「あの女子大生、また先生の日に受診してきましたよ…」
私が内科外来を担当している水曜日、ベテランナースが意味深な表情で伝えてきました。「あの娘、先生目当てで受診しに来てるんじゃないの?」とでも言いたげな様子。たしかに風邪が流行りはじめてからの今シーズン、すでに4度目の受診です。うら若きJD(女子大生)が私に会いたくて受診してくれるのはまんざらでもありません。ですが、毎回しっかり風邪をひいて受診してくることに、ちょっと首を傾げたのも事実です。
大井さん(仮名、21歳)は都内の大学に通う女子大生。12月に咳、鼻水などの症状で私の外来を受診し、いわゆる風邪薬を処方していました。2度目の受診はインフルエンザ。3度目の受診では、さすがにアヤシイ病気を疑って、レントゲン、血液検査をおこなったものの、これといった所見はありません……。
4度目の受診となった今回は、ベテランナース立会いのもと、海外旅行や動物との接触、交際歴、性交歴についても丁寧に問診します。前回より詳細な検査を追加し1週間後の再診としました。
1週間後──大井さんは長身、ハーフ風のヒゲを蓄えたイケメンと一緒に診察室に入ってきました。聞くとクリスマス前から同棲中の彼氏とのこと。検査結果が出揃いましたが、異常と呼べるものは特にありません。免疫力の低下もなさそうです。
ゴッホの自画像を彷彿させる無精ヒゲをたくわえ、心配そうに寄り添う彼──。ふたりは片時も離れず、ぴったり寄り添っています。わたしは一目見てピンときました。「彼のヒゲが彼女の風邪の原因」ではないか、と。
■なぜ同棲してから風邪をひくようになったのか?
ふたりに話を聞くと、予想的中。ヒゲの彼と同棲を始めた時期が、彼女が風邪を引き始めた時期と一致したのです。
彼のヒゲは、形を整えてシェービングする以外、基本的に放置プレイ。洗顔後、自然乾燥するだけのとこと。これはダメです! 無精髭は丁寧にケアしないと雑菌の温床となります。「便器より不潔」と言われるほど。そう、ふたりの距離が親密になるほど、彼女は不潔なヒゲからウイルスを吸い込み、風邪を繰り返してしまっていたのです!
私はイケメンの彼に、ヒゲを丁寧にシャンプーしドライヤーで乾かすよう伝え、ケアができないのであれば剃ってしまうこともお薦めしました。彼女が風邪のあいだはキスも禁止です。
ヒゲはそのダンディな魅力で女性を惹きつけるだけでなく、空気中の汚れ、雑菌も引き寄せます。鼻息から浴びせられる、ほどよい湿度と温度は病原菌やウイルスにとって居心地がいいのです。ヒゲをたくわえた男性と交際する女性は、ヒゲからバイキンをもらうリスクを承知で付き合ったほうがよいでしょう。ヒゲの男性諸君は風邪の流行シーズンこそ、丁寧にケアして清潔を保つことをオススメします。
その後、大井さんは私の外来に来ていません。嬉しいような寂しいような……。ちなみに毎回、私が担当している水曜日に来院したのは、単に毎週水曜日にアルバイトが休みだったからとのこと。ザンネン!