
トランプ米大統領とプーチン露大統領がウクライナの戦争終結に向けた交渉を始めることで合意した。ただウクライナが交渉にどう関与するのかは判然とせず、頭越しに米露で交渉が進むことへの懸念も広がる。
プーチン氏とトランプ氏の電話協議を巡っては、これまでに数回、米メディアなどで「実施された」と報じられてきた。だが、ロシア側が公表したのは今回が初めてだ。プーチン政権にとってある程度、満足できる状況があったためとみられる。
優勢を背景に強気
ロシア側は従来、停戦交渉を始める条件として①ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟断念②ロシアが併合を宣言したウクライナ東・南部4州からのウクライナ軍の完全撤退――を挙げてきた。また、開戦当初から掲げてきた、ウクライナの「中立化」「非軍事化」「非ナチ化」という戦争の目標を維持している。つまりは、ウクライナ全体をロシアの影響下に置きたい考えだ。
戦場ではロシアが優勢だ。ウクライナが昨年から越境攻撃を続ける露西部クルスク州については、被占領地域全ての奪還には至っていないが、激戦が続くウクライナ東・南部4州では露軍が押している。こうした戦況を背景に、ロシア側は交渉の条件を引き下げる構えを見せていない。
ゼレンスキー氏への揺さぶりも
プーチン氏は、戦時下で国政選挙が実施できないウクライナの状況を利用し、昨年5月に任期が切れたゼレンスキー大統領の政治的正統性について、繰り返し疑義を呈している。
今年1月の国営テレビのインタビューでは、「ウクライナの憲法によると、大統領は戒厳令下であっても自らの権限を(任期を過ぎて)延長する権利を持たない」と改めて主張した。敵対するゼレンスキー氏に関して、和平交渉の文書に調印する権利はないと訴え、揺さぶりをかけている。
“勝利”にふさわしい状況が必要
米露首脳の今回の電話協議では、詳しい内容は明らかにされていない。ただ、ロシア側が掲げる主張に対して、米国やウクライナが一定の妥協を示さない限り、今後の交渉は難航が予想される。プーチン氏は「妥協の用意はある」と口にしているが、具体的な内容はこれまで述べていない。
露科学アカデミー・米国カナダ研究所の元副所長で軍事専門家のパベル・ゾロタリョフ氏は、プーチン政権には「“勝利”と評されるのにふさわしい状況が必要だ」と強調する。
ゾロタリョフ氏は、米国はロシアへさらなる圧力をかけるための手段に欠けることや、米露には核不拡散などの分野で共通の利害関心があることなどを指摘。それらを背景に「交渉を通じて、ロシアが“勝利”を実現する可能性は十分にある」と述べた。【モスクワ山衛守剛】