抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)薬の医薬品候補リストを発表
- 2020年05月08日 11:00:00
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分子機能研究所(Institute of Molecular Function、https://www.molfunction.com/jp/)
分子機能研究所(Institute of Molecular Function;埼玉県三郷市)の辻一徳(ツジ モトノリ)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に効果が期待される既存医薬品64品目を生物活性化合物データベース200万化合物から見出し、その成果が2020年5月1日(2020年3月31日投稿)、FEBS Open Bio誌に受理され、オープンアクセスでオンライン出版することが決まりました。本研究は、国内最初のコンピュータシミュレーションによる抗SARS-CoV-2薬のスクリーニングに関する報告例となり*、COVID-19の特効薬発見に結び付く成果として注目されます。
*インシリコ創薬(コンピュータ創薬)を用いた研究として、正規に査読審査を経て受理された報告例としては、本報告が国内最初となります。
【背景】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2、2019-nCoV)は2019年11月に中国武漢で発生が確認され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はわずか3か月間のうちに、世界中に蔓延し、世界保健機関(WHO)がパンデミック宣言を表明、2020年5月2日現在、全世界で感染者数はPCR検査で分かった範囲だけでも320万人を超え、23万人を超える死者が報告されています。一部解除されつつありますが、欧米では都市封鎖が行われ、国内でも4月7日と4月16日に緊急事態宣言が発令される事態となっています。世界中で医療崩壊が危惧されており、また、経済的影響に見通しが立たない状況であるにもかかわらず、有効な新薬やワクチン開発には数年を要すると考えられています。当初、HIVプロテアーゼとの類似性からHIV治療薬に効果が期待されましたが、明らかな優位性は認められていない状況です。一方、抗インフルエンザ薬であるファビピラビル(商品名:アビガン)に治療効果の優位性が認められるとする報告があるものの、高用量経口投与が必要で催奇形性も認められており、また、エボラ出血熱治療薬のレムデシビルが効果があるとの報道もありますが、より安全で低用量経口投与可能な特効薬が待ち望まれています。
【成果】
今回の研究では、欧州バイオインフォマティクス研究所(ChEMBL)が管理運営する生物活性化合物データベース(約200万化合物、内13,000個以上の前臨床、臨床、承認薬を含む)を対象に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2、2019-nCoV)の構成タンパク質であるメインプロテアーゼ(Mpro)の活性部位に特異的に結合して阻害する既存医薬品をコンピュータ上でドッキングシミュレーションし、阻害剤候補となる医薬品をバーチャルスクリーニング(インシリコスクリーニング)技術で64品目まで絞り込みました。特に、2種類のドッキングシミュレーションのコンビネーション技術を用いた点で新奇性があり、これらバーチャルスクリーニングを辻代表が研究開発したソフトウエア(構造ベース創薬システム)上で管理しつつ実施しました。
絞り込んだ医薬品の中には、作用機構は異なるものの、ドイツ霊長類センターが治療効果が期待されるとして発表しているカモスタットと同じスタット系の抗炎症薬や、インドネシアのアイルランガ大学が効果が期待されるとして発表している感染症治療薬なども含まれていました。加えて本研究では、安全性が確認されている短時間作用型睡眠薬にも効果があると予測されました。また、得られた医薬品候補化合物には医薬品として毒性試験、薬物動態試験や臨床試験は行われていないものの、生物活性を有する化合物が多く見つかっており、このうち、特に28個の既知生物活性化合物についてはMproと強く結合して阻害する可能性が高いと予測されました。
見出された64品目の医薬品は様々な疾患に対する治療薬であり、ドラッグリポジショニングの観点から早期に適用拡大できる可能性があります。これらの既存医薬品や生物活性化合物にCOVID-19治療薬としての効果が認められれば、新薬開発するよりも、迅速な開発が期待できます。
【今後の期待】
今回の研究成果について、2020年2月末から3月初めにかけて、文部科学省及び厚生労働省から緊急研究開発支援を受けている国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が取りまとめる研究チームの国立感染症研究所(NIID)及び東京大学医科学研究所、更には、国内大手製薬メーカー各社に対して、要請に応じて協力する旨を個別に呼びかけ、また、国立研究開発法人科学技術振興機構researchmap、分子機能研究所Webサイト、Facebook広告、Google広告、YouTubeなどを通して要請に応じて協力することを広く発信してきています。一刻も早く世界に発信するため、今回の国際査読誌へのオープンアクセスでの投稿にも踏み切った経緯があります。国際誌での論文受理には複数の任意の国際的な専門家による厳しい査読審査をパスする必要があり、時間がかかりました。今後も、インシリコスクリーニングで見出した医薬品候補化合物について効果を検証できる共同研究先を広く募集し、COVID-19への効果を検証していきます。
【成果の応用】
分子機能研究所の辻は、独自に研究開発製品化した構造ベース創薬システム(「Homology Modeling Professional for HyperChem(HMHC)」及び「Docking Study with HyperChem(DSHC)」)を2005年に国内外に先駆けて発表し、学術界や産業界に大きく貢献しています。これらのシステムが今回の研究でも貢献しており、創薬基盤技術の更なる高度化を目指していきます。
【用語の説明】
オープンアクセス:投稿者が出版費用と購読費用を全額負担することで全世界の誰もが自由に無料で閲覧できる論文出版形式。
査読審査:学術論文は投稿者とは無関係な複数人の専門分野の研究者が論文審査を行い、受理か拒絶かが決定されます。ピアレビューと呼ばれる手法で、査読者の利権が絡むため公平性を欠くことも多く、問題点も多いが、正式な学術論文発表のためのほぼ唯一の方法。複数の学術誌に同時に投稿する(査読者を変更する)二重投稿などが厳しく禁止されており、また、無査読のまま公開した場合は学術論文として認められなくなるため、査読者の対応によっては、学術論文として受理出版されるまでに半年から数年かかることも少なくありません。
インシリコ創薬、コンピュータ創薬:コンピュータ上で医薬品の創生に関わる学問分野。
メインプロテアーゼ(Mpro):ウイルス増殖に関わる酵素(タンパク質)。
活性部位:酵素機能を担う中心部分。
阻害剤:酵素機能を失活させる医薬品などの化学物質(化合物)。
構造ベース:タンパク質分子や核酸分子などの生体高分子の立体構造情報を利用する方法。
ドッキングシミュレーション:コンピュータ上で医薬品などをタンパク質などの生体高分子と結合させ、エネルギー計算に基づいて阻害剤などの医薬品になりうるかを予測する技術。
バーチャルスクリーニング、インシリコスクリーニング:数万化合物以上を一気にドッキングシミュレーションし、エネルギー計算に基づいて医薬品候補化合物を絞り込む技術。
ドラッグリポジショニング:ある疾患の治療薬に別の疾患に対する治療効果が認められ、代用する方法で、すでに医薬品として承認されているため、臨床試験が簡略化でき、短期間のうちに適用拡大して、目的疾患の医薬品として利用することを可能とする方法。
【本件に関するお問い合わせ】
分子機能研究所(Institute of Molecular Function)
〒341-0037
埼玉県三郷市高州2-105-14
TEL:048-956-6985 FAX:048-956-6985
E-Mail:support@molfunction.com
【関連リンク】
分子機能研究所:
https://www.molfunction.com/jp/
https://www.molfunction.com/tsuji_jp/
WILEY(オンライン出版先):
https://febs.onlinelibrary.wiley.com/journal/22115463
Facebook:
https://www.facebook.com/MolecularFunction/
YouTube:
https://www.youtube.com/watch?v=cLt5rVBYMBw
【画像 https://www.dreamnews.jp/?action_Image=1&p=0000214649&id=bodyimage1】
配信元企業:分子機能研究所
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