クラボウ Research Memo(7):注力事業へ経営資源を集中し、事業ポートフォリオ改革をさらに加速する方針(2)
5. キャッシュ・アロケーション
3年間の投資計画として、設備投資に210億円(そのうち注力事業へ87億円、環境投資に24億円)、M&Aに100億円の合計310億円を予定している。また、株主還元(3年間)には配当130億円、自己株式取得200億円の合計330億円を予定しており、成長投資と株主還元へバランスよく配分する方針だ。一方、その原資については、営業キャッシュ・フロー360億円※1、非営業資産※2の売却230億円、借入金など50億円により捻出する計画となっている。
※1 研究開発費60億円控除後。
※2 政策保有株式、遊休不動産の売却等。
(1) 株主還元方針
高水準で安定した配当を行うため、株主資本配当率(DOE)4%を新中期経営計画期間の目標値として設定した。また、3年間で200億円の自己株式の取得も併せて実施する。
(2) 政策保有株式の圧縮
2028年3月期までに連結純資産の20%未満まで段階的に売却を進め、そこで得たキャッシュは自己株式取得などに充当していく。
(3) 研究開発投資(R&Dの強化)
3年間で60億円の研究開発投資を計画している。特に、技術研究所と各事業部との連携により、次世代の主力事業として推進している4つのプロジェクト(ロボットセンシング、セミコンソリューション、ライフサイエンス・テクノロジー、マテリアル・ソリューション)を本格化していく。
6. 資本収益性の向上に向けた道筋
同社の推計によれば、株主資本コストは6~7%のレンジにあるが、株主の期待するリターンはさらに高いものと認識しており、中期経営計画の目標であるROE10%(以上)の実現やIR活動の充実などを通じて、PBRの引き上げ(まずは常時1倍以上の水準を確保)を目指す。特にROEの改善に向けて、事業ポートフォリオ改革や政策保有株式の圧縮によるROICの向上と株主還元の充実に取り組む。
7. 弊社による中長期的な注目点
祖業の繊維事業を取り巻く環境変化等を踏まえ、これまで取り組んできた長期ビジョン2030(イノベーションと高収益を生み出す事業体制への変革)の方向性は魅力的で説得力があると評価している。また、新たにスタートした中期経営計画「Accelerate’27」では、同社の強みが生かせ、かつ高い成長性と収益性が期待できる半導体製造関連領域及びライフサイエンス関連領域を注力事業に位置付けるとともに、組織の壁を越えて経営資源を集中する方針を打ち出し、いよいよ事業ポートフォリオ改革の姿が具体的に見えてきた。あとは、その実現可能性やスピード感、ポテンシャルの大きさをどう評価するかということになる。各領域における注目点は以下のとおりである。
(1) 半導体製造関連領域では、性能や品質、コスト面はもちろん、技術開発などを通じていかに半導体製造装置メーカーの需要(課題)に応えていけるかがカギを握るだろう。その点では、AI向け半導体製造工程で着実に実績を伸ばしている機能フィルムや独自技術を生かした「KURANGRAFT」などの動きに注目したい。このような差別化された製品を出し続け、成長領域の需要を取り込むことができれば、利益成長の実現はもちろん、市況の影響を受けづらい収益体質への転換も可能になると考えられる。
(2) ライフサイエンス関連領域は、社会課題に目を向け、新たな価値を創出する構想であることから、労働力不足や生産性などに課題を抱える顧客との価値共創やパートナーとの協業がカギを握る。そのため、たとえば介護・医療分野など、これまでパイプが少なかった業界へのチャネル構築が不可欠となる。したがって、戦略的アライアンスやM&Aなどによる外部リソースの活用を含め、いかに顧客(市場)にアクセスしていくのか、そういう視点から今後の動向を見守る必要がある。本格的な事業化には長期目線が必要となる可能性があるが、ビジネスモデルを大きく変えるポテンシャルを秘めている。
また、今後の実現可能性を判断するうえで重要となるのは、知的資本と財務資本による裏付けである。知的資本は言うまでもなく、これまで蓄積してきた技術力やノウハウ、知見であり、これをいかに応用し収益化していくのかがポイントとなる。一方、財務資本については多額の含み益を抱えた政策保有株式(投資有価証券残高約616億円)の存在が大きい。これまで資本効率を低下させる原因として投資家からは課題視される向きもあったが、今後はむしろ成長投資やR&Dへの活用により価値創造の原動力として捉えるべきである。同社は中期経営計画期間中に段階的に政策保有株式の売却を進め、そこで得た資金を成長投資や株主還元に配分する方針を明記しており、事業ポートフォリオ改革と同時にバランスシート改革においても大きな転換期にあると認識できる。以上を踏まえ、中長期目線でのポイントは、知的資本をどう収益に結び付けるか、財務資本をいかに活用するか、さらにM&Aを含む外部リソースとの連携をいかに図るか、大きくこの3点に集約されると言えるだろう。
■業績推移
事業構造改革に取り組む。注力する半導体製造関連分野により収益力向上
2017年3月期からの業績を振り返ると、売上高は国内外での市場環境の変化や為替相場の影響、さらにはコロナ禍の影響も重なり、2021年3月期まで減収傾向をたどった。事業別に見ても、総じて低調に推移し、特に繊維事業が国内カジュアル衣料の需要低迷や海外製品との価格競争激化などの外部要因に加え、不採算ビジネスからの撤退などにより低迷した。2022年3月期から2023年3月期にかけて、売上高が回復したのは、構造改革を進めてきた繊維事業の底打ちと、半導体製造関連分野が好調な化成品事業及び環境メカトロニクス事業の伸びによるものである。ただ、2024年3月期及び2025年3月期は工作機械事業の譲渡等の影響を受けて伸び悩む格好となった。
利益面では、不動産事業が安定収益源となっているほか、環境メカトロニクス事業などで高付加価値化が進んできたが、繊維事業の落ち込みなどにより2021年3月期までの売上高営業利益率はおおむね3%台の水準で推移していた。特に、中期経営計画「Advance’18」(2017年3月期~2019年3月期)では、「収益拡大に向けた事業変革」を基本方針として、1) 海外ビジネスの拡大・強化、2) 国内ビジネスの再構築、3) 将来市場を見据えたマーケット志向型事業ヘの転換、4) 高収益ビジネスの追求などにより、各事業の拡大を目指してきたものの、経営環境の変化のスピードが想定よりも速く、不採算ビジネスからの撤退や事業縮小による影響もあり、計画は未達となった。中期経営計画「Creation’21」(2020年3月期~2022年3月期)についても、「イノベーションによる収益拡大と企業価値の向上」に取り組んだものの、世界的なコロナ禍の影響を受け、変革のスピードが上がらず、計画は未達となったが、前中期経営計画「Progress’24」(2023年3月期~2025年3月期)に入ってからは、繊維事業の苦戦が続くなかでも、収益性の高い環境メカトロニクス事業の拡大や半導体製造関連分野の伸びにより利益水準が底上げされ、2025年3月期の営業利益は4期連続増益により100億円を突破した。
財政状態については、構造改革や投資有価証券の削減などにより総資産の縮小を図る一方でまた、自己資本も自己株式取得を含めた積極的な株主還元により緩やかな増加に抑えたものの、自己資本比率は50%台から60%台へと上昇した。資本効率を示すROEも、売上高営業利益率とほぼ連動した形で改善してきており、2022年3月期以降は6%前後で推移し、2025年3月期は政策保有株式の売却益の計上もあり7.6%に改善した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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