巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。
第105回 相手にしないという賢明な態度
「早くこの件が片付き、僕を育ててくれたアマチュアボクシング界が良くなってくれることを願っております。」by村田諒太選手(WBA世界ミドル級王者)
【センテンスの生い立ち】
有志の告発で、日本ボクシング連盟や山根明会長をめぐる数多くの問題点が指摘された。その後、渦中の山根会長がテレビ番組などで、強面なキャラクターを前面に押し出しつつ真っ向から反論。2012年ロンドン五輪ミドル級金メダリストでWBA世界同級王者の村田諒太選手に対しても、「生意気だよ!」「村田君はひとりでメダルを取れる力はありません」などと語気を荒げて批判した。それに対して村田選手は、自分のFBページで「何一つ気にしていないので大丈夫です。笑」と相手にするつもりはないという態度を表明している。
【3つの大人ポイント】
- 後輩たちのためにリスクを承知で立ち上がった
- 屈辱的な「言いがかり」を華麗にスルーしている
- 相手にしないことで怒りを雄弁に表現している
突っ込みどころの塊のような、常識も想像も超えた人物が登場しました。そう、日本ボクシング連盟の山根明会長です。なんせ「終身会長」ですから、その権勢はきっと半端ではありません。その筋の人かと思うような風貌や話し方のせいもあって、テレビカメラの前で主張を繰り広げるたびに、どんどん悪人イメージが強まり、ますます疑惑が深まっています。
もちろん、まだ調査前なので、告発した「日本ボクシングを再興する会」の指摘がどこまで事実かはわかりません。まだまだこれから、新しい事実が明らかになるという話もあります。8日に行なわれるという「再興する会」側の緊急記者会見で、はたしてどんな話が飛び出すのか。山根会長はどう反応するのか。騒動はまだまだ収まりそうにありません。
それにしても、ボクシングにとっては大幅なイメージダウンであり、一生懸命にやっている選手や関係者はいい迷惑です。いっぽうこの問題に対する大人かつ男前な発言で、ボクシングのイメージダウンを精いっぱい食い止めているのが、2012年ロンドン五輪ミドル級金メダリストでWBA世界同級王者の村田諒太選手。「日本ボクシングを再興する会」がJOCなどに告発状を提出した翌日の7月28日、自身のFBページにこう綴りました。
そろそろ潔く辞めましょう、悪しき古き人間達、もうそういう時代じゃありません
新しい世代に交代して、これ以上、自分達の顔に泥を塗り続けることは避けるべきです
「悪しき古き人間達」が、山根会長や現在の連盟幹部たちを指すのは明らか。プロとアマの違いはあれ、同じボクシングの世界で活動し、大手企業のCMなどにも出ている村田選手としては、この発言をするのは相当な勇気と覚悟が必要だったでしょう。それでも、発言力がある立場だからこそ、きちんと考えを表明して告発する側をアシストしたいという使命感があったに違いありません。これぞまさに「スポーツマンシップ」です。
テレビ番組に山根会長が出演したときに、司会者がこの投稿の話題を出すと、会長は語気を荒げて「生意気だ!」と村田選手を非難。さらにあれやこれや村田選手への批判を繰り広げ、名誉を傷つけるような発言もしています。一方的な罵倒を受けた村田選手ですが、8月4日のFBページへの投稿では「色んな人に、勝手なこと散々言われて落ち込んでない?とか声かけてもらったりしていますが、何一つ気にしていないので大丈夫です。笑」と山根会長の発言を一蹴。続けて、今回の件について発言することへの思いを書いています(抜粋)。
そもそも僕は第三者として意見を言っただけで、この件を訴えた側でもなんでもありません。勿論、再興する会を支持していますが、何より現役アマチュアボクサー達にとって良い環境になるように、願うところはそれだけです。
(中略)
記者の方から、これは明らかな名誉毀損だよ、というようなことを言っていると聞きましたが、プロとして頑張っている中、そんな裁判したくないので、それも無視しますね。笑
以上、早くこの件が片付き、僕を育ててくれたアマチュアボクシング界が良くなってくれることを願っております。
繰り返し書いていますが、村田選手の願いはアマチュアボクシング界が良くなること。山根会長が自分の手柄のように言っているロンドン五輪の金メダルより「世界選手権の銀メダル(これも日本初だし、未だに誰も獲得してない、自慢!笑)こそ、僕のアマチュア時代に残した1番の誇り」という記述や、選手に愛を持って接してくれたという恩師の思い出を書いていることなどからも、会長や現体制に対する深い反発と不信感が伺えます。
屈辱的な「言いがかり」を華麗にスルーしているところといい、相手にしない姿勢を貫いているところといい、村田選手の「大きさ」や並外れた大人っぷりを感じずにはいられません。図らずもでしょうけど、相手にしないことで深い怒りがにじみ出たり、罵倒している側の小ささが浮き彫りになったりしています。じつは内心は腹が立っているのか、もはや呆れてしまっているのか……。どっちだったにせよ、じつに賢明な態度です。
私たち野次馬も、今回の騒動を単に「面白い見世物」として見るのではなく、「自分がいる場所にも似たようなことはないか」「自分も無意識のうちに『○○判定』に加担していないか」など、他山の石にさせてもらいましょう。とりあえず、村田選手の対応から「常識が通じない相手の言いがかりにどう対処すればいいか」を学ばせてもらいました。けっして簡単ではありませんが、納得できないことに声を上げる勇気も見習いたいものです。
【今週の大人の教訓】
スポーツ界でスポーツマンシップに欠ける事件が続発しているのはなぜ?