日本経済シナリオ3:「シェアリング」前編【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
このような状況下において今後の日本経済に大きな転換点となる可能性があるのは、きたるべき「第4次産業革命」だ。この技術革新の波に国家としてどのように対処するかが、今後の日本経済の行く末を大きく左右することになろう。
本シリーズでは、日本経済が取り得る未来について考察し、導入とともに「ゆでがえる」「格差不況」「シェアリング」「黄金期」という4つのシナリオを紹介し、日本経済が取り得る未来と第4次産業革命が経済面に与えるインパクトを考察したい。各シナリオはそれぞれ数回にわたってご説明してゆく。
本稿ではシナリオ3「シェアリング」前編をご紹介する(※)。シェアリングシナリオは、計2回にわたってご説明する。
※導入と、シナリオ1「ゆでがえる」、シナリオ2「格差不況」は、別途「日本経済シナリオ:第4次産業革命の与えるインパクトとは【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」、「日本経済シナリオ1:「ゆでがえる」前編【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」、「日本経済シナリオ2:「格差不況」前編【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」、
などを参照。
■シェアリングシナリオとは
政府は日本の経済規模が少しずつ縮小していく中で、税制に関する意思決定を迫られる。法人税や消費税を現行の低水準のままでいくのか、税制改革は日本社会にとって重要な分岐点となる。労働人口の減少に伴う経済縮小を、税制の変更によって、ベーシックインカムなど新しい社会システムを導入し、分配型・秩序社会が誕生するというのがこのシナリオだ。
■第4次産業革命により雇用代替率は75%へ
第4次産業革命を機に、AIやブロックチェーンの台頭によって雇用代替が進み、2050年には労働代替率は 75 %に達するという予想がある。また米マッキンゼー・グローバル・インスティチュートから提供されたデータを基に日本経済新聞とファイナンシャル・タイムズ(FT)が共同で開発した分析ツールでは、相当数の業務がロボットに置き換え可能であると言及されている。米マッキンゼーでは、エンジンを組み立てる工場労働者の場合、 77 ある業務の内75 %が自動化へ移行することが可能であるという。
ホワイトカラーや事務系職場にもその波が押し寄せ、顧客の注文の文書化やパスワードのリセット作業などはソフトウエアロボットで自動化が可能だ。金融機関の事務職では60ある業務のうち、65%がロボットに代替が可能だという。さらに、一部の眼科技師や食品加工、石こうの塗装工などの職業のすべての業務は丸ごとロボットに置き換わる可能性があることも判明した。野村総合研究所「誰が日本の労働力を支えるか?」によると、日本の自動化が可能な業務の割合は55%と米国(46%)や欧州(47%)を上回るという。
実際、金融業を中心に自動化への動きは積極的に始まっている。三菱UFJグループは2017年9月に事務作業の自動化やデジタル化により、国内従業員の約30 %に相当する9500人の労働量を削減し、よりクリエイティブな仕事に振り向け、生産性を高めると表明している。
大幅な雇用代替により、社会構造も変化を遂げる。まず、社会の不安定さが高まるだろう。 前述した調査結果が示唆するように、技術の進展で職を失った多くの人々が社会とのつながりを失うことになるかもしれない。アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが唱えた「欲求の5段階」に示されたように、生きていくために必要な食欲や睡眠欲などの生理的欲求や、健康でありたいとか人並みの暮らしをしたいといった安全欲求、そして集団帰属や仲間を得たいという社会的欲求、これら低次の欲求が失業にて所得がないとか社会復帰ができないことで満たされず、経済的困窮者による暴動や犯罪率の上昇を招く原因になるかもしれない。
マーティン・フォードの著書 『テクノロジーが雇用の75 %を奪う』では、雇用代替が進むことにより、大半の消費者で将来への不安から消費支出が減少し、労働集約型産業の生産性も低下すると予想されている。失業がさらに深刻化、状況が悪化し続ける負の連鎖に陥る可能性も指摘されている。実際に、財務省の法人企業統計が算出した2015年度の労働分配率は66.1%と、07年度以来の低水準になった。企業の内部留保(利益余剰金の蓄積)は4年連続で過去最高を更新しているが、企業が内部留保を設備投資や賃金増加へつなげるような経済の好循環は拡大していない。
■ベーシックインカム制度の導入
そこで、政府は国民の所得損失分補償をすべくベーシックインカム制度の導入を打ち出す。 技術革新によって代替された労働者(=消費者)に一定の収入をもたらすベーシックインカム制度を導入することで、総需要を下支えする。政府が国民の所得損失分を補填することで個人消費を肩代わりし、企業の賃金を底上げしていく循環を生み出すだろう。政府は2種類のタイプの税を併用し、自動化された雇用の賃金を補填する。富裕層(個人)に対する高率の事業税やキャピタルゲイン税、累進課税の強化を実現するだろう。また、いくつかのタイプの消費税の運用により、賃金喪失分の捕捉が可能だ。
また、企業も多くの国民が自分の地位向上に向けた期待感を維持できるために、雇用者が 報われる報酬の受け取り方法やインセンティブの享受方法など、所得に格差をつけるシステムを導入することは十分に予想される。
(つづく~「日本経済シナリオ3:「シェアリング」 後編【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」~)
■フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
フィスコ取締役中村孝也
フィスコIR取締役COO中川博貴
シークエッジグループ代表白井一成
【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、この日本経済シナリオの他にも今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済にもたらす影響なども考察している。今回の日本経済に関するレポートは、フィスコ監修・実業之日本社刊の雑誌「JマネーFISCO株・企業報」の2017年冬号の大特集「日本経済シナリオ」に掲載されているものを一部抜粋した。
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