エンタープライズIT協会は2025年5月20日、情報システム部門担当者向けのクローズドセミナーを開催いたしました。本セミナーでは、メルカリのデータアナリストが登壇し、組織と社員の成長を支えるためのデータ活用の考え方と、その具体的な実践について深く掘り下げて紹介されました。
メルカリは2013年2月の設立以来、フリマアプリ事業を主軸に成長を続け、国内外に拠点を展開する企業へと発展してきました。メルペイやメルコインといった新たな事業領域にも積極的に挑戦し、事業の多角化を進めています。
このセミナーでは、メルカリのHR System &Dataチームでシニアデータアナリストを務める諏訪ひと美氏が、同社がどのようにして「人」に関するデータを組織運営に活かしているのか、その戦略と実際について語りました。

データ活用の基盤となる人事システムの構築
メルカリのHR System &Dataチームは、社員一人ひとりに価値を還元することを使命としています。そのために、人事システムを中核としたデータ環境を整備し、入退社プロセスや組織変更への柔軟な対応を実現しています。同社は、様々な人事関連システムを戦略的に導入・連携させることで、変化に対応できる堅牢なデータ基盤を構築してきました。特に、機密性の高い人事データの管理においては、厳格なガバナンス体制を確立し、適切なアクセス権限設定を行うことで、データの安全性を確保している点が強調されました。
意思決定を加速させるデータ活用基盤の二層構造
同社では、人事データをより効果的に活用するために、目的に応じた二層構造のデータ基盤を構築しています。これにより、分析担当者と人事担当者それぞれが、必要な情報に迅速かつ効率的にアクセスできるようになっています。この構造は、データ取得や集計にかかる工数を大幅に削減し、より本質的な業務への集中を可能にしています。結果として、迅速な意思決定を支援し、組織全体の生産性向上に貢献しているとのことです。将来的には、人事担当者へのデータ利用権限の拡大も視野に入れ、データの民主化を進める構想も語られました。
社員に価値を還元する具体的なアプローチ
セミナーでは、データ活用を通じて実際に社員に価値を還元した事例も紹介されました。同社は、特定の統計手法を用いて、客観的なデータに基づき、組織内の潜在的な課題を特定し、改善に向けた具体的な施策を実施しています。この取り組みは、データが単なる可視化にとどまらず、具体的なアクションへと繋がり、社員のエンゲージメント向上や公平な環境構築に貢献していることを示しています。
今後、HR System &Dataチームは、AIを活用した人事データ活用の可能性にも着目しています。AIによるデータ分析を通じて、社員一人ひとりのスキルやキャリアパスを考慮した最適な人材配置、学習機会の提案、そしてタレントマネジメントの強化を目指すビジョンが示されました。ただし、AI活用の際には、データの品質やプライバシー保護といった重要な考慮事項についても言及し、慎重かつ倫理的なアプローチの必要性が強調されました。


質疑応答から見えたデータ戦略の深掘り
セミナー後半の質疑応答では、参加者から寄せられた多岐にわたる質問に対し、諏訪氏が同社の取り組みに基づいた詳細な回答を行いました。人事データの一元管理における「真実の唯一の情報源」としての位置づけや、分析に必要なデータの段階的な収集アプローチなど、実践的なデータ戦略の背景が語られました。また、AI活用への考え方や、人事データ活用における重要な指標に関する議論も行われ、参加者にとって示唆に富む時間となりました。
このセミナーは、データが単なる数字の羅列ではなく、組織と社員の未来を形作る強力なツールであることを示す貴重な機会となりました。
エンタープライズIT協会
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