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「『怖い』より何とかしなければ」 爆発物容疑者を取り押さえた漁師


 国政選挙のさなかに首相の演説を聴こうと市民が集まった地方の漁港の平穏を爆発音が切り裂いた。15日午前、和歌山市で衆院和歌山1区補選の自民党候補者の演説会場に駆け付けた岸田文雄首相に向けて爆発物が投げ込まれた事件。容疑者はすぐに取り押さえられたが、白煙が立ちこめる現場では、混乱した市民らの悲鳴と火薬のにおいが交錯した。

 毎日新聞記者が事件現場に居合わせた。岸田首相は午前11時20分ごろ雑賀崎(さいかざき)漁港に到着した。予定通りだった。屋根付きの漁港の作業スペースで、地元の漁業者らが用意していた刺し身や地元特産の「足赤エビ」を試食し、関係者らと笑顔で記念撮影を済ませた後、演説をするため200人以上とみられる聴衆が集まっていた一角に移動した。

 その直後だった。集まっていた聴衆の真ん中やや前方あたりから、人の頭越しに筒状の細長いものが、岸田首相のいる前方に投げ込まれるのが見えた。ふわりと飛んだ物体はアスファルトの地面に落ちると、「カラン」と乾いた音を響かせた。

 毎日新聞の記者が投げ込んだ人がいるとおぼしき場所に目を移すと、地元の漁師風の男性が一人の男性を押さえ込もうとしていた。聴衆に動揺が広がり始め、異常を察知した。

 カメラを手に記者が押さえ込まれる男性に近付くと、すでに警察官とおぼしき男性らが数人がかりで、木村隆二容疑者(24)を地面に組み伏せていた。

 ちょうどその時、先ほどまで岸田首相のいた会場前方から「ドン」という大きな爆発音が響き、白煙が上がった。煙は一気に施設の天井近くまで達した。取り押さえられていた木村容疑者を近くで取り囲むように見ていた聴衆は、爆発音がすると、悲鳴とともに一斉に走って離れた。「逃げろ」「離れて」といった叫び声が響いていた。

 木村容疑者は取り押さえられてから数分後、駆け付けたパトカーに乗せられた。警察官に左右から体を押さえ込まれながら歩いていたが、暴れることはなく動揺している様子でもなかった。横向きに顔を上げ、遠くを見つめていた。

イタリア名勝に酷似、観光客が増加

 漁港のある雑賀崎は海からの景観がイタリアの名勝アマルフィ海岸に似ているとされ、最近は観光客が増えているエリアだ。

 漁港周辺には間もなくパトカーだけでなく爆発物処理などに使われる特殊車両なども多数駆け付け、警察官が周辺に規制線を張り巡らした。

 避難した岸田首相は雑賀崎漁港での演説を行わなかったが、午後0時40分すぎからは予定通りJR和歌山駅前で演説に立った。自民党関係者によると、JR和歌山駅前の街頭演説は告知していたが、雑賀崎漁港に岸田首相が来ることは、広く伝えていなかったという。

 集まった人の多くは、地元周辺の人だったとみられ、聴衆として現場にいた40代男性は「(警察などから)ボディーチェックもされず、思った以上に首相を近くで見られるんだな」と、会場に着いた時に思ったと記者に打ち明けた。

 木村容疑者を取り押さえた近所に住む漁師の池田勝彦さん(62)は「別の2人が飛びかかり、腕を回してヘッドロックし、私も頭部を押さえた。暴れていたが、警察官も加わって大勢で押さえたので動けなくなっていた。危険とか怖いというより、『何とかしなければ』との思いだった」と振り返っていた。【山口智、加藤敦久】

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