戸田工業 Research Memo(3):2023年に創業200周年を迎える老舗の化学素材メーカー(2)
この数年で数量を大きく伸びてきたのがハイニッケルを中心とする車載用LIB用材料で5,800百万円(セグメント内での構成比29%)となっている。戸田工業<4100>は1990年代の磁気テープに代表される磁性酸化鉄市場の黄金時代からの急激な市場縮小に対し、既存事業の技術を生かしLIB用正極材料の研究に着手、2000年に四酸化三コバルト(Co3O4)を出発原料としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)事業を開始した。その後、買収等で2002年にニッケルコバルトアルミン酸リチウム(LiNiCoAlO2)、2007年にNi(OH)2/CoOx、2008年にはスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を事業化、同時にArgonne National Labからリチウムリッチのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Li-Rich NCM)のライセンスを取得し、LIB用正極材料3成分系の事業化を迅速に行った。また米国ミシガン州に工場建設を始め、2010年に伊藤忠商事<8001>と前駆体・正極材料製造のJV、2015年には欧州化学大手BASFと日本を拠点にLIB用正極材料を展開するBASF戸田バッテリーマテリアルズ(同)(以下、BTBM)を立ち上げ、NCA、NCMなど様々な正極の研究開発、製造、販売を行うこととし、2017年にはハイニッケル系正極材料生産設備を大幅増強した。LIB用材料事業は、BASFとの合弁会社であるBTBM(BASFジャパン66%、同社34%出資、持分法適用会社)により運営、BTBMの2022年12月期の売上高は21,644百万円(前期比28.1%増)であった。なお、2022年7月20日には、年間45GWhのバッテリーセル製造に必要な生産量を確保するために、ハイニッケル正極材料の生産能力を2025年までに6万トンに引き上げることを発表している。2022年12月19日にはドイツBASF本社がBTBMからトヨタ自動車<7203>とパナソニックホールディングス<6752>の合弁会社であるプライムプラネットエネルギー&ソリューションズ(株)(以下「PPES」)へ納入を開始するとの開示があった。LIB用材料事業は車載対応で多額の先行投資を必要とし、減損処理、投資損失、市況の乱高下などから収益推移の重しとなっていたが、ここに来て投資効果が現われ、収益を稼ぎ出す事業に変わってきている。
2023年3月期の売上高は10億円と小さいが、今後の期待が大きいのがMLCC向け誘電体材料事業である。コンデンサーは3大受動部品の1つで、ほとんどの電子機器に使用され、能動部品(供給された電気エネルギーを増幅、変換、整流等が可能)を正しく作動させるために必要不可欠な部品である。この中でセラミックコンデンサーはコンデンサー全体生産額の8割近くを占める。現在、スマートフォン、自動車、家電など、あらゆる電子機器で利用され、2021年度は7,700億円の生産額を誇る。セラミックコンデンサーの主原料はチタン酸バリウムで、産業化で先陣を切ったのが村田製作所<6981>である。その後、太陽誘電<6976>、TDK<6762>など日系企業が続いて基幹事業化に成功、サムスンが2000年代に入って本格参入するまで日本の独断場製品であった。同社は2004年にチタン酸バリウムの製造設備を新設し、同分野へ本格参入したが、特徴はその製造方法にある。チタン酸バリウムは従来、固相反応法といわれる原料を焼成する製法が主流で、村田製作所なども大半はこの製法で内製化している。なお日本化学工業<4092>、富士チタン工業(株)などは湿式反応と焼成を組み合わせた製法であるシュウ酸塩法を利用し、固相法に対して細かい粒度が得られることが特徴である。これらに対し同社は独自の湿式合成技術によって原料を高温・高圧下で反応させ、100nm未満の微細な粒子の粒度を均一に制御できる水熱合成法を利用している。現在、セラミックコンデンサーでは、小型化、大容量化、高誘電率を求められ、既に0603サイズが1005サイズを抜いて最大比率となり、さらに0402サイズの比率も高まり、0201サイズも通信モジュールやウェアラブル機器などの特定用途での利用が始まっている。現在、スマートフォンの不振から足元の生産が低迷しているものの、今後、超微粒子チタン酸バリウムの需要が急速に高まると見られる。
(2) 機能性顔料事業
機能性顔料事業の2023年3月期売上高は14,723億円となっている。主に塗料、複写機・プリンター、環境市場を事業フィールドとして製品展開を行っている。これまで塗料用顔料、複写機・プリンター向けトナー・キャリア用材料などを中心に拡大してきた事業である。顔料は、創業以来の事業であるが、塗料市場では建築物や構造物の建設向けの着色材料などで着実に用途が拡大するも、複写機・プリンター市場では、ペーパーレス化、電子化などの影響があった。但し同社はシェア拡大に努め、化粧品顔料、透明酸化鉄など新製品群の拡大や環境市場向けの土壌・地下水浄化材などで補い、売上を確保してきた。利益面では原材料・エネルギー価格高騰の影響などで利益率の低下を余儀なくされてきたとみられるが、コロナ禍による影響から回復、収益が改善している。
事業展開を最終用途別で示すと、5つの事業フィールドとなる。なお、「環境」、「複写機・プリンター」、「塗料」が機能性顔料事業領域、「家電・通信機器」、「自動車」が電子素材事業にほぼ属している。2023年3月期では「自動車」が最大部門となっており、売上高は12,300百万円(構成比35%)、次いで「塗料」8,600百万円(同25%)、「家電・通信機器」7,100百万円(同20%)の順となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
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