日本新薬:京都発・研究開発型の製薬企業、過去最高の営業益もPBR1倍前後、次の柱CAP-1002に注目
日本新薬<4516>は、会社創立の大正8年(1919年)からの研究開発型製薬企業で、東証プライム市場に上場している。売上構成は医薬品事業が約8割、機能食品事業が約2割を占める。病気を治す医薬品と、病気を防ぐ機能食品の双方で世の中の役に立つという想いが、二本柱体制の背景にある。本社を京都に置いており、海外医薬品の輸入・卸売から発展してきた同業他社が多いなか、同社は大正時代の創業者が「「日本人の服(の)むくすりは日本人の手でつくりたい」と志したことを起点とし、自社で新薬を生み出す研究開発型のDNAを受け継いでいる。難病・希少疾患領域を中心に、自社創薬・導入・PLCM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)の3本柱で事業を組み立てている。
同社の強みは、低分子に加え核酸医薬品という強い創薬基盤を持つ独自性にある。低分子創薬は、リード化合物探索からリード化合物の最適化を行い、候補化合物を見出すが、その過程で、コンピューターを用いたインシリコ創薬、薬理部門による薬効評価、動態・安全性部門による薬物動態と安全性の評価、低分子創薬にかかわるこれらの部門が一体となるチーム力が強みの源泉となっている。自社創製低分子医薬品である肺動脈性肺高血圧症治療剤「ウプトラビ」を2016年に上市、また、DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)治療薬「ビルテプソ」は日本企業として初めて核酸医薬品を日本と米国の双方で発売した製品で、つくばの東部創薬研究所を技術的な土台とする。「ウプトラビ」は、アクテリオン社(現J&J傘下)への導出を通じて世界75カ国以上で販売される製品に育ち、国内販売に加えて海外ロイヤリティ収入という収益構造を併せ持つ。一方、米国では子会社のNS Pharmaを通じた「ビルテプソ」の自社販売も展開し、スケールメリットとリスク分散のバランスを図っている。
業績面では、2026年3月期の売上収益は1,707.71億円(前期比6.6%増)、営業利益は354.96億円(同0.1%増)と4期連続増収・3期連続増益で着地した。製品別では、ウプトラビの国内売上および同製品の海外売上に伴うロイヤリティ収入、フィンテプラ等の売上伸長に加えて、アーリーダも寄与した。一方、ビルテプソは、米国で投与患者層の若年化に伴い一人当たりの平均投与量が減少し、前期比減少となった。ただ、当初計画では細胞治療CAP-1002(deramiocel)の2026年1月発売を想定して売上に織り込んでいたが、これを修正したうえで計画を遂行し、研究開発費は400億円近くを投じる想定のなかで着実に着地した格好である。2027年3月期の会社計画は、売上収益2,000億円(前期比17.1%増)、営業利益380億円(同7.1%増)を見込んでいる。米国でのCAP-1002発売、アーリーダ 、フィンテプラ、ウプトラビ等の国内新製品群の貢献、ウプトラビのロイヤリティ収入の伸長が寄与する。
当面の最大の論点は、ウプトラビの特許である。同剤は2027年4月以降に特許切れ(パテントクリフ)を迎え、後発参入によって売上は低下に向かう。この空白を埋める鍵が、細胞治療薬CAP-1002であり、2026年度計画には114億円の売上を織り込んでいる。デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療剤で、同剤から分泌されるエクソソームによる、酸化ストレス・炎症・線維化の低減により、運動機能や心機能を改善することが期待される。ただ、同剤はカプリコール社との訴訟を抱えており、承認・上市のスケジュールには不透明感も残る。同社は、CAP-1002が年度内の数カ月で114億円規模に達するのであれば、通年でフル寄与する局面では一段と大きな貢献が見込めるとみており、上市が実現すれば第七次中期経営計画(2024~2028年度)の5年間の財務戦略で想定するキャッシュを上回るキャッシュインも期待できるとの見立てを示している。2028年度に向けて、この新たな柱が立ち上がるかどうかが市場から注目されている。
中計では2028年度に売上2,300億円を掲げ、その先の2030年度には売上3,000億円・営業利益500億円を目指す方針である。ウプトラビに替わる成長ドライバーの育成、グローバル展開の拡大、継続的なパイプラインの拡充という重点テーマの進捗が問われる。自社創薬・導入・PLCMの3本柱により年平均2品目以上の新製品を上市し、パテントクリフへの対応を優先する方針を示している。自社創薬・PLCMでは、核酸・低分子創薬を中心に、グローバル展開を狙える疾患・領域に経営資源を集中させるほか、特に核酸はDMDおよびDMD以外の疾患に注力し、2035年までにはDMD以外の疾患について上市を目指すようだ。また、既進出の米国、中国については製品ラインアップを強化し、M&Aを含めて英独仏などの欧州及びその他地域の販売エリアを拡大する。さらに、同社はAI創薬にも取り組んでおり、創薬の成功確率とスピードの向上が進むなか、希少疾患領域では自社が蓄積してきたデータベースが強みになるとみている。
株主還元については、DOE(株主資本配当率)4.0%水準で安定的な配当を継続する方針としている。今期も年間配当124円を継続し、配当利回りは3%前後で推移している。バリュエーション面では、同社は資本効率をROIC(投下資本利益率)で管理する方針を中計で掲げており、PBR1倍超の回復に向けて、収益性の改善も図っている。
総じて、日本新薬は、京都発・研究開発型という出自のもと、難病・希少疾患領域を中心に独自性を発揮しながら、ウプトラビの世界展開で築いた収益基盤を持つ中堅製薬である。短期的にはウプトラビの特許切れとCAP-1002をめぐる訴訟動向に注目が集まる一方、中長期的にはCAP-1002の立ち上がりと第七次中計の達成度、そして自社創薬・導入・PLCMの3本柱の再強化が成長の鍵を握る。同社の「独自性」を強みに、パテントクリフを越えた先の成長ストーリーの進捗に注目しておきたい。
<YS>
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