大阪府の職員OBらが、公募を省略した「特例」の手続きで府指定出資法人(外郭団体)の役員に天下っている問題で、府が2024年度末で特例を廃止する見通しとなった。毎日新聞は、法人の採用ガイドラインとして特例が運用されるようになった14年以降にOB32人が再就職していたと報じ、議会の一部から見直しを求める声が上がっていた。ただし、府は「批判を理由に廃止するわけではない」としている。
大阪府は12年、「『天下り』批判と完全に決別する」とうたい、府職員基本条例を施行。府が一定額を出資する指定出資法人などへの再就職を制限し、現役職員による再就職あっせんも禁じた。府のOBや退職予定者が法人に再就職するには、人材を募集する企業・外郭団体とOBらをマッチングさせる「人材バンク」(府運営)への登録が必要と定めた。14年からは府が作成した採用ガイドラインに基づき、一定の職歴のあるOBらを法人側が採用する際は、民間人も参加可能な公募をするルールとなった。
再就職の公平性や透明性を担保するためのものだが、このルールには「人的関与」と呼ばれる特例があり、特定の役員ポストには公募を省略してOBらのみが再就職できる。この特例は現在、13の指定出資法人の19ポストに適用され、その人選は第三者機関の承認を得たうえで知事が法人側に推薦している。府政に精通した人材を充てる必要があるとの理由からで、10年に府の戦略本部会議で決まった手続きだった。ただOBらによると、府関係者のみが法人の役員ポストに就く仕組みは会議決定前からあり、少なくとも20年以上にわたって存在してきたという。そして条例やガイドライン制定後も、特例として残り続けた。
毎日新聞は22年10~11月、特例によるOB再就職の問題を報道し、「天下り根絶という条例の理念を骨抜きにする」とする専門家の談話を載せた。府議会でも議論が交わされ、大阪維新の会の議員が特例に理解を示す一方、自民党の議員が「天下りと変わらない」と見直しを求めた。また、府に電話や手紙で「特例を容認すべきでない」とする批判的な意見も複数寄せられたという。
吉村知事は正当性強調
これに対して吉村洋文知事は報道後、「(特例適用のポストは)公募が不適切で、府が関与しないのはおかしい」と正当性を強調していた。しかし23年8月の戦略本部会議で、府は特例の廃止を検討していると説明。職員採用の抑制で幹部ポストを担う40代職員が手薄になることや定年の引き上げもあって「今後10年ほどで、OBから適任者を推薦することが難しくなる」と明かした。
弁護士らでつくる府の第三者機関「府指定出資法人評価等審議会」も12月、特例の廃止について「一定の妥当性がある」とする意見書をまとめた。府人事課は「廃止は、今後の職員数の推移を踏まえた判断」と強調している。
25年度以降、法人がOBを採用する場合、どのポストであっても民間人を含めた公募が原則となる。府は今後、ガイドラインの改定に着手するが、特例廃止後も公募を省略してOBを配置する例外は残すという。「公募実施が困難な合理的な理由がある」「役員の欠員など緊急でやむを得ない事情がある」といった場合を想定しており、従来に比べてどこまで変わるかは不透明だ。【石川将来】
都庁OB「府民は監視の目を光らせる必要」
大阪府の判断は、他の自治体OBの目にどう映るのか。東京都人事課長などを歴任し、退職後は都の外郭団体で理事長を務め、都政に関する著書も出している沢章(さわあきら)さん(65)に聞いた。【聞き手・石川将来】
都庁では外郭団体に職員OBを送り込み、「東京都ホールディングス」の傘下に入れるような形で団体をコントロールしていた。府の「人的関与」という仕組みも、これとよく似ているように見える。
都の実情を知る立場としては、特例を廃止する大阪府は思い切った判断をしたと感じる。だが、職員数の先細りを理由とするのは言い訳っぽい。「批判を受けたので廃止します」と正面から非を認めたくないため、ひねり出した理屈ではないか。
特例廃止により、今後は外郭団体の独立性が高まることが期待される。しかし、役人が天下りポストをそう簡単に手放すとは思えない。公募が形骸化していないかどうか、府民は監視の目を光らせる必要がある。