ホットリンク Research Memo(2):SNS関連のビッグデータを扱うテクノロジー企業(1)
1. 会社沿革
ホットリンク<3680>は、2000年6月に現 代表取締役グループCEOの内山幸樹(うちやまこうき)氏が「知識循環型社会のインフラを担い、世界中の人々が“HOTTO(ほっと)”できる世界の実現に貢献する」というミッションを掲げて設立した。内山氏は大学院在学中の1995年に日本で最初期の検索エンジンとなる「日本サーチエンジン」の開発プロジェクトに参加するなど、インターネット市場の黎明期からその技術開発に携わってきた経歴を持つ。
2000年後半以降、インターネット業界で個人のブログや「2ちゃんねる(現 5ちゃんねる)」といったソーシャルメディアが急速に普及し始めたことを契機に、同社はソーシャルメディアに書き込まれる投稿記事をベースとした分析サービスを展開することになる。2005年にブログの分析を開始したのを皮切りに、2008年には(株)ガーラバズから電通バズリサーチ事業(ソーシャル・ビッグデータの分析事業)を譲受し、現在の主力サービスの1つであるソーシャルメディア分析ツール「BuzzSpreader Powered by クチコミ@係長」(以下、クチコミ@係長)の提供を本格的に開始した。
また、2012年にはソーシャルリスク・モニタリング事業「e-mining」を提供していたガーラバズを完全子会社化(同年、吸収合併)し、同サービスもラインアップに加えた。ただ、同サービスを中心としたリスクマネジメント関連事業については2018年10月に会社分割によって(株)リリーフサインに承継し、同年12月に株式の過半数以上を(有)エスフロントに売却した。株式売却後の出資比率は34%であったが、2020年に入って追加売却し、直近の出資比率は24%となっている。持分法適用関連会社であることに変わりはない。
同社は「ソーシャル・ビッグデータ×マーケティング」領域を中心に事業展開する方針を固め、2013年に(株)ホットリンクコンサルティング(現 トレンドExpress)を設立したほか、2015年にはソーシャルデータ流通企業の大手で、大手SNSのソーシャルデータへのアクセス権保有・販売を行うEffyisを子会社化し、海外での事業基盤を構築した。また、中国からの訪日観光客が急増したことを契機に、トレンドExpress(出資比率57.3%)でインバウンド消費のトレンドをSNS上の口コミデータから分析する定期レポート「中国トレンドExpress」の提供を2015年から開始したほか、中国市場でのWebプロモーション支援サービス「トレンドPR」や中国向け越境ECサービス「越境EC X」を2017年以降に相次いで立ち上げるなど中国市場をターゲットとした事業拡大に注力している。2020年1月には中国市場での事業展開を強化すべく、トレンドExpressの中国子会社と事業パートナーであった普千(上海)商務諮訊有限公司を経営統合し、新たに数慧光(上海)商務諮詢有限公司をトレンドExpressの100%子会社として設立した。
2021年6月には、同社の目指す「あたたかみのあるソーシャルメディアマーケティング」、その「前提」に改めて立ち返るべく、コーポレートのロゴをリニューアルした。
2. 事業内容
同社は2020年12月期より事業区分を従来のSaaS事業・ソリューション事業・クロスバウンド事業から、SNSマーケティング支援事業・DaaS事業・クロスバウンド事業と事業主体別に変更している。これは今後の成長に向けた事業戦略として、SNSマーケティング支援事業を主軸に据える方針を2019年に決定し、SaaS事業における新規ツールの開発を停止したことによる。
(1) SNSマーケティング支援事業
同社本体で展開する同事業には、国内向けのSNS広告・SNS運用コンサルティングと、SNS分析ツール「クチコミ@係長」がある。2021年12月期の売上構成比ではSNS広告・SNS運用コンサルティングが71.4%、SNS分析ツールが28.6%となり、訴求力向上に伴ってSNS広告・SNS運用コンサルティングの割合は今後拡大する見込みである。
SNSマーケティング支援事業では、主にTwitterを活用したマーケティング支援サービス(SNS広告代理販売・運用コンサルティングサービス)を展開する。運用コンサルティングでは、保有するソーシャル・ビッグデータと長年蓄積してきたノウハウや独自メソッドを生かして、顧客企業の商品の認知度拡大や売上アップにつながる施策をTwitterなどで実施している。現状、売上高の大半は広告販売で占められるが利益率は低く、コンサルティングサービスで利益を稼ぐビジネスモデルとなっている。一般的なケースとして、受注単価は1案件当たり数百万円でスタートしている。効果が確認されれば、取り扱い商材を増やすことにより、年間取引額で1億円以上に増やすことも可能となる。
顧客企業は食品・飲料、美容・コスメ、オンライン学習サイト運営などBtoC企業を中心に幅広い業種にわたっており、企業規模としては売上高で1,000億円前後の企業が多い。それ以上の大企業になるとテレビCMなどを利用する企業が多く、大手広告代理店との関係構築が既にできあがっており、参入するにはハードルが高いためだ。ただ、SNS広告運用のパフォーマンスについては大手広告代理店よりも勝っており、大手自動車メーカーから受注したケースもある。足元では業界内での評価が高まることで、少しずつではあるが大企業とのビジネスチャンスも広がりつつあるようだ。
SNSを使った効果的なプロモーション施策として、同社はUGC(User Generated Contents:ユーザーが発信する口コミなどのコンテンツ)を増やすことが重要と考えており、UGCの発生に伴って起きる一連の消費者の購買行動プロセスを「ULSSAS(ウルサス)」として体系化している。具体的には、起点となるUGC(Twitter上での投稿)に、それを見たフォロワーがLike(いいね!)を付ける。そして、SNS内での検索(Search1)や、Googleなどの検索エンジンを使って商品を確認し(Search2)、購入(Action)する。その後にTwitter上で拡散(Spread)する。このような一連のプロセスを循環させることで、顧客企業の商品の売上アップを図る。
この循環プロセスを効率的に作り上げるには、同社が長年蓄積してきた成功パターンから編み出した独自メソッドがカギを握っており、他社との差別化要因となっている。例えば、Twitterの情報収集だけでなく、ブログやほかの口コミサイトなど様々なデータを組み合わせて分析し、AIによって自動抽出した最適なUGC発信者に対してプロモーション対象商品の広告を配信している。このため、同社のマーケティング支援サービスは費用対効果の高いサービスとして注目されており、リピート率も70%以上と高く、「Twitterマーケティング」と言えば「ホットリンク」というブランドを確立している。
一方、SNS分析ツールとなる「クチコミ@係長」の特長は、国内最大級のソーシャルメディアデータを保有し、トレンド分析や属性分析などを簡単操作、かつリアルタイムに実行できること、また、テレビやWebニュースなどとのクロスメディア分析、自社が保有するデータ(アンケート、コールログ等)のテキストマイニングを行うデータインポート分析機能なども実装していることが挙げられる。特に、ソーシャルメディア分析では国内ブログの約90%をカバーしているほか、投稿サイト「5ちゃんねる」の過去データや、全世界のTwitterデータを相手先との契約に基づいてすべて収集するなど、国内では圧倒的なソーシャルメディアデータを保有していることが強みとなる。
顧客企業は「クチコミ@係長」を使ってソーシャル・ビッグデータを分析し、自社の商品開発や販促活動、競合他社比較等の調査などに利用している。初期導入費用は10万円、月額利用料は13万円からで、利用可能ID数や対象メディア、データ容量などによって料金が加算される。大口ユーザーでは月額100万円程度となる企業もある。累積導入社数は1,000社以上で、このうち現在の実稼働数は約300社となっている。利用企業の約8割は大企業で、消費財メーカーやサービス、金融機関など幅広い企業に導入されている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 欠田耀介)
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