筑波精工 Research Memo(1):EV車の普及は追い風だが、足元は停滞。新たにAI半導体向け需要が立ち上がる
■要約
筑波精工<6596>の主力事業は、電界による吸着保持技術を生かした静電吸着システム「静電チャック(E-Chuck)」(以下、静電チャック)の開発・製造・販売である。国際特許を保有する高度な技術だが、過去においてはあまり多くの需要が期待されていなかった。しかし、近年の自動車の電気化(EV化)に伴い、同社を取り巻く環境は変わりつつある。EV車の航続距離を延ばすために不可欠なパワー半導体の薄型化において、その製造工程で使用される同社の静電チャックに注目が集まったためだ。現在はまだ売上規模こそ小さいものの、EV化の進展や、2025年から立ち上がったAI半導体向けの新たな需要により、今後の動向が注目される。
1. 会社の沿革と主な事業内容
同社は、電気機械器具の製造販売並びに電気機械器具の検査、測定、治工具及び金型の販売を目的として、1985年に栃木県真岡市熊倉町で設立された。設立当初は三洋電機(株)の半導体の後工程関係の設備を設計・販売していたが、並行して進めてきた静電チャックの開発に目途が付いたため、2002年より静電チャック事業に特化した体制へと舵を切った。その後、研究開発と関連製品の販売に注力し、2018年には東京証券取引所TOKYO PRO Marketへ上場した。
2. 2026年3月期の業績概要
2026年3月期の業績は、売上高が278百万円(前期比17.1%増)、営業損失が32百万円(前期は44百万円の損失)、経常損失が32百万円(同45百万円の損失)、当期純損失が49百万円(同69百万円)となった。海外向け自動機ユニット及び「Supporter(R)」(以下、「Supporter」)の大口受注があったものの、計画していた先端(AI)半導体向け「Supporter」の売上が、客先でのテスト(評価)の遅れから次期以降にずれ込んだ。そのため売上高は前期比40百万円増にとどまり損益分岐点を下回った結果、営業損失を計上した。手元の現金及び預金は209百万円と売上規模に比べて豊富であり、当面の財務面に不安はない。純資産も現時点では137百万円となっているが、業績の停滞が長期化すれば債務超過に陥るリスクも否定できず、今後の動向には注視が必要である。
3. 2027年3月期の業績予想
2027年3月期の業績の見通しは、売上高が321百万円(前期比15.6%増)、営業利益が4百万円(前期は32百万円の損失)、経常利益が3百万円(同32百万円の損失)、当期純利益が2百万円(同49百万円の損失)となっている。EV向け需要は依然として停滞しているものの、中国の大手EVメーカーでは75μ以下の自社製IGBT生産工程において、同社製品のテストが継続されている。このほか、75μ+12インチでの生産、8インチ向け「Supporter」需要、高速回転を行う欠陥検査装置向けなどでも同社製品のテストが進行中であり、これらが大規模な受注につながる可能性がある。ただし、現時点ではあくまで期待値であり確実な受注ではないため、今期の業績予想には算入されていない。そのため、現在の予想値は保守的な内容にとどまっている。
4. 中長期の展望:EV車の長航続距離化は追い風、新たにAI半導体向けが立ち上がる
同社の今後の成長ドライバーは主に2つある。1つ目はEV車用IGBT半導体向けだが、これは当初見込みよりはやや停滞している。しかし今後、EV車ではさらなる長航続距離化が求められ、そのためには薄型IGBT※1(パワー半導体)が必須であり、同社の「Supporter」の需要増につながる。顧客側は12インチプロセスの増強を進めているが、今のところ12インチの静電チャックでは、同社製品に対する競合は見当たらないため、12インチウエハによるパワー半導体の薄型シリコンウエハの生産が本格化すれば、同社製品への需要は本格的に立ち上がる可能性がある。2つ目は、携帯電話向けや自動車向けの高速バッテリーチャージャーやデータセンター等で使われるMOSFET※2半導体の生産工程においても同社製品が使われる可能性が高い。さらに最近では、AI半導体の歩留まり向上のために同社の静電チャック方式が着目されている。既に一部の顧客でテスト使用が行われており、今後本格受注につながるかが注目される。
※1 IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラートランジスタ)は、パワー半導体(より高い電圧、より大きな電流のコントロールを可能にする)の一種である。用途としては、“電気で動き、パワーの強弱を調整できるもの”で、電車や自動車(ハイブリッド車(HEV)やEV)、IHをはじめとする家庭調理機器やエアコン、冷蔵庫、洗濯機などがある。
※2 MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート電界効果トランジスタ)は、スイッチデバイスの一種。スイッチデバイスは電源を入れることで様々な機能を動かすための装置へ電力を供給する。その際に、入力電圧を各所出力電圧へ変換して電力供給する必要がある。例えば、パソコンであれば、液晶パネル、CPU、メモリやオーディオアンプ、USBコネクタなどを動かすために、MOSFETが入力電圧を変換し、電力を供給する。スイッチデバイスのなかでもMOSFETは、電力を高効率に流し、低消費電力に優れ、製品の小型軽量化を可能にするものである。
■Key Points
・電界を用いた吸着システム静電チャックの開発・製造・販売が主力事業。自動車のEV化で注目が集まる
・2026年3月期は案件のずれ込みで営業損失も、2027年3月期は業績回復を見込む
・中長期的には、EV車の長航続距離化の恩恵を受けるが、新たにAI半導体向けも立ち上がる
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
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