新型コロナウイルスにより、ディールプロセスの急速なデジタル化、ローカル化の加速、新規ケイパビリティを獲得する必要性の高まりなど、何年も先だと思われていたM&Aディールのトレンドが一気に加速しました。
2020年初旬は新型コロナウイルス危機により、M&Aの取引はほぼ完全に停止しましたが、後半になると、第3、第4四半期に取引額が30%以上増加しました。M&Aを手掛けた約300人を対象としたベイン・アンド・カンパニーの調査によると、回答者の約半数が、自身の業界で2021年にM&A活動が活発化すると予測しており、今後3年間における自社成長の45%をM&Aが後押しすると予測していることが分かりました。この数字は過去3年の約30%と比べて大幅に上昇しています。
ベイン・アンド・カンパニーのパートナーで、東京オフィスのM&Aプラクティスの責任者を務める大原崇は2021年のM&Aはさらに活発化するが、日本企業を含めたM&Aの当事者には、過去の延長線上にとどまらない取り組みが求められると見込んでいます。特に、ESGを投資テーマとして正面から据える等のM&A戦略・ロードマップの再考、ディール形態の選択肢の拡充(コーポレートベンチャーキャピタル、提携、少数持ち分の取得等)、M&Aプロセスのデジタル化等はもはや避けて通れないと述べています。
取引マルチプルの驚くべき上昇
2020年、パンデミックで経済的な打撃を市場が受けているなか、予測に反して多くの業界で取引評価額が高騰しました。世界全体を見ると、EV/EBITDA倍率(企業価値を利払い税引き前減価償却償却前利益で割った数値)の中央値は、テクノロジー、通信、デジタルメディア、製薬といった急成長産業に支えられて、2019年の13倍から14倍に上昇しました。
売却の緊急性の高まり
2020年の事業売却は件数ベースで15%、金額ベースで21%減少しました。しかし危機の影響で業界の混乱が深まる中、企業は希少なリソースを最適化するために売却の緊急性が高まっています。ベインの調査によると、M&A実行者の約40%が、今後12カ月で売却取引が増えることを予想しており、パンデミックの打撃が最も大きい業界、例えば小売、エネルギー、ホスピタリティー業界で売却活動が特に活発化すると予測されます。また、M&A実行者の約62%が、各自の業界で、今後12カ月でカーブアウト資産の買収に対する関心が高まると予測しています。
成長と新たなケイパビリティ獲得に対する興味は継続
近年、急成長市場への事業拡大や、主にテクノロジーやデジタル関連の新たなケイパビリティ獲得を目的とする、スコープディールのシェアが高まっています。このトレンドは2020年も続いており、10億ドル超の取引全体に占めるスコープディールのシェアは件数ベースで56%と、2015年の41%から増加しました。
特にテクノロジー、消費財、医療分野でスコープディールのシェアの高さが際立ちます。最近のスコープディールでは、新しい重要なケイパビリティを獲得する必要性を軸としたものが多数見られました。スケール拡大を目的としたM&Aも特にビジネスモデルの混乱が加速した業界において重要視されています。伝統的なメディア業界や小売業界では、さらなる統合が進むことが予測されます。
銀行業界や通信業界においても、規制当局の奨励を受けて統合が進んでいます。
ローカル化が進むサプライチェーン
地域をまたぐ取引に対する監視の高まりや継続する米中間の貿易摩擦により、地域をまたぐ取引はここ数年ですでに減速していましたが、新型コロナウイルスの影響で、国内や地域内の取引が優先され、地域をまたぐM&Aがさらに減少しました。本調査の回答者の約60%が、今後の取引の評価においてサプライチェーンのローカル化が重要な要素になるだろうと回答しています。
このローカル化の流れにより、アジア企業による南北アメリカや欧州でのアウトバウンド取引は、2020年に前年比で29%減少しました。大中華圏の買い手の取引支出額は、総額では2.5%の減少にとどまりましたが、支出額の93%が国内企業に向かい、南北アメリカ、中東、アフリカでの取引に向けられた金額は約5%に留まりました。中国のアウトバウンドM&Aは2019年の11%前後、2016年の約25%に比較すると急激な落ち込みとなりました。
バーチャルなデューディリジェンスと統合
2020年には、取引のローカル化に加えてオンラインへの移行も急速に進みました。企業M&AやPEのディールにおいてまだ多くの課題はあるものの、バーチャルで行うデューディリジェンス、取引成立、統合が進みました。ESG(環境・社会・ガバナンス)もM&Aの重要な基準と見なされ、2020年は対象審査の拡大、新たなデューディリジェンス能力の開発、新たなデータソースの活用が求められるようになった年となりました。
ベイン・アンド・カンパニーについて
ベイン・アンド・カンパニーは、未来を切り開き、変革を起こそうとしている世界のビジネス・リーダーを支援しているコンサルティングファームです。1973年の創設以来、クライアントの成功をベインの成功指標とし、世界37か国59拠点のネットワークを展開しています。クライアントが厳しい競争環境の中でも成長し続け、クライアントと共通の目標に向かって「結果」を出せるように支援しています。ベインのクライアントの株価は市場平均に対し約4倍のパフォーマンスを達成しており、私たちは持続可能で優れた結果をより早く提供するために、様々な業界や経営テーマにおける知識を統合し、外部の厳選されたデジタル企業等とも提携しながらクライアントごとにカスタマイズしたコンサルティング活動を行っています。
商号 : ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン・インコーポレイテッド
代表者 : 奥野 慎太郎(日本における代表)
所在地 : 東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー8階
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