どこのメディアだったかはよく憶えていないのだが、(たぶん)とあるニュースサイトで、バーのマスターから「もう一杯いかがですか?」だったか「次はなにを飲まれますか?」だったか……みたいに追加の注文をさり気なく促されたとき、それはイコール「まだそこに座るなら金を払え」といった意味に等しい──そんなニュアンスの記事を数日前、目にした。
お酒一杯の金額だけで長時間粘るコスパの悪い客を排除するための当たり前な対処法……だと(たしか)書いてあった。そして、「一杯だけで長時間粘る客→コスパが悪い=迷惑」といった公式は、もちろんバーだけではなく喫茶店やカフェにも該当するらしく、「バーはまだこのセリフを自然に言いやすいだけ、喫茶店やバーよりマシ」なんてことも(たしか)書いてあった。
じつに耳の痛い“本音”ではないか。私は、バーでこそけっこうぐいぐいとお酒を飲みまくり、酔った勢いで次から次へと追加オーダーをしまくってしまう客ではあるが、こと喫茶店に関しては、コーヒー一杯でいつも平均2〜3時間は平気で粘ってしまう客だったりする。なぜなら、私は「自宅で絶対に原稿を執筆できない人間」であるからだ。
したがって、おのずと“書斎”はもっぱら喫茶店。主要ターミナル駅ごとに、最低2軒は“粘れる喫茶店”を確保(?)している。
まず、お店に入って、極力存在感を消せそうな席を探して、座る(※ベスポジはカウンターの一番端っこ)。コーヒー一杯(夏ならアイスコーヒー)を注文して、そこからはもう自分の世界──スマホをスクロールしながら調べ物に専念しては、ひたすらノートパソコンのキーボードを打ちまくる。テーブルの上は資料で溢れかえっており、コーヒーと灰皿を置くスペースに困ることもしょっちゅう。原稿執筆どころか、イラストの下描きまでしてしまうことだって、ままある。床には消しゴムのカスがこぼれ散っている。コイツをコーヒー一杯でヤラれた日にゃ、同記事の理屈に倣えば、特A級に「迷惑な客」以外の何者でもない。だからといって、安易にコーヒーを追加注文するわけにもいかない。原稿一本を書くために1000円以上も払ってしまえば今度は私のコスパが悪すぎる……。
我ながら、自分勝手な話であることくらいはわかっている。ただ、私は私なりに、店側にはそれなりの配慮をしているつもりでもある。
とりあえず、2〜3時間は粘るけど、それ以上の時間は粘らない。まあ、これはパソコンの充電と私の集中力が切れるタイミングに合わせた“時間”ゆえ、正確には「店側に配慮している」のではない。あくまで、結果論に過ぎない。
あと、あまり繁盛しているお店は原則として選ばない。「只今満席です」と、新規客にお断りを頻繁に入れるような繁盛店だと、さすがの私も居心地が悪くなる。次からはそのお店をできるかぎり敬遠するか、比較的空いている時間帯を選び、それを起点に自分の執筆スケジュールを調整する。
さらに、自宅の近所の店だったら、コーヒー一杯で2〜3時間粘るぶん、週に7回(※下手すりゃ8〜9回)は通いつめる。お会計するときも「ごちそうさま」の一言は必ず欠かさない。
一度、最近は(最低)週6回は利用しているお気に入りの喫茶店(※どうして週6なのかと言えば、そのお店は火曜日が定休日だからだ)で働いているギャルなウエイトレスさんに「いつもコーヒー一杯だけで長い時間、席を占領しちゃって申し訳ないね」と声をかけたところ、「いや、毎日来てくださっているお得意さんだから全然大丈夫っすよ〜」と満面の笑みで応えてくれた。が、やはり同記事の理屈に倣うなら、この優しいお言葉を鵜呑みにしてはいけない……のかもしれない。
私はこれまで「自分が喫茶店に居座ることによってお店側が被る実害」について、考えたことがなかった。いや、あえて考えないフリをしていた。なのに、この記事を読んだが最後、それに気づいてしまったのだ。気づいてしまった以上、私のハートはたちまち弱くなる。まったくもって余計なことを……なんてことを愚痴っているさなか、同記事の掲載元が判明。なんと! ここcitrusでありました(笑)。灯台もと暗し!! まったくもって余計なことを……?