米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手(29)の通訳を務めていた水原一平氏(39)がのめり込んだスポーツ賭博。米国では、アメリカンフットボールや野球などメジャースポーツだけでなく、eスポーツやボート競技など、プロアマ問わずに賭けの対象になっている。水原氏が在住する西部カリフォルニア州のように違法としている州は少数で、多くの州では合法化が進む。その引き金となったのは、連邦最高裁の一件の判決だった。
米国では1992年、スポーツ賭博を原則違法とする「プロ・アマスポーツ保護法(PASPA)」が制定された。「スポーツの品位を守るために必要な法律だ」。制定の際、元プロバスケットボール選手のビル・ブラッドリー上院議員(当時)はそう強調した。89年に大リーグの名選手、ピート・ローズ氏の野球賭博疑惑が発覚。八百長の横行や依存症への懸念が国内で高まり、連邦法による規制強化につながった。
当時、「カジノの街」のラスベガスを抱える西部ネバダ州など、スポーツ賭博やスポーツくじの法的枠組みを既に整備していた4州は規制の対象外になった。スポーツ賭博は実質的にラスベガスのカジノでしか行われておらず、米プロフットボールの王者決定戦「スーパーボウル」や大学バスケットボールが佳境を迎える「マーチ・マッドネス(3月の熱狂)」の時期にはラスベガスに賭け客が押し寄せた。
一方、東海岸の「カジノの街」であるアトランティックシティーがある東部ニュージャージー州は、PASPAの制定までに法整備ができず、例外措置の対象にならなかった。だが、州の財政悪化や犯罪集団が仕切る違法賭博の横行を背景に「スポーツ賭博を合法化して、税収アップにつなげるべきだ」との世論が高まり、住民投票による州憲法修正を経て、2012年にスポーツ賭博を認める州法が成立した。
これに対して、全米大学体育協会(NCAA)やプロスポーツ団体が「PASPA違反だ」として提訴し、1審、2審とも勝訴。州が上告し、最終的な判断は18年5月の最高裁判決に委ねられた。
判断の決め手になったのは、ギャンブル依存症や八百長への懸念ではなく、連邦と州の関係という建国以来の政治的テーマだった。憲法修正10条は「憲法が連邦に委ねた権限や州に委ねることを禁止した権限を除き、各州や国民が権限を持っている」として州の自治権を尊重している。最高裁は修正10条に基づき、連邦政府がスポーツ賭博に関して州を規制するのは「違憲だ」と判断。州による賭博解禁に道を開いた。
最高裁の判決当時、ニュージャージー州以外の5州でもスポーツ賭博を合法化する州法が成立しており、最高裁の判決次第でスポーツ賭博を解禁する準備を整えていた。さらに十数州で同様の州法が提案されていた。最高裁の判決を受け、その後は賭博がもたらす税収を目当てに解禁する州が相次いだ。米メディアによると、全米50州のうち40州近くでスポーツ賭博が合法化されている。
スポーツ賭博は判決から約6年ですっかり市民権を得て、今や大手の賭博サイトでは、1試合ごとに賭けの対象になっている。山本由伸投手(25)が大リーグデビューする予定の21日のドジャース対パドレス戦でも、ドジャースの勝利には約1・5倍、パドレスの勝利には2・6倍のオッズがついている。【ワシントン秋山信一】