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コラム【新潮流2.0】:タダより高いもの(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)


◆「タダより高いものはない」という言葉がある。モノやサービスそのものは無料・無償で提供されても、それに付随する手間や面倒などのためにトータルではかえって高くつくという意味である。ならばタダより安い「マイナスの価格」のものはどうか?タダよりもっと高くつくかもしれない。

◆原油の先物価格がマイナスになったのは、まさにこのロジックである。コロナ危機の不景気で需要が落ち込んだ原油は在庫があふれかえり貯蔵タンクはどこも満杯。先物の買いを期日までに決済しないと現物が受け渡されてしまうが、現物の原油を貯蔵するところがない。海や地面に流すわけにもいかない。期日を目前に控えた5月限に投げ売りが殺到した次第だ。タダを下回る価格のマイナス分は、いわば処分代。手数料を払って粗大ごみを引き取ってもらうのと同じだ。

◆モノの値段は需要と供給で決まる。原油需要の減少はコロナ危機のせいだけではない。ESG、SDGsで環境に対する世間の関心が高まる中、石油・石炭といった化石燃料は敬遠され、より低炭素なエネルギー源へのシフトが進む。供給の面でもシェールオイルの登場に加え、産油国の協調体制も崩壊し、原油はじゃぶじゃぶの状況にある。かつては戦争の原因にもなった石油がいまや文字通り、タダのような存在になってしまった。

◆タイラー・コーエンは『大格差』の中で、グローバル経済で価値が上がる希少なものとして以下の3つを挙げた。1. 良い土地と天然資源、2.知的財産、3.特殊な技能を持った優れた労働力。改訂版を出すなら、1のあとに(但し、原油を除く)と付け足さなければならないだろう。原油価格が安値に沈む一方、電気自動車のテスラの株価が史上最高値圏にあるのがいかにも象徴的である。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
(出所:4/27配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)




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