは異なるため、利用を検討する際は事前に金融機関とよく相談し、返済計画も含めて無理のない資金調達を心がけることが大切です。
また、諸費用ローンを利用することで、対象不動産に対する金融機関の担保評価額と借入金額が乖離し、借入金利や融資事務手数料の条件が厳しくなってしまうケースもあるほか、不動産購入にあたっての計画性が不十分と見られてしまうケースもあるため、利用にあたってはその可能性も認識した上で検討する必要があります。
自分で登記手続きを行うことは可能?
不動産登記は法律上、自分自身で手続きを行うことが認められています。したがって、理論的には司法書士に依頼せず、自力で書類を用意して法務局に提出すれば、手続きを完了させることは可能です。
ただし、実際には多くの人が司法書士に登記手続きを依頼しています。これは登記手続きに必要な書類が非常に多岐にわたること、記載ミスや添付漏れがあると法務局での受理が拒否され、手続きが長引いたり、最悪の場合は売買契約のスケジュールに支障が出たりするリスクがあるためです。
また、住宅ローンを利用する場合には、融資日当日に抵当権設定登記の申請ができなければ金融機関にとっては大きなリスクとなります。そのため、登記手続きに精通している司法書士に登記手続きを依頼することが住宅ローンを利用する上では必須となります。
不動産取引では時間や信頼性が非常に重視されるため、安く抑えることにあまりこだわり過ぎず、ある程度は必要経費と割り切って司法書士へ依頼することをおすすめします。
登記費用は分割払いできる?
不動産登記に関わる費用のうち、登録免許税については国に支払う税金であるため分割払いや後払いには対応しておらず、法務局に登記申請をする際に一括で納付する必要があります。
一方で司法書士に支払う報酬については、事務所によって対応が異なります。一括払いを基本としているところが多いものの、中には分割払いやカード払いに対応している事務所も存在します。ただし、あくまで個々の事務所の方針によるため、事前に支払い方法について確認するようにしましょう。
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