シンカ Research Memo(8):6億件以上の会話データと生成AIを掛け合わせ、非連続な成長を目指す
1. Thinca VISION 2030の概要
2026年2月に5ヶ年の中期ビジョン「Thinca VISION 2030」を公表した。目指す姿に大きな変更はないが、一次情報データ(6億件以上の会話データ)と生成AIを掛け合わせた成長戦略(コミュニケーション・シンギュラリティ構想※)により、顧客企業の対話課題をAIで加速解決する方向性をより明確に打ち出した。また、そのための大型投資を実施し、非連続な成長を実現することで、時価総額100億円の早期達成を目指す。
※ シンギュラリティ(技術的特異点)とは、AI(人工知能)が自身の能力を自律的に改善し続け、人間の知能を凌駕する時点を指す未来予測の概念。
(1) 現状認識(大型投資の背景)
同社では、上場後2年間を振り返り、1)黒字にこだわってきた結果、大胆な成長投資に踏み切れず、拡大する需要を十分に掘り起こせていないこと、2)株価も同社の成長ポテンシャルを十分に反映したものになっていないことを課題として認識している。2024年12月期においては、「カイクラ」に対する潜在的な需要の大きさ(セミナー、展示会等での反響の良さ)が明らかになる中で、顧客獲得及び単価向上の課題(ボトルネック)がどこにあるかを特定し、営業人員の増強やAI搭載機能の相次ぐリリースといった成長投資を本格化したことで、今後の成長加速の手応えをつかむことができた。また、強固な収益基盤(ストック比率90%、直近の解約率0.16%)に加え、手元現預金(約10億円)も潤沢であることから、過去最大規模の成長投資に踏み切ることで、成長を加速する絶好のタイミングにあるとの判断に至った。
(2) 重点戦略と投資計画
コミュニケーション・シンギュラリティ構想に向けた重点戦略(投資テーマ)として、1)顧客開拓のスピードアップ(セールス・マーケティング先行投資)、2)アップセル・クロスセルによる顧客単価向上(AI投資)、3)組織能力拡大(M&A)を掲げ、それぞれに成長投資を大胆に投入する考えだ。特に、初年度(2026年12月期)を「非連続な成長への転換点」と位置付け、年間約9.8億円の成長投資を実行する計画である。具体的には、AI投資に3.5億円、営業人材投資に2.0億円、その他人材投資に1.5億円、広告宣伝費に1.0億円、R&Dに1.85億円を予定しており、厳格な財務方針と投資判断基準に基づき、最大限の投資効果を追求する。
2. 成長戦略の方向性
同社の成長モデルそのものに見直しはない。すなわち、(1)拠点数の拡大と(2)ARPAの向上の2軸で成長を加速する方針で、そこに今回の大型投資(営業体制の強化やAI関連投資等)がどのようにインパクトを与えるのかが今後の注目点である。
(1) 拠点数の拡大策
対象市場を企業規模別※に1)大企業(1.0万社)、2)中規模企業(51.2万社)、3)小規模企業(285.3万社)に分け、それぞれに対応する3つの販売戦略を通じて拠点数の拡大につなげる考えだ。
※ 中小企業庁 中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果(同社資料より引用)。
1) 中規模企業
引き続きメインターゲットとして、直販及び販売パートナーとの協業を強化する。特に直販については、限られた経営資源を効率的に活用するため、ターゲット市場の明確化と戦略的アプローチを展開する。これまで注力してきた自動車業界(自動車ディーラーなど)においてもシェア拡大の余地は大きく、さらなる深掘りを行うとともに、一定のシェアが獲得できた後は、第2の柱である不動産業界、さらには第3の柱(医療、人材、冠婚葬祭業界等)へとリソースをシフトしながら、事業を拡大する考えだ。また、販売パートナーの大塚商会及びSB C&Sとの協業体制も強化し、さらなる販路拡大に取り組む。
2) 大企業
引き続きNTTグループとの協業を通じて、大手有名企業へのアプローチを強化する方針だ。特に「ひかりクラウドPBX」や「ひかりクラウド電話」などNTTグループが所持する商材とのセット販売を推進する。
3) 小規模企業
裾野の広い小規模企業(及び事業所)に対しては、OEM提供により効率的に需要を拾い上げる考えであり、OEM特化組織を立ち上げた。特にこれまで最も実績があるデンタル業界(2025年12月末時点で1,200医院以上に導入済み)を成功モデルとして、動物病院、飲食、美容、マッサージ、整体、クリニック(眼科、小児科、内科、外科、皮膚科など)などへと展開する戦略だ。
(2) ARPAの向上策
膨大なコミュニケーションデータと生成AIの高い親和性を活かした独自のAI機能による付加価値向上や、全国3,000社を超える顧客基盤は、アップセル・クロスセルの余地が大きい。様々なコミュニケーションチャネルを有料オプションとして追加するとともに、「カイクラフォン」を含む従量課金の使用量増加のほか、今後はAI機能(有償化)や「カイクラ」以外のサービスのクロスセル(例えば、新AIサービス、生成AI導入支援コンサルティング等)により単価アップを図る考えだ。
3. 業績目標
初年度(2026年12月期)は大型投資の実施により一時的に営業損失を計上し、その後も一定の成長投資を継続するものの、ストック型収益を積み上げ、成長加速と利益率改善を目指す。最終年度の売上高6,500百万円(年平均成長率34.7%)、営業利益1,500百万円(営業利益率23.1%)を目指す。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)
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