starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

生き埋め…無意識に撮った動画38秒間 15時間ぶり生還の男性


 「何がどうなっとる……」。自らのうめき声が動画に記録されていた。能登半島地震で崩れた石川県珠洲(すず)市蛸島(たこじま)町の自宅で生き埋めになり、かろうじて電話が通じたおかげで15時間ぶりに生還した男性がいる。狭い空間に閉じ込められる恐怖の中、無意識のうちにスマートフォンで38秒間にわたり動画を撮っていた。

 珠洲市の嘱託職員として、広報用の映像制作などを手がける巽(たつみ)通敏(みちとし)さん(52)だ。元日の夕方は、同居する兄の好弘さんがジョギングに出ており、通敏さんは1人で家にいた。強く揺れたのを受け、すぐに市役所へ行こうと2階建ての自宅の1階に降りた途端、再び激しい揺れが来た。気がつくと周囲は真っ暗だった。胸や左手が何かに挟まれ、ほとんど身動きできない。天地も分からない。ただ頭上に20センチほどの空間があった。

 防災無線が大津波警報の発令を知らせているのが聞こえた。「溺死するのかな」と覚悟した。胸が圧迫されて息苦しい。厚着だったが寒さで体がガタガタ震えた。ポケットのスマホを見ると電波は圏外。意識がもうろうとしつつ動画モードを作動させたらしい。「覚えていないが、仕事柄、何かあれば動画を撮っていたからだろう」と振り返る。動画には壊れた柱や壁、むき出しのくぎなどが間近に映る。

 日付が変わった午前1時ごろ、スマホのアンテナのマークが立ったのが見えた。すぐに兄の好弘さん(59)に電話し「助けてくれ。うち、うち(家にいる)」と声を絞り出した。

 駆けつけた好弘さんによると、押しつぶされた1階のがれきの奥から通敏さんの声が聞こえた。だが暗闇で、道具もなく、どうしようもない。消防に通報したが、救助はいつになるか分からないという。「何とかするから」と必死に励ました。

 夜が明けると好弘さんは近所の人たちに加勢を頼み、10人ほどで救助作業を始めた。依然として強い揺れが続く中、バールやのこぎり、ジャッキを駆使して少しずつがれきを取り除いていった。朝の7時ごろ、やっと通敏さんを助け出し、「よう頑張ったな!」とみんなが声をかけた。

 生き埋めの際に肋骨(ろっこつ)を折るなどの大けがをして、現在は富山県内で療養する通敏さんは「近所の人たちが、自らも危険な思いをしながら助けてくれた」と感謝する。長年、カメラのレンズを通して地元の人々や祭りなどを見つめてきた。地震で甚大な被害を受けた古里がよみがえるのは容易な道のりではないことを見据えつつ「優しい珠洲の人たちや美しい景色を、また映像に残していきたい」と誓う。【阿部弘賢】

    Loading...
    アクセスランキング
    starthome_osusumegame_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.