File no. 127
《Le Tricoteur/ル トリコチュール》
セーターの聖地といえば"イギリス"。
歴史ある老舗ブランドが多数現存し、これまでにも幾度か本連載でも取り上げてきたが、イギリスの数ある伝統的なセーターに
おいて特に有名なのが「フェアアイルセーター」「アランセーター」「ガンジーセーター」の三種類だろう。
いずれのセーターも、大自然の過酷な環境下において自然と共存する人々が生み出し、現在まで受け継がれてきたものだ。
今回は、その三種類の中から「ガンジーセーター」の伝統を守り続ける正統派ブランド《ル トリコチュール》の歴史に注目する。
《ル トリコチュール》は、1964年にイギリス・チャネル諸島の1つであるガンジー島で創立された。ガンジー島に古くから伝わ
る伝統的なガンジーセーターを、昔ながらの製法を用いて製造するブランドとして誕生。
以来、時代が移り変ろうとも変わらないスタイルを貫き続け、伝統的なガンジーセーターをコツコツとつくり続けてきた。
そもそもガンジーセーターとは、荒々しい海で働く漁師のために生み出された作業着。
それ故に、耐久性に富み、実用的であることが何よりも求められたという歴史がある。
そのため、ウールの紡績工程では非常に強い撚りを掛け、一目一目を堅く編むことによって雨や波しぶきを寄せ付けず、多少の
水分を含んでも湿気を感じにくい生地に仕上げられた。
こうしてつくられるセーターは、海辺での労働に何より適した一着として重宝された。
また、動作を妨げない優れた伸縮性に加え、肩、首、腕まわりの動きを助ける工夫なども随所に配されている。
多くの工夫の中でもとりわけ特徴的なのが、暗い海上でもスムーズに着用できるようにと生まれた前後区別のない独特な形状だろう。
この形状はガンジーセーターの最たる特徴といえる。
これらの伝統的な製法や特徴を受け継ぎ、つくられ続けているのが《ル トリコチュール》のガンジーセーターなのだ。
創業から約60年が経過した今現在も機械に頼らないハンドニッティングの仕上げにこだわり、それを裏付ける証拠として、すべ
ての製品には最後に仕上げた編み手の手書きのサインが入った証書が付属する。
もしも今、本物のガンジーセーターを探しているならば、《ル トリコチュール》の一着をオススメしたい。
ちなみに、ガンジー諸島はフランス寄りのイギリス領という立地から、公用語はフランス語。
そのため、《ル トリコチュール》のブランドネームには、イギリスブランドでありながらもフランス語ネームが採用されている。