「もっと早く辞職を求めるべきだったとか、判断が遅いという批判は真正面から受けたい」
日本維新の会の藤田文武幹事長は9日の記者会見で、兵庫県の斎藤元彦知事への辞職要求に転じた理由をこう切り出した。事実解明の半ばで出直し選を求めることになったが、斎藤知事を再び支援するかどうかは「選挙で県民にどう訴えるかを聞かないと、判断できない」と言葉を濁した。ちぐはぐな対応に、党の迷走ぶりがあらわになった。
藤田氏は会見で、斎藤知事が県政の停滞を招いたと指摘する一方、「県政を良くしようと取り組んだ改革もあった」とし、天下りの規制や教育無償化など維新寄りの政策を推し進めた3年間の実績を一定評価。「是々非々の立場だ」と強調した。
斎藤知事は大阪府外で初めて誕生した維新系知事で、兵庫での維新躍進の象徴だった。
維新は2021年の知事選で自民党とともに斎藤氏を推薦。同年10月の衆院選では、比例復活を含め県内で擁立した公認候補9人全員が当選した。23年の県議選では議席を2倍以上に増やし、第2会派になった。
今年3月、告発文書によって斎藤知事の疑惑が浮上。維新県議団は6月、調査特別委員会(百条委)の設置に反対した。7月に片山安孝元副知事が辞意を表明し、自民県連が事実上の辞職要求にかじを切っても、事実解明を優先する立場を崩さなかった。
しかし、8月25日の大阪府箕面市長選で地域政党・大阪維新の会公認の現職が大敗したのを境に「斎藤知事への対応を誤れば、次期衆院選に悪影響を及ぼしかねない」との懸念が党内に広がった。藤田氏は同31日、地元・兵庫維新の会と協議。9月6日の百条委で斎藤知事の証人尋問の内容を聞いた上で、党としての対応を決めると軌道修正をはかった。
証人尋問の前から、立憲民主党の県議らでつくるひょうご県民連合が不信任決議案提出を決めて他会派へ働きかけを開始。維新県議団内では事実解明の優先にこだわる幹部でさえ、「維新だけが反対しているという構図は絶対に避けたい」と神経をとがらせた。6日の百条委終了直後、自民が他会派に斎藤知事への辞職要求を呼びかけると、7日までに公明や共産なども同調する方針を固め、「維新以外が辞職要求」という流れができつつあった。
維新県議団は8日、オンライン協議を経て辞職要求を決めたが、後手に回った感は否めない。結局、12日の辞職要求を表明していた自民などに先行する形で、9日に単独で要求。「ここまでの斎藤知事の説明は議会や県民が十分に納得できるものとは言い難い」――などと記した申し入れ書を服部洋平副知事に手渡した。自民県議団幹部は「こちらの呼びかけに、維新は9日に回答すると話していた。何の連絡もなく先にやるなんて」と憤った。
方針転換を急いだのは、秋にも衆院解散・総選挙が見込まれるためとも指摘される。辞職要求と事実解明の優先順位について、藤田氏は「どちらでも影響を受けたと思う。どっちがよかったかは個別の判断。県民の信を問い直すのが適切だ」とけむに巻いた。
吉村洋文・維新共同代表(大阪府知事)は9日、報道陣から党の対応の遅れを指摘され、「百条委での証言や事実(関係)を見た上で判断した。何もない段階で判断するのは違うのではないか」と打ち消した。
吉村氏は大阪府財政課長だった斎藤知事と、上司と部下の関係だった。「(府庁では)熱心でまじめで優秀だった。知事になってからは横の関係でリスペクトしていた」と振り返りつつ、知事の資質を問われる事態になったことは「予測できなかった」と述べた。【栗田亨、村上正】