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「道は開ける」 大震災から再起の経験を能登へ 三陸漁師の思い


 「つらいのは確かなんですけども、半面いいことも見つけられるようになってくる。そこを目指してがんばってほしい」。東日本大震災から再起を果たした三陸の漁師、久保宣(のり)利(とし)さん(50)が自身の経験を基に、能登半島地震で被災した漁業者にエールを送っている。壊滅的な被害を受け、どのように乗り越えてきたのか。被災から13年となる岩手県釜石市両石町に久保さんを訪ねた。【後藤由耶】

 薄曇りの空から朝日に照らされた穏やかな両石湾。久保さんの漁船は沖に向かった。ワカメや昆布の養殖漁業に取り組んでいる。2011年3月11日、この海に大津波が押し寄せた。約290世帯が暮らしていた両石町では、津波が高さ9・3メートルの防潮堤を越え、約240戸が全壊、45人が亡くなった。

 久保さんは震災直後、自宅にいた妻と当時生後1カ月の長女を高台に避難させた後、消防団員として住宅地に向かった。引き波で港の海底が見え、非常に危険な状況だった。必死で高齢者の避難を手伝っているうちに、津波に追いつかれていた。胸まで海水につかった時には「もうダメかな」と思ったが、はい上がって難を逃れた。しかし、自分の船や養殖施設、前年に建てた自宅が流され、家族以外すべてを失った。

 震災発生の翌朝からは行方不明者の捜索に加わった。犠牲となった地元の人たちを何人も発見し、漁港にはがれきがあふれていた。「もう津波が来るところには住みたくない」と思ったが、海の仕事以外を考えることもできなかった。初めは妻と3人の子どもたちで、内陸部の同県花巻市に避難。夏には釜石市内に完成した仮設住宅に移り、両石町の海に通い続けた。

 先は見通せなかった。それでも、復旧のために港のがれき撤去をしながら、漁業施設を再建するために走り続けた。漁師たちは船を失い、個人では何もできない状態。町の漁業者全員が共同でワカメとホタテの養殖に取り組み、その収入を均等に配分した。そして、久保さんが船を手にし、個人で漁を再開できたのは震災から3年ほどしてからだった。

 困難な状況を乗り切る支えとなったのが、全国から駆けつけた大学生の復興支援ボランティアだった。学生たちは子どもの世話から水揚げしたワカメの塩振りまで手伝ってくれた。力を貸してくれたこと以上に、「食卓のワカメがどのように生産されているのかを知ってもらえただけで励みになり、頑張れた」と感謝する。

 学生たちは繰り返し来てくれた。翌年に後輩を連れてくる学生もいて、延べ約200人が久保さんのもとを訪れた。社会人となった彼らとの交流は今も続き、財産となった。「被災しなければ出会わなかった。全部が全部マイナスではなかった」と振り返る。

 震災から7年で大規模なかさ上げ工事が終わり、造成地が引き渡された。久保さんは18年に自宅を再建し、約7年の仮設住宅生活を終えた。ただ、両石町を見ると住民は半減。かさ上げ工事完了を待てず、他地域へ転居する人が相次いだためだ。「もっと早く造成が終わっていれば」と今も悔やむ。

 漁師も少なくなる中、新人が加わった。震災時に小学1年生だった長男翼さん(20)が高校卒業後に漁師になった。間近で見てきた父親の姿を「すごいので、まねできないなって思いますね」と語り、今は久保さんと海に出ている。後継者を得たことで生産性が上がり、収入は震災前を上回るようになったという。

 元日の能登半島地震から1カ月を過ぎた2月16日、石川県輪島市の漁師らとオンライン会議システムを介して向き合った。同市では地震で地盤が大規模に隆起し、出漁ができなくなっていた。だからこそ、被災から再建までの経験と教訓を、能登の漁師たちと共有したかった。東日本大震災では、漁港のがれき撤去などで約8000円の日当を受け取れたこと、漁船や加工設備などの購入は公的な補助を受けて1、2割の負担で済んだこと、住宅ローンが免除される仕組みがあったことなど、漁業再開のために助けになった事例を説明した。

 早採りワカメの収穫を終え両石漁港に戻る船上で、能登の漁師に伝えたかったことを改めて聞いてみた。「急に海の仕事ができなくなり、歯がゆいと思う。それでも海に関わる仕事を続けていれば、絶対に道が開ける。国や県も助けてくれるので、それまでに準備を万全にしてもらえれば」と語ってくれた。

 「全国からの支えに助けられた」と振り返る久保さんは今、少しでも恩返しがしたいという。「いろんな人においしい三陸の海のものを食べてもらうために、ちょっとずつでも頑張っています」

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