ベルトラ Research Memo(5):計画運営の在り方を見直し利益主導型マネジメントへ移行、質的成長の加速へ(1)
1. ローリング型経営への舵切り
同社は2026年2月13日、2025年12月期~2027年12月期を対象とする中期経営計画を取り下げ、単年度ごとの計画の必達にコミットする経営スタイルへ移行すると公表した。従来計画は海外旅行市場の回復を前提としていたが、円安の長期化や物価上昇により日本人の海外旅行需要の回復が想定より緩やかに推移している。加えて、生成AIの普及により旅行予約の検索経路や顧客接点が変化し、競争環境の先行き不透明感が高まった。
2025年12月期は、海外旅行事業の収益が期初計画を下回り、費用抑制策を講じたものの、2025年11月14日に通期業績予想の下方修正を行った。外部環境の変動が大きいなかで固定的な3ヶ年計画を維持すれば、実態との乖離が拡大する懸念があると判断した。今後は単年度ごとの予算達成と収益基盤の強化を重視する方針へ転換する。
2. 量的成長から質的成長へのパラダイムシフト
同社は、売上規模の拡大を最優先する経営から、収益性を重視する経営へと軸足を移す。取扱高や流通総額の拡大を追う段階から、利益率の改善とキャッシュ創出力の強化を重視する段階へ移行する局面にある。量的成長から質的成長へと転換し、安定的にキャッシュを創出できる事業ポートフォリオの構築を目指す。以下の3点が重点方針である。
(1) 機動的な経営判断
計画運営の在り方を見直し、固定的な3ヶ年計画を掲げる方式から、外部環境や需要動向の変化を随時反映する「ローリング方式」へ移行する。海外旅行需要の回復が想定より緩やかに推移するなかで、楽観的な前提に依拠するのではなく、最新の事業環境を踏まえた実行可能性の高い業績予想を策定し、その達成を最重視する方針である。目標水準を単に引き下げるのではなく、確度の高い利益成長を着実に積み上げることで市場の信頼回復を図る考えである。
(2) 高収益体質の維持・強化
OTA事業では「選択と集中」を徹底し、高収益体質の維持・強化を図る。利益率の低い商品や販路への投資は抑制し、高付加価値商品の販売比率を引き上げる。広告出稿については費用対効果を厳格に精査し、自然検索経由の流入拡大やリピーター比率の向上により集客コストの抑制を進める。商品構成の見直しとマーケティング効率の改善を通じて、売上成長と利益拡大を両立させる構造を整える。
固定費についても、人員配置の最適化や業務プロセスの効率化を推進し、少数精鋭で運営できる体制へ移行する。規模の拡大に依存しない収益モデルを確立し、高い営業利益率を安定的に維持できる体制を構築する。
(3) 成長分野への投資集中
成長投資は、インバウンド需要の取り込みが見込まれる観光IT事業及びクルーズ事業などの新規領域へ重点配分する。観光IT事業のLINKTIVITYは、交通機関や観光施設向けにチケット流通基盤を提供するBtoB型モデルであり、ストック性の高い収益構造を有する。訪日外国人客数は回復基調にあり、空港、鉄道、観光施設におけるデジタル化需要は拡大している。これらの流通基盤を担うLINKTIVITYを中長期的な収益源へと育成する方針である。
新規領域であるクルーズ事業については、従来のイベント型モデルとは異なる戦略を採用する。他社が高価格帯商品を特定日程に集中して販売する手法を主軸としてきたのに対し、同社はオンライン完結型の販売体制を構築する。AIを活用して販売ページを効率的に生成し、商品情報の拡充や価格比較の利便性を高めることで、集客コストを抑えつつ販売機会の最大化を図る。取扱商品も高額・長期滞在型に偏らず、比較的価格が抑えられた短期プランも提案することで、クルーズ旅行初心者層や限られた休暇で参加したい層の取り込みを目指す。
3. 不祥事を契機とした内部統制の抜本的強化
子会社リンクティビティにおいて、2026年1月上旬に代表者を装った第三者の指示に基づく不正送金が発生し、約50百万円が流出した。従業員がSNSへ誘導され、虚偽の送金依頼に応じて銀行窓口で振込を行った事案である。発覚後は警察への相談や金融機関への口座凍結依頼を行い、被害回復に努めている。
本件はビジネスメール詐欺の一類型であり、多くの企業で発生している外部起因の犯罪である。一方で、例外的な銀行窓口振込や届出印管理に関する規程整備が十分でなかった点、緊急の非対面指示に対する本人確認手続が制度化されていなかった点は統制上の課題である。同社は原因を特定し、再発防止策を策定した。非対面送金指示へのコールバック確認の義務化、窓口振込と届出印管理規程の改定、承認手続の厳格化、不正対策教育の定期実施、金融機関との連携強化などである。例外処理を含む実務フローを見直し、グループ全体の内部統制水準を引き上げる局面にある。
ガバナンス再構築の観点では、単なる再発防止策の列挙にとどまらず、ガバナンス体制の実効性をいかに担保するかが重要となる。子会社を含む資金管理権限の明確化と本社によるモニタリング強化、一定金額以上の送金に対する二重承認・第三者確認の制度化、内部監査部門による定期的な抜き打ち検証と取締役会への直接報告、インシデント発生時の迅速かつ透明性の高い情報開示の徹底などが求められる。リスク管理能力の向上と内部統制の実効性が客観的に示されれば、ガバナンスに対する市場の懸念は徐々に後退し、中長期的な企業価値の毀損リスクも限定的との評価につながると見ている。本件は同社グループ全体の統制基盤を再構築する契機になると考える。
4. 監督と執行の分離による「CxOモデル」の導入
同社は2026年3月の定時株主総会を機に、取締役会の構成見直しとCxO体制の導入を実施する。最大のねらいは、経営の監督と執行の分離による戦略執行スピードの向上と機動力の強化である。取締役会は「中長期戦略の決定及び経営執行の監督」に専念し、社外取締役を中心とする構成により客観性と透明性の高い経営監視を維持する。他方で、執行側はCEOの下にCFO、CHRO兼CAO、CTrO兼COO、CTO、CSOとCxOを配置し、機能別に権限と責任を明確化する。
併せて、サクセッションプランの推進も重要な柱である。共同創業者である荒木篤実(あらきあつみ)氏を取締役に招聘し、創業時のベンチャー精神を継承しつつ、同氏の国内外における豊富な経営経験を活用する。創業者が監督側に回り、CxOが執行を担うことで、将来のグループを担うリーダーの育成及び段階的な経営承継プロセスの構築を進める設計である。
加えて、成長モデルの再構築と連結グループ経営の深化も本体制のポイントである。子会社のリンクティビティの代表取締役社長である孔成龍(こうせいりゅう)氏を親会社の取締役に迎えることで、同社の高成長をけん引してきた事業知(現場知)をグループ全体の戦略立案に直接反映させる体制を整える。子会社トップが親会社の意思決定に参画することで、連結ベースでの業績管理及びリスク管理の高度化を図り、グループ経営を一段と高い次元へ引き上げるねらいがある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 吉林 拓馬)
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