勤務していた千葉県香取市の病院の60代男性院長からわいせつなどの行為を受けたとして、女性(27)が2023年、損害賠償請求訴訟を起こした。「被害を受けた時に『やめて』と言える人は多くない。声を上げることが大切」と考えたからだ。院長はその後、強制わいせつ容疑で香取署に逮捕され、24年2月、千葉地検に起訴されたが否認しており、女性は「(院長は自分が)やった行為を認めてほしい」と話す。
誕生日にアダルトグッズ、胸を触られ…
女性の訴えでは、被害を受けるようになったのは20歳だった17年の夏ごろ。高校卒業後にこの病院に就職し、当初は職場環境や待遇に不満はなかった。
しかし、徐々に院長のわいせつな発言を聞くようになり、自身の誕生日プレゼントとしてアダルトグッズを手渡されたという。その後、そのグッズについてしつこく聞かれるようになった。
同10月には病院職員らの飲み会で自分たちの容姿が話題になると、突然、院長に背後から両手で胸を触られた。その後も手を握って卑わいな発言をされたり、下半身を触られたりするようになった。抵抗しても院長は同様の行為を繰り返してきたという。
その場をどう乗り切るか悩んだ女性が先輩に相談すると、適当にあしらうようにアドバイスされた。しかし、被害は続き、涙を流しながら帰路につくこともあった。
SNS投稿を巡り、業務中に呼び出し
状況が変わったのは翌18年8月。友人らに限定で公開されるSNS(ネット交流サービス)上で職場への不満を吐き出していたが、上司がこれを知り、業務中に突然呼び出された。
上司は、SNSのアカウントを削除しなければ「5000万円の違約金を支払ってもらう」と主張し、退職届けを書くよう促した。同時に「メンタルが弱い」「性格が悪い」と指摘され、女性は「セクハラに耐えられなかった自分が悪いのかな」と弱気になった。
しかし、転職して、この病院の職場環境の異常さに気づいたという。新たな職場ではセクハラを受けることはなく、当然のように安心して働くことができた。
「声を上げることが大切」
女性は「院長の言動を強く非難する人はいなかったが、過去に被害に遭った人はほかにもいると思う」と振り返り、声を上げることが大切なのではないかと思うようになった。
インターネットで性被害の情報を収集。最初はためらったが、勇気を出して弁護士に相談するため電話をかけた。「あなたも悪い」と自身の被害を否定されるのが怖かったが、弁護士はそんなことは一切言わず、味方になってくれた。
院内でわいせつ行為を認識しながら対策せず、巨額の損害賠償請求で脅迫されて不当解雇されたとして、女性は23年2月、同院などを相手取り、約820万円の損害賠償請求訴訟を千葉地裁に起こした。院長は強制わいせつや職務中の卑わいな言動を否定している。
一方で香取署は今年1月に別の女性を含めた2人にわいせつ行為をした疑いで院長を逮捕。2月下旬に千葉地検に強制わいせつ罪で起訴され、公判を控えている。【林帆南】