
出産は女性の分断や序列化の装置だった――。日本や海外の無痛分娩(ぶんべん)を研究してきた神奈川県立保健福祉大准教授で、助産師の田辺けい子さんは、こう指摘する。
「自然分娩>帝王切開>無痛分娩」という分娩をめぐるヒエラルキーや、「痛みを耐えてこそ母になれる」といった母性神話は昔話なのか。
東京都は10月、全国に先駆けて無痛分娩への助成を始める。誰もが生き方を選ぶように「産み方」も選べる社会にするため、何が求められているのか。
田辺さんは30年以上前、助産師として最初に勤務していた都内の病院での経験を振り返る。「大使館の多い街の大きな病院でした。助産師の先輩たちは、外国人女性が無痛分娩をしても何も言わないのに、外国人と結婚した日本人妻が無痛分娩をするとなると、手のひらを返したみたいに、『無痛? そんなのでちゃんと育児できるのかしら』と陰口をたたいていた。ショックでした」
以来、無痛分娩や出産時の痛みに関心を持った田辺さんは、大学で無痛分娩の研究を始めた。
「歴史を振り返っても、出産は、女性の分断や序列化の装置となってきたんです。女性はまず、「産める>産めない」、そして「産む>産まない」で分断される。さらに「自然分娩>帝王切開>無痛分娩」のように経験した痛みの強さや時間、出産方法で序列化される。産んだら産んだで、母乳育児かどうかで優劣をつけられてしまう」
「これは外からの押しつけばかりではなく、当事者の女性たちの間でもそうでした。自然分娩で痛みに耐えた人はどれほど痛かったか、どれほど耐えたかを繰り返し語ります。帝王切開の人は『ちゃんと産めなかった』と思わされてしまう。無痛分娩した人は周囲に言えず、親戚にも隠してしまう。その結果、『痛みに耐えてこそ母になれる』といった価値観が長く再生産されてきたのだと思います」
こうした考え方は廃れつつあるという。無痛分娩について広く周知され、東京では妊婦のすでに3割以上が無痛分娩を選んでいるためだ。しかし、「今、女性を分断・序列化しているのは古い母性神話ではありません」と田辺さん。では今、何が起きているのか? キーワードは経済格差と地域格差だという。【小国綾子】
