
石丸伸二氏が代表を務める地域政党「再生の道」。
22日投開票の東京都議選には42人が立候補したが、全員が落選する結果に終わった。
その中に「石丸色を排除する」という作戦をとった女性新人候補がいた。
この戦略を考えたのは、彼女の同僚でもある楽天グループの社員たちだった。
批判も受けたという、その異色の選挙戦とは――。
気象予報士、社会問題に関心
「命を削る思いでやってきた。できることはすべてやったと思う」。世田谷区選挙区(定数8)に再生の道公認で出馬した鳥海彩氏(37)は23日、落選が決まると、そう敗戦の弁を述べた。
気象予報士でもある鳥海氏は元々、環境など社会問題に関心が強かった。
楽天グループに入社後は自治体と仕事をする機会が増え、次第に首長として課題解決にあたりたいとの気持ちが強くなった。
そんなとき、再生の道の立ち上げを知った。特に石丸氏のファンということではなかったが、「議論できる人を求めている」という石丸氏の言葉には感銘を受けた。
首長になりたい気持ちに変わりないものの、まずは都議を目指すことにした。
選挙ポスターに石丸氏の写真入れず
「脱石丸」は選挙当初から徹底していた。
再生の道の他の候補者たちは街頭演説の際、石丸氏の名前を連呼していたが、3人の子の母親でもある鳥海氏は持論の子育て政策などを訴え続け、石丸氏や再生の道には触れなかった。
街宣車に取り付けられた看板や選挙ポスターにも石丸氏の写真を入れず、「再生の道」という文字は極力小さくした。
色調も党のシンボルカラーである紫ではなく、ピンクが使われた。
鳥海氏が着る服も、ボランティアがかぶる帽子もすべてピンクだ。
選挙戦を通じ、ターゲットとして意識したのは「石丸氏のことをよく思っていないが、鳥海氏を応援したいと考える人たち」(選対幹部)だ。
鳥海氏もこう言う。
「石丸氏のファンはすでにインターネットを通じて私のことを知っている。であれば、それ以外に支持を広げることが大切だと思った」
石丸ファン頼みでは決して選挙に勝てないことを彼女は理解していた。
石丸氏の応援演説を欠席、批判も
選挙戦の中枢を担ったのは、鳥海氏も勤務している楽天グループの社員5人。彼らは有休をとり、専従で選挙を手伝った。
さらに鳥海氏の出身大学である慶応大学の同窓生や「ママ友」も支援拡大に動いた。
石丸ファンであるボランティアも加わっていたが、他の再生の道の陣営と異なって中心ではなかった。ピンクの帽子をかぶることや、ポスターに石丸氏の写真を入れないことに反発し、去って行く人もいたという。
選挙戦が進むにつれて、陣営は少しずつ手応えを感じるようになった。
当初は街頭に立っても、声をかけてくるのは「ネットで見ましたよ」と話すごくわずかな人たちに限られていた。
それが連日にわたって街頭活動を続けるうちに、「日増しにファンが増えていく実感があった」(選対幹部)。
そのさなかに一つの出来事があった。
6月17日、応援演説をするために石丸氏が東急線の二子玉川駅(世田谷区)を訪れた。鳥海氏も一緒に演説する予定だったが、連絡ミスもあって彼女はその駅に行けなかった。
代表が応援に来ているのに、候補者自身が顔を出さないのは前代未聞のことだ。
「脱石丸」の戦略を取っていることは知られていたことから「故意に行かなかったのでは」といぶかる声も相次いだ。
選対幹部は「単純なミスだった」と強調した上で、「『もう応援をやめる』などと失望の声が届いたのは確か」と話す。
ただ、それ以上に候補者を励ます声も多かったという。「同じ時間帯に別の駅でした街頭演説は、大きな手応えがあった。迷惑をかけたが、単純に選挙戦のことだけを考えたら結果としてプラスだった」と言い切る。
脱石丸を掲げたことに批判の声は根強かったが、陣営は意に介さなかった。
鳥海氏は言う。「都議選の投票用紙に『石丸伸二』と書かれても、誰も当選できないんですよ」
しかし、そんな戦いも当選には結びつかなかった。
鳥海氏が獲得したのは1万1537票。立候補した18人中14位に終わった。
「応援してくれた友人や知人には感謝しかない。また次の機会があれば頑張りたい」
【川上晃弘】