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愛らしい猫たちに命の悲哀も込め 元自衛官の彫刻家が込める思い


 猫をモチーフにした彫刻を手がける兵庫県・淡路島在住の彫刻家・花房さくらさん。作品は購入希望者が相次ぎ毎回抽選販売、台湾での美術館展示では入場規制が行われるほどの盛況ぶりで、国内外で人気を誇る。どれもこれも「可愛い」と言いたくなる作品だが、単に「猫好きの作者が可愛い猫」を作っているわけではない。花房さんが猫を通じて伝えたいこととは――。【前本麻有】

 くりくりの瞳、ぽってりとしたお腹、ふにゃっとしたしっぽ。伸ばした手(前脚)と思わずハイタッチしたくなる。そんな木彫りの猫の作品は、とにかく可愛い。

 7匹の猫がそれぞれポーズを決めた作品「世界がピカピカ」。アイドルや憧れの存在がいると、幸せな気分になって活力が湧くように「見ていて元気になれる存在」を猫で表現した。

 ただ、可愛い作品だけではない。「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」は、箱型カバンの上に鎮座する大きな猫とカバンに入った数々の子猫たち。見る者はつい「どの子が一番可愛いかな」と選びたくなる。この鑑賞者が品定めする行為までを含めて、ペットショップで選ばれ、売られる命の悲哀を込めている。作品を通じて伝えたいのはさまざまな「人間社会」だ。

 前職は海上自衛官。父が海上自衛隊の戦術航空士で神奈川や沖縄、小学5年から高校まで青森県で過ごした。県内屈指の進学校、県立八戸高校に通うも進路を決められずにいると、担任の先生が「あなたにピッタリよ!」と護衛艦「はまぎり」の体験乗船のイベントを知らせてくれたのを機に、2004年に一般曹候補学生として入隊した。

 幼い頃から粘土遊びや工作が好きで、立体作品に興味があり「定年退職したら、美術大学に行ってみたい」と胸に秘めていた。神奈川での訓練などを経て、京都・舞鶴に赴任した2年目の冬の休日。本屋で何気なく手にした美大受験雑誌を見て衝撃を受けた。「デッサン、8時間……? 美大を目指す18歳の若者はこんなにも必死になっている。定年後だなんていってられない!」。翌日、上司に退職を申し出た。

 愛知県に住んでいた姉と同居しながら美大専門予備校に通い、2度目の受験で愛知県立芸術大学に合格。鉄やテラコッタ、樹脂などあらゆる素材で立体作品に取り組んでみた。その中で木が一番、頭の中でイメージしたものを実際に手を動かして形にするスピードが合致し、相性が良かった。

 猫をモチーフにしたのは、飼っていた猫が観察しやすかったから。学生時代、実習先のスタッフに「何が良いか、10年ぐらいやり続けないとわからないよね」と言われ、まずは猫をモチーフに10年やり続けようと思った。飼っていた猫は保護猫だ。保健所で殺処分されたりペットショップで売られたり、人間の都合で左右される命。「人間も同じ動物なのに」という思いが根底にある。

 16年から淡路島に在住。庭で丸太をチェーンソーで切り出し、彫刻の作業場を設けられる希望通りの物件が「奇跡的に見つかった」と振り返る。SNS(ネット交流サービス)で作品を発表し、ファンの多くは愛猫家だが、来年も美術館での展示を控え「猫好きではない人たちに、自分の作品がどう目に映るかが楽しみ」と語った。

   ◇

 兵庫県朝来市のあさご芸術の森美術館で個展「スタア!」が10月14日まで開催中。作品集「花房さくら 木彫作品集 2014~2023 毎日が猫の日」(実業之日本社)も出版。インスタグラムは(https://www.instagram.com/sakura_hanafusa/)。

はなふさ・さくら

 青森県生まれ。海上自衛隊を経て、2014年愛知県立芸術大彫刻専攻卒業、16年同大大学院博士前期課程彫刻領域修了。

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