■話をどこまでもほじくっていく
知人夫婦とたまたま一緒に過ごしたとき、何がきっかけかわからないが、ふたりが軽い諍いを始めた。とはいえ、最初は周りを巻き込みながら、妻が夫の「ダメな夫ぶり」を嘆く程度ですんでいた。だが長く話し続けたのだ。夫が少しキレた。
「そんなことまで言わなくてもいいだろう」
すると妻が逆ギレ。
「だいたい、あなたは前にもそういうことがあったじゃない。忘れたの? あれは6年前の」
と過去をほじくり始めたのだ。さすがに周りも引いてしまった。
そのときの夫・ケンゴさん(44歳)は、今も「妻にはイラッとさせられている日々」だという。結婚して14年、お互いにわかりあっているはずなのに、なぜ見過ごすことができないのだろうか。
「うちもこの時期、家族4人で狭い家にこもって自粛生活をしていたわけですよ。妻も在宅ワークだから、適当に家事もシェアしていた。もともと宅配で食材を買っているんですが、その荷物が来て野菜やら牛乳やら、さまざまな食材を妻が冷蔵庫に詰めていた。見るともなく見ていたら、言っちゃ悪いけどこれがヘタなんですよ。どうしてそこにそれを入れるかなあ、そんなことしたらチーズが入らないじゃん、ということが重なって、思わず『もっとひとつひとつの形を考えて入れていったほうがいいよ』と口を出してしまった。すると妻は僕に向き直って『じゃあ、やってよ』と言い放ったんです。そう言われればやるしかないですよね」
ケンゴさんは冷蔵庫の前に積まれた食品を、形を見ながら冷蔵庫に詰めていった。最後に残ったチーズをぐいと押し込んできれいに入ったとき、妻が「そんな力任せにやれば誰だってできるわ」とひと言。
「そこでどうして、よかった、ありがとうと言えないかね、という話です。妻が素直にありがとうと言った試しがない。いつもそうやって人にやらせておいて、最後は皮肉る。そういう性格は直したほうがいいと言いたいんだけど、言ったらどうなるかわかっているから黙っています」
■なかなか割り切れない自分
家族といえども、それぞれに人格は別。気持ちよく生活していくためには最低限の礼儀が必要である。だが、妻は混ぜっ返したり皮肉ったりすることが多くて、心が疲れていくとケンゴさんは言う。
「子どもたちと散歩に行こうと話をしていたら、妻が『ついでにゴミを出しておいて』と言う。うちのマンション、ゴミ出し場がいつでも使えるんですよ。だけどいざ出かけるとき、僕がうっかりゴミをもつのを忘れた。すると妻が『目に入らないのが不思議よね。あえて見なかったんでしょ』とゴミ袋を差し出してきた。うっかり忘れることは誰にでもあるだろと、このときは言いました。でも妻は『あなたは、うっかりしなかったことがないよね』って。人の神経を逆なでするのがうまいんですよ」
傍から聞いていると笑ってしまいそうなのだが、毎日のようにこうした否定的な言葉、皮肉っぽい言葉を投げかけられていると、無視するかキレるかしかなくなっていくものだ。
会社が始まるまではがんばろう。そして会社が始まっても希望者は在宅ワークができると社内でお達しがあったが、自分は出社組になろうと決めていると、ケンゴさんは疲れたような表情で言った。