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上げ馬神事、様変わり 「継承のため」動物虐待批判に対応 多度大社


 人馬一体で急斜面から土壁を駆け上がった回数で農作物の豊凶を占う「上げ馬神事」が4、5の両日、三重県桑名市の多度大社で行われる。勇壮な祭りを一目見ようと例年、多くの観客を集めていたが、昨年「動物虐待だ」という批判が大きくなり、今年は大きく様変わりする。伝統を担ってきた地元住民たちは戸惑いながらも、時代の流れに合わせて歴史をつなげようとしている。

2メートルの土壁を撤去

 「毎年、何頭上がるか楽しみにして来てくれるが、今年はお客さんが来るか心配。伝統が変わって新しい景色を楽しんでもらえるか……」

 多度大社前で料理店を営む平野博起さん(60)は語った。例年は2日間で約20万人が訪れ、周辺の飲食店や土産物店にとって書き入れ時だった。平野さんの店も毎年、2階に50席余りの観覧席を用意し、3月には予約で満席に。だが、今年は同じ3月時点で3分の1しか埋まっていなかったという。

 平野さんは中学3年の時、神事で騎手を務めた。約1カ月間、練習に打ち込んだが、神事の前日に落馬し、頭を2針縫うけがを負った。騎乗が危ぶまれる重傷だったが、本番に臨むと「馬につかまって走り出したら頭が真っ白になった。気がついたら上っていて、拍手と歓声をもらえたのがうれしかった」と懐かしんだ。「今年から上げ馬ではなく、駆け抜けるだけに変わるかもしれない。時代の流れなのでしょうか」と戸惑いをにじませた。

 上げ馬神事は南北朝時代から約700年続くとされる伝統行事で、県無形民俗文化財に指定されている。毎年5月、陣がさや裃(かみしも)を身に着けた若者が馬に乗って境内に設けられた急斜面を駆け上がり、最後は頂上にある2メートルほどの土壁に挑んできた。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止が続き、4年ぶりに開催された昨年、参加した馬の1頭が坂を走っている途中に転倒して骨折し、殺処分になってしまった。神事の様子はSNS(ネット共有サービス)にも投稿されると、「動物虐待ではないか」との意見や批判が相次ぐなど、関係者にとって思いも寄らない事態になってしまった。

 過去にもあった批判はSNSを通じて拡散され、県や市にとどまらなかった。地域住民の家にも抗議の電話や手紙が殺到し、商店の休業を余儀なくされる住民もいた。

 「神事での動物虐待根絶」などを求めるオンライン署名が5万筆以上集まるなどの事態を受けて、文化財を担当する県教育委員会が昨年8月、改善を勧告した。多度大社側は獣医や馬術競技の専門家など有識者を交えて神事での馬の取り扱いなどについて議論。馬の訓練期間が1カ月と短いにも関わらず、2メートルの土壁を駆け上がらせようとするがゆえに、馬を興奮させるためにたたくといった威嚇行為につながったと指摘した。

 多度大社と氏子でつくる御厨(みくりや)総代会は動物福祉に配慮した祭事にするため変更を決断。土壁を撤去し、坂の傾斜を緩やかにして馬が走りやすいように5センチ分の砂も敷いた。

 周辺住民からは「壁を崩すとは思わなかった」、「坂がないならやめたほうがいい」という意見もあったという。御厨総代会の伊藤善千代代表(75)は「雰囲気は変わり、今までのような迫力はなくなって面白くないという人もいる。いつまでも継承するために、時代とともに変えるしかない」と旧習に固執することよりも、柔軟な対応を選んだ。

 長く築いた伝統の新たな変化に、県教委の担当者は「壁が撤去され、坂が緩やかになったからと言って文化の価値は失われない。時代に即した民俗の文化継承が重要になる」と話した。

 ただ、批判を受けた影響は大きい。神事で駆け上がらせる馬は例年、桑名市多度町内の6地区から選ばれていたが、今年は3地区のみ。1地区は担い手不足で昨年から脱退が決まっていたものの、残り2地区は動物虐待の批判を受けて見送った。【渋谷雅也】

動物の権利向上 時代に合わせ変容

 伝統行事を巡り、時代に合わせた対策を講じて継承している地域はある。福島県相馬地方で騎馬武者が合戦さながらに競う「相馬野馬追(のまおい)」は例年7月に行われてきた。だが、昨夏の猛暑で馬が2頭死んだことを受け、今年は5月25~27日に開催する。

 牛がぶつかり合う闘牛の伝統行事で国の重要無形文化財に指定されている新潟県小千谷市。「牛の角突きの習俗」は2012年の動物愛護法改正で動物を戦わせる妥当性を議論されたことを受け、安全対策を強化した。闘牛場に獣医師を常駐させ、牛にけがをさせないため角の加工を行わないことなどを再確認し、関係者には動物愛護の講習も実施した。

 小千谷闘牛振興協議会会長の菅豊・東京大教授(民俗学)は「動物愛護と文化の問題は日本だけでなく世界レベルで変化している。動物の権利が向上している」と指摘する。SNSの普及で社会は変化し、動物愛護の意識が高まったことで、伝統も変化が求められる。

 菅教授は「いろんなところで動物愛護が考えられる中、伝統そのものを否定するのではなく、変えられる部分は変える必要がある。いろんな意見を踏まえて、努力しないといけない」と語った。【渋谷雅也】

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