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フィルム写真で見つめたミャンマー──写真家・亀山仁氏の20年の記録


2025年7月5日、東京・中野区のギャラリー冬青で、写真家・亀山仁氏と加納満氏によるトークイベントが開催。会場にはフィルムカメラ愛好家やミャンマーに関心を寄せる人々が集まり熱心に彼らの話に耳を傾けました。亀山氏はローライフレックス(Rolleiflex)という二眼レフカメラでミャンマーの人たちを20年以上撮り続けてきました。会場では、亀山氏の最新写真集『Burma/Myanmar 戦禍の記憶 2019–2024』の販売に合わせて写真の展示も行われています(~7月26日まで)。

自然光が差し込むアットホームな空間で──静謐な写真と向き合う時間

明るい雰囲気のギャラリー冬青

トークイベントの会場となったギャラリー冬青は、中野区の住宅街にひっそりと佇む老舗の展示場です。控えめで上品な民家のような外観の建物の中に一歩足を踏み入れると、柔らかな自然光が降り注ぎ、静かで落ち着いた空気が流れています。訪れる人がゆったりと作品に向き合える、まさに“写真と対話する”ための空間。

展示されているのは、亀山仁氏がミャンマーやタイで撮影したモノクロの作品15点以上。すべてが正方形の6×6フォーマットで構成されており、人物の表情や暮らしの断片が、余計な説明なしに壁面に並んでいます。

写真にはキャプションもタイトルも添えられていません。それでも見る者の目は自然と引き寄せられ、静かに思考を巡らせる時間が生まれるようです。ミャンマーという激動の地で、日常のひとコマに宿る「人間の強さ」や「生きる姿勢」を、フィルムの粒子がじんわりと伝えています。

まるで写真たちが語りかけてくるような、そんな空間の中で写真を前にしたギャラリートークは静かに始まりました。

モノクロと正方形、そしてフイルムという写真作品に込めた“想像力”

加納満氏(右)は亀山仁氏の話に耳を傾ける

まずトークショーの進行役・加納満氏は、カラーが溢れる現代にあって亀山氏がモノクロかつ6×6サイズの正方形にこだわる理由を尋ねます。それに対してモノクロ写真は「見る人の想像力を呼び起こす装置」だと亀山氏は語ります。
「色がないぶん、写真の背景に何があるのか、自分の中で想像しやすい。だからこそ、写真に“入り込む”ことができるんです」

正方形の構図もまた、視覚的な奥行きや広がりを意識するには最適だといいます。
「長い間写真と向き合ってきて、実は私自身いろいろなフィルムサイズを試してみました。そのなかでも自分の作品を一番的確に表現してくれるのが6×6という結論に至ったのです」

また、加納氏は続けてデジタル全盛の時代にあってあえてフィルムにこだわる理由についても言及しました。
「デジタルカメラだと、どうしても撮った写真をその場で確認してしまう。すると、『もう一度撮り直そうか』『うまく撮れているか』といった余計なことを考えてしまうんです。自分にとっては、そうした“即時性”が撮影に集中する妨げになることもある。一方でフィルムカメラは、結果がすぐには分からない。その分、今この瞬間、目の前にいる“人”や“空気”に集中できる。だからこそ、自分にはフィルムの方がしっくりくると感じています」(亀山氏)

初めてのミャンマーで見た「日常」と「不条理」

これまで2冊のミャンマー関連の本を出版してきた亀山氏

写真家・亀山仁氏が初めてミャンマーを訪れたのは2005年。ヤンゴンからネピドーに首都が遷都されようとする年で、軍事政権下で混乱が続く時代でした。そのときから日本では「北朝鮮のような国」と誤解されがちだったミャンマー。しかし、彼が目にしたのは賑わう市場や豊富な食べ物、行き交う人々は笑顔で、およそ軍事政権のイメージとは程遠い人々の姿でした。
「目の前に次々と現れる被写体に夢中でシャッターを切りました。寺院、人々、街──どれもが魅力的で、美しかったです」

次の年からもミャンマーに通い続け、友人が増えるにしたがい、亀山氏は軍の影が色濃く漂う社会の現実も目の当たりにします。密告が奨励され、人々の言動には常に緊張が走る。民主的な価値観が通用しない“理不尽”な社会。しかし、そんな中でも笑顔で暮らし、生きようとしているミャンマー人の魅力にどんどん引き込まれていきました。
「この厳しい環境で、なぜこんなにも生き生きしているのか。それを知りたくて、彼らと向き合いながらシャッターを切り続けてきました」

亀山氏の使用するカメラは、クラシックな二眼レフ・ローライフレックス。シャッターを切るときもファインダーがブラックアウトしないため、撮影の瞬間も被写体と“見つめ合い続ける”ことができます。
「子どもでも大人でも、レンズ越しに見ると皆が強い存在感を放っていました。彼らが持つ生命力、社会に翻弄されながらも立ち上がろうとする力を感じるんです」

「通過者ではなく、関わる者として」──被写体との距離感

「一人ひとりの人生に向き合い、その人が歩んできた道を想像しながら写真を撮りたいと考えています。発表の際にも、その人に敬意をもって紹介したい」

参加者は亀山氏が織りなす写真に囲まれながらトークに聞き入る

亀山氏がミャンマーに魅了され通い続けた時代は2010年頃、わずか十数年ではあるもののアウンサンスーチー氏が解放され、軍政が鳴りを潜め民主化への希望が見えはじめた時代でした。経済も発展し、子どもたちの将来の夢も“軍人”や“医者”などの固定的なものから‘’ジャーナリスト‘’ “プログラマー” ‘’経営者‘’など、多角的な方向へと変化していったといいます。亀山氏は、その時代の空気をまさに肌で感じたことをこう語ります。
「民主化がどんどん促進されて、海外からの投資も増えて、国がどんどん右肩上がりに発展していくっていう時に、たまたま関わることができました。行くたびに国がどんどんよくなっているというのが目に見えてわかりました。今となっては信じられないことですけど……」

クーデター後の現実──写真を通じた支援活動

そして2021年2月、軍事クーデターが全てを一変させます。ミャンマー軍が再び力を強め各地に空爆や弾圧が相次ぎ、民主化は再び後退します。それに伴い100万人以上が国外への避難を余儀なくされている状況です。この急激な変化により、亀山氏もそれまで頻繁に通っていたミャンマーへ足を運べなくなりました。現地の友人や家族の安否が気がかりな中、日本にいながらできる支援を模索する日々が続いたといいます。
「ミャンマーには写真家としての原点があります。だからこそ、少しでも何か恩返しがしたい。自分たちにできることは本当に限られていますが、困っているミャンマー人がいれば何とかして助けたいと考えています」

そうした思いから、亀山氏は志を同じくする仲間たちとともに、2022年に支援団体「一般社団法人 ミャンマーの平和を創る会」を立ち上げました。この団体は、定期的な寄付やクラウドファンディングを通じて、タイ国境付近の避難民支援や洪水や地震被害の緊急物資の提供などを行っています。

今年5月に出版された亀山氏3冊目の写真集。税込5,500円

今年5月には、3冊目の写真集『Burma/Myanmar 戦禍の記憶 2019–2024』を出版。この写真集の売上の一部は、先の3月に起こったミャンマー地震への支援金として活用されます。

カメラを通じて人に出会い、社会と関わってきた亀山氏にとって、写真は作品であると同時に「支援の入り口」とも言えます。再び現地に足を運べる日を願いながら、写真と支援という二本の軸でミャンマーと向き合い続けています。

写真展と支援の案内

会場にはミャンマーへの募金箱が設置してある

現在、ギャラリー冬青では亀山氏の写真展『Burma/Myanmar 戦禍の記憶』の開催と共にミャンマー地震への募金活動もしています。
また、7月18日(金)には東京新聞特別報道部記者の北川成史氏を迎えてのトークイベントを開催する予定です。ぜひ足を運んでみてください。


写真展情報☆

亀山仁 写真展 『Burma/Myanmar 戦禍の記憶』
会期:2025年7月4日(金)~7月26日(土)

亀山氏&北川氏

★7月18日(金)東京新聞特別報道部記者 
北川成史氏を迎えてのトークショー(要予約・参加費2,000円) 時間:19:00~20:30
展示時間:11:00~19:00(日曜・祝日休廊)
会場:ギャラリー冬青(東京都中野区中央5-18-20)
アクセス:東京メトロ丸ノ内線「新中野駅」1番出口から徒歩5分
お問い合わせ:03-3380-7123

ミャンマーという国を、そしてそこに生きる人々の強さを、フィルム写真で丁寧に記録してきた亀山仁氏。その写真は、時代を超えて私たちに「見つめ、想像し、寄り添うこと」の大切さを問いかけています。

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