踏切内で動けなくなった80代の女性を救助したとして、北九州市八幡東区の会社員、蔵原純鈴(すみれ)さん(20)に警察庁長官と福岡県警本部長から感謝状が贈られた。女性は手押し車が線路にはさまって身動きが取れなくなっており、蔵原さんが助け出した直後に列車が通過。間一髪の救出劇だった。
年の瀬の2022年12月28日、蔵原さんは門司区内の職場の大掃除で出た段ボールを捨て、車で戻る途中だった。午後1時前、JR鹿児島線の石原町通り踏切(同区大里本町)に差し掛かった時、警報器が鳴り始めたため車を停車させた。
すると手押し車を押しながら踏切を歩く高齢の女性が目に入った。「おばあさん、渡りきれるかな」。そう思った次の瞬間、手押し車の車輪が線路の間に挟まって動けなくなった。
「非常ボタンを押しても間に合わないかもしれない」。蔵原さんはとっさに車を降り、下りていた遮断機をくぐった。列車が近づいてくるのが見え、けたたましい警笛が鳴り響いた。蔵原さんは遮断機から5メートルほどの場所にいた女性の元に駆け寄ると、右手で腕をつかみ、左手で手押し車を持って一気に引き寄せ、一緒に線路の外に倒れ込んだ。直後、女性がいた場所を列車が通過し、ほどなく停車した。2人にけがはなかった。
9日に門司署で感謝状の贈呈式があり、蔵原さんは「女性が亡くなっていたら間違いなく後悔していた。怖さはもちろんあったけれど必死だった」と振り返った。現在はフィットネスジムでトレーナーとして高齢者にもトレーニング方法を教えつつ、自らの体も鍛えているといい「筋トレをしていて良かった」とはにかんだ。
中学、高校時代は卓球部で主将を務めたといい「娘は責任感が強いタイプで、体が自然と動いたのでは」と母の恵美さん(49)。蔵原さんは「踏切では同じような事故が発生しないような対策も検討してもらいたい。女性にはこれからも元気でいてほしい」と笑顔で語った。【林大樹】