芙蓉リース Research Memo(4):ノンアセット収益の拡大等により、「差引利益」が増益基調で推移(2)
芙蓉総合リース<8424>の財政状態については、「営業資産」の積み上げ等により総資産が前期末比4.6%増の2兆7,125億円に拡大。一方、自己資本も内部留保の積み増しにより同2.8%増の2,690億円に増加したことから、自己資本比率9.9%(前期末は10.1%)とほぼ横ばいで推移した。また、有利子負債(リース債務を除く)は同4.6%増の2兆1,945億円に増加したが、良好な環境にある直接調達を積極的に活用し、直接調達比率は35.2%(前期末は34.1%)に上昇するとともに、有利子負債の長期比率は37.4%(前期末は37.7%)、短期の支払い能力を示す流動比率も131.9%(前期末は133.7%)と安定しており、財務の健全性は維持されている※。
※2019年11月8日に(株)格付投資情報センター(R&I)により、発行体格付が「A-」(シングルAマイナス)」に維持されるとともに、格付の方向性は「ポジティブ」に見直された。同様に、2019年11月18日には(株)日本格付研究所(JCR)により、長期発行体格付が「A+(シングルAプラス)」に引き上げられている。
各戦略分野における業績や活動実績は以下のとおりである。
(1)不動産
2019年9月末の「営業資産残高」は、前期末比5.0%増の4,428億円と順調に拡大。大口ブリッジ型案件の期中売却があったものの、「契約実行高」が722億円(過去2番目の水準)に拡大したことで打ち返すことができた。ここ数年、順調に積み上げてきたことから、すでに中間目途値※(2020年3月期末の営業資産残高3,800億円)を大きく上回っている。また、アライアンス先の拡大が取組物件の多様化にも貢献。長期不動産リースにおける建物用途の分散(商業施設、ホテル、介護・居住、レジャー・サービス、物流、その他)も維持されている。下期は組織改編と合わせ、関西エリアでの不動産商材の発掘にも注力する方針である。また、ROAについてもブリッジ案件の売却益計上もあり1.9%(前期は1.7%)に良化した。
※2022年3月期を最終年度とする中期経営計画の中間地点(2020年3月期)における見込み値として設定されたもの。
(2)航空機
2019年9月末の「営業資産残高」は、前期末比6.9%増の1,602億円に拡大。アジアを中心とした取引エアラインの拡大により、保有機体数も39機(前期末比4機増)に増加している。また、ROAについても1.5%(前期は1.3%)に改善。前期は期末に新規実行が重なったことで一時的に低下したが、徐々に回復に向かっていることが確認できた。ただ、競争が激化するなかで、案件の選別を進めた結果、中間目途値(2020年3月期末の営業資産残高2,100億円、保有機体数49機)に対しては遅れが見られる。同社では、インオーガニック(M&A)を含め、ビジネス領域の拡大(パーツビジネス※など)についても検討していく考えだ。2019年4月1日の組織改編では航空機リース戦略のさらなる推進のために「戦略推進室」を新設しており、今後の具体的な動きが注目される。
※中古航空機を購入及び解体して、部品ごとに売却する事業。
(3)海外
2019年9月末の「営業資産残高」(海外事業における関連会社への出資額を含む)は、円高の影響もあり前期末比3.4%減の965億円に減少した。中間目途値(2020年3月期末の営業資産残高1,100億円)に対しても遅れが見られる。また、ROAについても0.9%(前期は0.8%)と僅かな改善にとどまった。海外はオーガニックとインオーガニック(M&Aや提携等)の2つの成長軸を進めている。オーガニック戦略については、アセアン地域での事業拡大に向け、シンガポール現法及びアクリーティブのタイ現法の営業体制の強化に取り組んでいる。一方、今後の事業拡大やROAの改善に向けては、インオーガニック成長が不可欠と見ており、M&Aにも積極的に取り組む方針である。現中期経営計画期間中では2018年3月にTDF Group Inc.※1、2019年1月にPacific Rim Capital, Inc. (PRC)※2をそれぞれ持分法適用会社化しており、海外における営業基盤の拡充は着実に進んでいる。PRCとはオペレーティング・リースのノウハウ習得に向けた連携を進めるなど、オーガニック事業とのシナジー創出にも取り組んでいる。
※1 ピックアップトラックのレンタル・リース会社(カナダ)。
※2 マテリアル・ハンドリング(運搬)機器のオペレーティング・リース会社(米国)。
(4)エネルギー・環境
2019年9月末の「営業資産残高」(太陽光発電事業)は、前期末比ほぼ横ばいの270億円となった。前期に稼働を開始した2サイト(楢葉大谷、七ヶ宿)も計画どおりに推移しており、現在は全国32ヶ所においてメガソーラー(合計140MW)が発電中である。当初の中間目途値(2020年3月期末の発電容量135MW)はすでに達成済みであるが、2020年2月には発電容量60MWの超大型事業(福島地区)が完成予定となっている。なお、ROAが7.6%(前期は4.4%)に大きく改善しているのは、季節要因(夏場は太陽光発電の稼働が高まる)によるものであり、通期では6.0%前後の水準に落ち着くものと見られる。また、環境意識の高まりに対応したサービスの拡充にも取り組んでおり、独自の「再エネ100宣言RE Action※1」向けサポートプログラムのほか、「ポストFIT」に向けたPPA(電力販売契約)サービス※2の提供にも注力している。
※1 「再エネ100宣言RE Action」とは、グリーン購入ネットワーク等4団体による協議会により設立され、中小企業や自治体、病院、教育機関等が再エネ100%を宣言できる新たな枠組みである。
※2 顧客の施設屋根等に太陽光発電システムを設置し、顧客へ直接、環境価値のあるCO2フリーのグリーン電力を供給する枠組みである。
(5)医療・福祉
具体的な数値目標は掲げていないが、注力するFPSメディカル(診療・介護報酬債権ファクタリング)については、地域金融機関や医療コンサルとの連携により順調に伸びており、2019年9月末の「営業資産残高」は前期末比35.6%増の141億円に拡大した。また、2019年7月10日には、医療インキュベーター(株)の日本医療機器開発機構(以下、JOMDD)※との資本業務提携を公表。JOMDDが開発・販売を行う製品の導入が促進されるようファイナンススキームの開発を担うとともに、JOMDDの知見を活用することで、戦略分野に位置づけている「医療・福祉」の強化を図っていく方針である。また、両社と取引のある医療機関及び提携先との連携を通じ、シナジー創出にも取り組む。
※JOMDDは、医療シーズの開発から販路確保の支援までをワンストップで行う、日本では数少ない医療インキュベーターである。
(6)新領域(BPOサービス事業)
前述のとおり、アクリーティブが展開するFPS(売掛債権早期支払サービス)及びFPSメディカル(診療・介護報酬債権早期支払サービス)が順調に拡大。また、2018年10月に連結化したインボイスによる一括請求サービスも上乗せ要因となっている。さらに、2019年8月には幅広いバックオフィスサービスや業務コンサルティングを展開しているNOC※1の連結子会社化を発表。従来有していた「経理・決済」に加えて、「人事」「総務」「営業事務」「RPA」などへサービス領域を拡大するとともに、顧客ニーズを見える化する「業務コンサル機能」の強化など、取引先の多様な業務効率化ニーズに対応する体制を整えた。なお、BPOサービス事業を担う中核子会社の経常利益(上期実績)は、インボイスが24億円、アクリーティブが8億円、NOCが4億円※2となっており、単純に足し合わせると半期ベースで36億円の規模に上る。
※1 30年1,000社の業務改善で積み重ねたノウハウを有しており、小ロット・多品種のBPOサービスの提供や業務コンサルを通じた顧客課題の見える化などに強みがある。
※2 ただし、NOCの業績貢献は第3四半期から開始される。
以上から、2020年3月期上期の実績を総括すれば、業績面で好調を持続(過去最高水準)したことに加え、各戦略分野についても進捗にやや濃淡あるものの、総じて順調に進展していると評価して良いであろう。特に、「営業資産」の積み上げとROA向上の両面により、質の高いベース利益が底上げされたところは評価すべきポイントと言える。また、活動面でも、NOCの連結化によるBPOサービス事業の強化や環境経営への取り組みなど、同社ならではの独自性を打ち出し、具体的な成果を残すことができた。一方、あえて課題を挙げるとすれば、「航空機」の計画に対する遅れと「海外」の伸び悩みである。いずれもインオーガニック戦略(M&Aや提携等)がカギを握ると見ているが、今後の動きをフォローしていく必要がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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