RSテクノ Research Memo(2):主力はウェーハ事業
(1)沿革
RS Technologies<3445>の主力事業であるシリコンウェーハ再生加工事業は、ラサ工業<4022>が1984年から行ってきたものだ。ラサ工業が同事業からの撤退を決定した後を受けて、その事業を承継すべく2010年12月に現代表取締役社長である方永義(ほうながよし)氏により設立された。
ラサ工業は1984年に事業多角化の一環としてシリコンウェーハ再生事業に着手し、1985年に宮城県三本木町(現大崎市)に三本木工場を新設して本格的に事業をスタートさせた。国内半導体メーカーの業容拡大に合わせてラサ工業の再生加工事業も順調に拡大し、再生加工分野では業界トップの地位を獲得した。しかし、国内半導体メーカーが生産規模を縮小するステージに移行すると、同社の再生加工事業も単価下落と数量減少のダブルパンチを受けて不採算事業へと転落し、ついには撤退を決定するに至った。
同社は2010年末に事業を継承した後、2011年1月から三本木工場の操業を開始した。設備と人員をラサ工業から承継したこともあって、事業は順調に立ち上がり、顧客ベースも拡大した。2014年2月には台湾に子会社を設立して新工場建設を開始した。この新工場は台南工場として2015年12月に竣工した。また、2013年にはソーラー事業(太陽光発電事業)に進出し、事業の多角化展開も行っている。証券市場には2015年3月に東証マザーズ市場に上場し、2016年9月9日に東京証券取引所市場第1部へ市場変更した。
同社の事業セグメントは2016年12月期から主力の「ウェーハ事業」と「半導体生産設備の買取・販売」及び「その他」の3つに分かれている。2015年12月期までは半導体生産設備の買取・販売事業はその他に含まれていたが、業容拡大により独立したセグメントとなった。
半導体生産設備の買取・販売事業は文字どおり、中古の半導体製造装置を韓国や台湾の半導体メーカーから買取り、今後本格的な立ち上がりを迎える中国企業向けに販売しようという事業だ。中古の製造装置の流通は、液晶パネル製造装置では一般的に行われており、将来的には半導体製造装置においても同様の動きが出てくると期待される。しかし現時点では中国の半導体産業自体が黎明期にあり、中古装置の流通はまだ立ち上がってはいない。
現在の半導体生産設備の買取・販売事業の中身は、半導体生産時に使用する消耗品の仕入れ販売だ。同社がこうした商社機能型ビジネスを行う理由は、中古装置取扱も含めた将来の事業拡大に向けての関係づくりや情報収集の意味合いがあると弊社では推測している。中国現地企業との事業は、人的なつながりが非常に重要視されるからだ。2016年12月期第3四半期累計実績では半導体生産設備の買取・販売事業の売上高が1,514百万円に急拡大しているが、これは商社機能の一環として液晶モジュールの販売が増加したことによる。
その他事業には技術コンサルティングやソーラー事業(三本木工場における太陽光発電事業)からの収益が含まれている。
(2)事業の概要
同社の手掛けるシリコンウェーハの再生加工事業を理解し、また、同社の強みやバリューをより良く理解するためには、シリコンウェーハ自体や半導体製造プロセスについての理解が不可欠だと弊社では考えており、以下に簡単に説明する。
a)シリコンウェーハ
“半導体(Semiconductor)”とは電気を通す導体(Conductor)と電気を通さない絶縁体(Insulator)の中間の性質を持つ物質である。この性質を生かして高密度に電気回路を形成した集積回路(Integrated Circuit, IC)が製造されている。PCの頭脳に当たるCPU(中央演算処理装置)や情報を記憶するためのメモリ(フラッシュメモリやDRAMなど)などはICに含まれるものである。今日では、“半導体”と言えば“半導体の性質を応用した製品”、すなわち、ICを意味することが普通となっている。半導体チップ、ICチップなどと表現されることもある。
半導体の性質を有する物質には様々なものがあるが、現状、ICの量産において広く使われているのがシリコンだ。多結晶シリコンを溶融したものから単結晶シリコンのインゴット(塊)を引き上げ、それを円盤状に薄くスライスして使用する。この円盤状のものを「シリコンウェーハ」と呼ぶ。半導体メーカーはシリコンウェーハの上に各種半導体製造装置を用いて微細な回路を形成し、半導体チップを製造する。
シリコンウェーハに関して頭に入れておくべきポイントは以下のような点だ。
1)シリコンウェーハには何種類かのサイズがあり、大型化する傾向にある。
これは、1枚のシリコンウェーハ上にできるだけ多くの半導体チップの回路を形成する方が半導体チップ1個当たりの製造コストを引き下げることができるためだ。現状、量産ベースでは直径12インチ(300mm)のものが最大かつ主力のサイズとなっている。それより小さいものには8インチ、6インチ、5インチなどがあり、今後登場が待たれるものには18インチ(450mm)がある。
2)シリコンウェーハの表面は高い平滑性が求められる。
半導体チップの回路加工が極めて微細であるためだ。この平滑性の実現が技術的差別化の1つのポイントだが、平滑性の実現はシリコンウェーハのサイズが大きくなるほど難しさを増す。
b)半導体製造プロセス
半導体製造プロセスは大きく“前工程”と“後工程”とに分けられる。前工程とは、シリコンウェーハの上に半導体の回路を形成する工程で、リソグラフの技術を始め真空技術や高分子化学技術など最先端の技術が駆使される。ポイントは“微細化”だ。回路の線をできる限り細くすることで、1枚のシリコンウェーハ上に数百個の半導体チップの回路を形成することが行われている。
後工程は、前工程が完了したシリコンウェーハを個々のチップに切り分け、半導体パッケージと呼ばれる実装用部材に装着し、半導体製品としての完成形にするプロセスだ。我々が通常目にするのはこのパッケージされたICチップである
c)シリコンウェーハ再生加工事業
半導体製造プロセスに投入されるシリコンウェーハがすべて半導体チップ製造に使用されるわけではない。前述したように、半導体製造プロセスは極めて微細なプロセスの連続であるため、一連のプロセスの各段階で、テストや評価を繰り返しながら製造プロセスを進めていく必要がある。この用途のシリコンウェーハを「テストウェーハ」や「ダミーウェーハ」、「モニターウェーハ」などと呼ぶ(以下、当レポートではこれらを総称して「モニターウェーハ」の用語で統一する)。
モニターウェーハの使用量は、現状では全使用量の約20%と見られている。すなわち、半導体製造ラインに100枚のウェーハが投入されるとすれば、実際に半導体チップに加工されるもの(この用途のウェーハを“プライムウェーハ”と呼んでモニターウェーハと区別することがある)は80枚であり、20枚はテスト・評価用途に使用されるということだ。
テスト・評価用途にも新品ウェーハを投入することが基本ではあるが、半導体メーカーには、少しでも半導体製造コストを下げるため一度使用したモニターウェーハを再利用するニーズが出てくる。このニーズに応えて一度使用したモニターウェーハの表面を研磨し直して再利用できるようにすることが同社が行うシリコンウェーハの再生加工事業ということだ。
具体的な事業モデルとしては、各半導体メーカーから同社に送付されてきた使用済みのモニターウェーハを同社が再生加工して送り返し、対価として再生加工賃を受け取るというものだ。モニターウェーハは各半導体メーカーの企業秘密やノウハウが詰まっているため、きちんと個別単体管理され、依頼主である半導体メーカーに確実に返送されるようになっている。
再生加工事業者が受け取る再生加工賃は、新品のプライムウェーハの20%というのが一つの目安となっている。経済産業省生産動態統計から求めたシリコンウェーハ1枚当たりの価格(全サイズ平均ベース)は約9,000円だ。そうした現状から、1枚当たり2,000円(輸出は米ドル建てで20ドル)とみておけばイメージしやすいだろう。
この再生加工賃は主として2つの要因で変動する。1つはプライムウェーハの価格の動きであり、もう1つはその時々の需給関係だ。再生加工需要は半導体メーカーの設備稼働率に主として左右される。半導体メーカーの稼働率はさらに半導体を大量消費する最終製品(パソコンや家電製品など)の需要に影響されることになる。再生加工に限って言えば、もう1つの需給要因がある。それは半導体工場の新規稼働や新規ライン投入、プロセスルール(微細加工レベル)の変更などがあったときだ。こうしたイベントがあると、半導体メーカーは量産の前に製造ライン安定化のために大量のモニターウェーハを投入するためだ。一方供給側については、前述したような再生加工賃の水準では新規参入者が利潤を獲得することが難しく、既存メーカーにおいても能力増強投資を容易に決断できないため、ある意味では安定した状況にあると言える。
ウェーハ再生加工ビジネスの収益モデルを簡略化すると、まず売上高は、ウェーハの再生加工処理枚数と平均加工賃の積で求められる。一方、売上原価は、工場の稼働のための変動費、固定費だ。この中の大きな要素としては、労務費と減価償却費が挙げられる。そこからさらに販管費が控除されて営業利益が残るという流れだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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