■行動に移す前にひと言尋ねてほしいのに
「うちの夫、悪い人じゃないんですよね。どちらかといえば親切過剰かもしれない。だけどその親切が、本当に相手のためになっているかどうかは別問題なんです(笑)」
ノリコさん(40歳)はそう言う。つい先日、夫の父親が経営する会社で記念パーティがあり、夫はノリコさんの両親を呼びたいと言い出した。招待してくれるなら来ると思うと答えると、夫は「ホテルもおさえたから」とひと言。
「なんで、と思いました。だってうちからその会場まで1時間もかからないんですよ。昼間のパーティとはいえ、むしろ前泊するほうが大変でしょ。母に言ったら、『ありがたいけどホテルには泊まりたくない』という返事。だったらタクシー券でも出してくれたほうがよっぽどありがたいのに」
ホテルはいらないというと、夫はすでに予約していたのでキャンセルすることになった。最初に聞いてくれればそんな手間はかからずに済んだはずだ。
「そのあたりの想像力が欠けてるんですよね。悪く言えばひとりよがり。こうすれば人は喜ぶと思い込んでる。みんながみんな、あなたの基準で生きているわけじゃないのよとときどき、言いたくなるんです」
いい人だけに、それをストレートに言うと傷ついてしまう。だからノリコさんは、やんわりと彼に伝わるように言葉を選ぶのに苦労しているそう。
「めんどうだなと思うこともありますよ」
確かに、最初に聞いてくれればすべてスムーズにいくことは多そうだ。
■中途半端に真実を言う夫
ウソをつくならつきとおさなければならない。真実を言うなら早く言わなければならない。そのほうが相手のためでもある。
「夫は中途半端なんですよねえ。お盆とお正月に夫の実家に行くんですが、今度のお正月の予定を話しているときに、『今だから言うけどさ』と、夏に私が姑に言ったひと言を持ち出したんです。『かあさんがきみには言うなって言ったから伝えなかったけど、あのときすごく傷ついたらしいよ』って。姑がふざけて、うちの子にばあばは脚が痛いと言って、私が笑いながら仮病でしょって言ったらしいんですよ。そんなのすっかり忘れているし、そもそも子どもと遊んでいるときの話だし。今さら深刻になって持ち出す話でもないんじゃないかな、と」
マキコさん(39歳)はそう言った。夫は「また同じようなことがあると、お互いに気まずいから注意しておく」という感じだった。
「だったらそのときに言ってほしかった。どういう雰囲気だったかどういうシチュエーションだったかも忘れているから、姑も夫も何を気にしているのかよくわからなくて。夫には、『わかった。あなたの実家に行ったら私はよけいなことは話さない』と言ったんです。そうしたらそれはそれで夫もカチンときたみたいで、『そんなこと言ってないだろ。オレはきみのために……』って。今さら言うことがどうして私のためなのかわかりません」
大きなできごとではないかもしれない。だが、こうした些細なボタンの掛け違いが、のちのち大きなできごとに発展する怖れもある。
「姑だって、仮病なんてひどいわねってひと言言えば、冗談ですよ、ごめんなさーいって返せるのに。みんなして私を悪者にしてるとヘンな被害者意識まで出てきてしまって。今度のお正月に夫の実家に行くのが気が重いです」
夫が黙ってさえいれば、何も気にせずに行くことができたはずなのに。もし今度行ったとき、夫が妻の言動をおかしいと思ったら、ふたりきりになったときに注意すればいいのだ。自分が見てもいないのに、一方的に姑の声だけを伝えることにも、マキコさんは不愉快な感情を抱いているのではないだろうか。