日本トリム Research Memo(5):既存製品を新規市場に展開する市場開拓戦略は、海外事業があてはまる
■日本トリム<6788>の会社概要
(6)市場開拓戦略
a)海外事業−アジア市場の開拓を図る
インドネシアでの事業が急拡大している。2006年に、インドネシアに同国財閥のシナルマス・グループとの合弁企業PT. SUPER WAHANA TEHNOに出資した。「Pristine」ブランドにより、電解水のペットボトルとガロンボトルの製造・販売を行っている。自然豊かな地に湧き出した良質のミネラルウォーターに、同社の電解水生成の技術が利用され、安全で美味しく、健康に良い水を生成している。販売体制の強化を図っており、インドネシア国内の拡販と同時に、シンガポールにも輸出している。家庭用だけでなくホテル飲食店にも納入されている。
韓国では、2016年に100%子会社のHankook TRIM CO.,LTDを設立し、それまでの代理店販売から本格参入に移行した。日本と同様に、家庭用整水器は胃腸症状の改善効果が認められている。韓国国内では、浄水器の普及率が80%を超えると言われており、整水器への代替を図る。
(7)多角化戦略
新規市場に新規製品を販売するのが、多角化戦略となる。医療分野と農業分野と新しい市場を開拓することになるが、製品は核となる技術が電解水素水生成で共通している。
a)医療分野−電解水透析の普及拡大へ
医療分野では、血液透析への応用に注力している。2007年に、東北大学と設立した産学共同ベンチャー、(株)トリム メディカル インスティテュート(TMI)が、電解透析水整水器の販売を行っている。同社の出資比率は98.0%になる。
血液透析は、尿毒症性毒素に汚染された血液を体外のダイアライザー(人工腎臓)に送り込み、血液をきれいにして体内に戻す治療法だが、1回当たり120Lと大量の水を使う。透析液は、原液または粉末をRO水(逆浸透膜で不純物を除去した純水)で希釈して作られる。電解水透析は、希釈用水に電解水素水を用いていることで、炎症や酸化ストレスを抑制して、患者の副作用やQOL(Quality of Life)を改善することを目的としている。
同社は、1995年から研究開発に取り組み、水素を含有する透析液希釈水を作成する逆浸透精製水製造システムの開発に成功。電解水透析の導入施設は増え、全国15施設、251床で実施されている。実施床数は、2014年3月期の188床から3割以上増加した。
2016年9月に、新型電解水透析逆浸透精製水製造システム(新型RO装置)「EW-SP11-HD」を発売した。同製品は、国立研究開発法人 科学技術振興機構の委託研究開発費によって、アルファ電子(株)、同社、一般社団法人電解水透析研究会及び福島県立医科大学により共同開発された。新型個人用RO装置は、従来品と比べ設置面積を約4割削減し、重量を約3分の1の60kgに小型・軽量化した。向こう1年間で、医療機関40施設の設置を目標とする。販売は、代理店契約を結ぶ日機装<6376>と連携する。対象は、全国4,330施設(13万床)、最大市場規模が900億円と想定している。
東北大学とは、2016年10月に電解水透析の共同研究部門を開設した。電解水透析の臨床的有効性を無作為化比較臨床試験により評価する。また、在宅で行う腹膜透析への応用に関し、早期探索的臨床試験を実施する。
b)中国病院運営事業−国策「日本の医療の国際展開」を官民共同で展開
中国の慢性期疾患、特に糖尿病患者は1.4億人以上、予備軍を含めると2.4億人以上と推定される。糖尿病患者の増加を背景に血液透析患者も増加傾向にあり、世界最高レベルにある日本の糖尿病治療と血液透析技術への関心が高い。中国における日本式医療サービスを提供する病院運営事業は、内閣官房健康・医療戦略室が支援する意向である。
同プロジェクトを遂行するため、中国のコンサルタント会社と香港に特別目的会社「Han Kun International Holdings Limited(漢コン國際控股有限公司)」を設立した。当初の出資金は約3億円で、40%の出資比率であった。今後、日中投資家のコンソーシアム向けに増資が実施される。当初投資規模総額は、約16億円が見込まれている。
日本国内病院から専門医が参加する。また、日本の医療の国際展開を目的に、経済産業省の支援を得て設立された一般社団法人Medical Excellence JAPAN (MEJ)のサポートを受けて、医療関係者派遣、現地医療スタッフの指導・教育を実施する。2017年内の事業開始を計画している。
2017年内を目指して、北京市にフラッグシップとなる200床規模の病院の開業準備を進める。血液透析用のベッドは50~100床程度となる予定だ。第1号の展開を見てから、5~7年以内に上海や大連などで展開し、中国国内に10病院のチェーンを運営し、約500億円の売上高規模を目指す。中国にとどまらず、アジア各国へのグローバル展開を視野に入れている。
c)農業分野−次世代型大型施設園芸で還元野菜栽培を計画
農業分野では、電解水素水による高品質・高付加価値農業の実現を目指している。電解水素水を植物に散布や潅水することにより、作物の高品質化や収穫量増加を図る。植物工場への応用も進めている。同社は、対象となる農家へ10%普及すると、市場規模が2,000億円になると推定している。
2015年7月に、高知県、南国市、JA南国市、高知大学と同社の5者で「還元野菜プロジェクト」推進連携協定を締結し、産官学協働で実証、普及を推進している。「還元野菜」のブランディングも進める。2016年秋から、約3億2千万円規模の園芸用大型施設において、次世代型施設園芸での「還元野菜」の栽培を開始している。同協定による取り組みは、農林水産省補助事業「農業界と経済界の連携による先端モデル農業確立実証事業」に採択され、補助金が交付されることとなった。一方、2016年4月から高知県の補助事業「環境制御技術普及促進事業」の対象に同社の農業用整水器が追加され、要件を満たす対象者に導入費用の3分の1が補助されることとなった。同時に、県内の市からも最大3分の1の補助が出るため、農業従事者の負担は3分の1で済む。他県においても、農業用整水器の設置、検証を進め、普及拡大に取り組む。
これまでの実証事業では、高知県の企業である(株)南国スタイル及び高知大学農学部の栽培した小松菜を公益社団法人日本食品衛生協会が分析した結果、重量は3割強、草丈は2割強、βカロテンの含有量は1割以上増加した。他に、フルーツトマト、春菊、ホウレンソウ、白菜、水菜、苺などが電解水素水で栽培されている。
滋賀県草津市で行った電解水素水によるメロンの栽培は、琵琶湖水栽培に比べ収穫量及びサイズが1.3倍となった。糖度は、草津メロンの特秀規定である14.6度を大きく上回る18度前後であった。2015年の試験導入に続き、2016年も2年連続して農業用整水器(還元野菜整水器)を用いた栽培で有意な差が再現できた。
農業用途の製品として、還元野菜整水器TRIM AGシリーズを2014年10月に商品化した。2016年6月時点で、延べ133ヶ所での利用実績がある。試算では、収穫量増加によりイニシャルコストを1~2年で回収できるとしている。
d)畜産分野−競走馬の胃潰瘍発症予防で好結果
帯広畜産大学臨床獣医学研究部門と競走馬の胃潰瘍発症を電解水素水飲用により予防する共同研究を行った。2016年6月号のJVM獣医畜産新報に論文を発表した。現在、大井競馬場における試験を実施中であるが、競走馬の厩舎への営業を開始する。今後は、競走馬だけでなく、鶏、牛、豚などの畜産分野への進出を計画している。
e)再生医療関連事業−さい帯血バンクの保管数の市場シェアは約90%
テーラーメード医療や再生医療へ本格的に進出するため、2013年9月にステムセル研究所を買収して子会社化した。同子会社は、ステムセル(造血系幹細胞)の保管業務を行う。同子会社は、保管数が民間のさい帯血バンクで市場の約90%のシェアを持つ最大手になる。保管数は、2016年3月末現在で37,215名となり、2年間で6,083名増加した。現在の保管施設の収容能力は、9万人分ある。利用料金は、採取時の分離費用等が16万円、10年間の保管費用が5万円、合計21万円である。10年後に更新する場合は、手数料と10年間の保管費用で7万円となる。
さい帯血に含まれる幹細胞は脳性麻痺の治療等、再生医療分野で注目されている。2014年11月に「再生医療等の安全性の確保に関する法律」が施行され、再生医療分野におけるさい帯血の臨床試験の道が開けた。同子会社の細胞処理センターは、厚生労働省より特定細胞加工物製造許可を取得した。再生医療を実施する医療機関からさい帯血の調製を受託することが可能になり、ビジネスの幅が広がる。
日本における年間出生数に対するさい帯血の保管率は0.3%と、米国の7.0%、韓国の12.0%と比べて極めて低い。同子会社は、さい帯血保管に関する啓蒙活動を行っている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
<RT>
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