生理前になるとむくみや頭痛、イライラなどのストレス、体がだるいなどの体調不良に襲われることはありませんか?昨日までは元気だったのに急に具合が悪くなってしまった……といった場合、もしかするとPMSが原因かもしれません。この記事では、PMSの原因や症状、適切な対処方法について現役薬剤師が解説します。
PMSとは?
PMS(月経前症候群)とはPremenstual Syndrome の略で、月経前3~10日の間に続くさまざまな精神的・身体的な不調を指します。月経開始に伴い軽快あるいは消失するのが特徴です。
※参考:公益社団法人 日本産婦人科学会「月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)」
PMSの症状
PMSの症状は人によって異なり、その種類は200を超えると言われています。よくある症状をピックアップしましたので、自分に当てはまるかどうか確認してみてください。
精神的な症状
情緒不安定、イライラ、怒りやすい、憂鬱、不安、睡眠障害、ソワソワする、集中力の低下など
身体的な症状
のぼせ、食欲不振や過食、めまい、倦怠感、疲労感、腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、便秘や下痢、お腹や胸の張りなど
※参考:【女性のライフステージと睡眠・生体リズム】月経周期と睡眠 睡眠医療 (1882-2096)15巻3号 Page305-309(2021.09)
PMSの原因
PMSを引き起こす原因にはさまざまなものがあると言われています。ホルモンバランスの乱れ、ストレスや冷えなど、原因別に詳しく解説します。
ホルモンバランスの乱れ
ホルモンバランスの乱れとは、卵巣から分泌される2つのホルモン、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)のバランスが崩れることを指しています。
一般的に、月経が終わってから排卵日までは卵胞ホルモン(エストロゲン)が多く分泌されます。卵胞ホルモンは女性らしさをつくるホルモンと言われており、自律神経を整え、コラーゲン生成を促して美肌効果をもたらしたり、骨や血管などを強くしたりする働きがあります。
月経が始まる約14日前になると排卵すると言われており、この時期は卵胞ホルモンだけでなく黄体ホルモン(プロゲステロン)が多く分泌されます。黄体ホルモンは主に妊娠しやすい体作りのために作用するホルモンで、体温を高くし、水分や栄養素を溜め、食欲を増進させます。
この2つのホルモンがバランスを崩すと、他の自律神経系のホルモンに影響し、PMSとしてさまざまな症状が出てきてしまうのです。
ストレスの蓄積(食事制限・睡眠不足など)
ホルモンバランスはささいなことがきっかけで乱れてしまいます。忙しくて睡眠時間が減ってしまったり、過度な食事制限で体が無理をしている状態が続いたりすると、自律神経が乱れてホルモンバランスが崩れます。睡眠時間を確保する、栄養バランスのとれた食事を摂るなど、心身がストレスを感じにくい生活を心がけましょう。
冷え、体の巡り不順
体が冷えた状態が続くと、血液の循環が悪くなり、老廃物や疲労物質が溜まって体のめぐりが悪くなってしまいます。また、手足は冷えているのに身体は熱いと感じる「冷えのぼせ」の症状が出ることも。これらの冷えや体のめぐり不順がきっかけでホルモンバランスが乱れることも、PMSの原因になると言われています。冷えの症状を感じている方は入浴時は必ず湯船につかるなどして体を温め、夏場でも靴下を履くようにしましょう。
基礎疾患
基礎疾患のある方は、PMSの症状が強い可能性があります。生理前だけではなく、生理中の症状にも着目してみましょう。生理痛が辛い、生理の量が多い、少ない、生理の時に塊のような出血になりやすい等の症状がある方は、他の病気を持っている可能性があるので早めに婦人科を受診しましょう。
また基礎疾患として精神疾患がある方はPMSの精神症状が出やすいと言われています。生理周期に併せて治療も変える必要があるかもしれないので、担当の医師にPMS症状も我慢せずに伝えましょう。
今日からできる!PMSの対策&対処方法7つ
PMSの症状に悩んでいる方に向けて、日頃からできる対策と、症状が出ているときの対処方法を紹介します。PMSは一朝一夕で良くなるものではありませんが、継続することで改善する可能性は高いです。
1. 症状を記録する
生理前のいつ頃からどのような症状が出るのか、メモをしておくことで今後の対策がしやすくなります。おすすめは基礎体温表に症状を書いておくやり方。PMSのタイミングが掴みやすくなりますし、体温計測とセットで行うことで毎日の習慣にしやすいですよ。
2. リラクゼーションを取り入れる
睡眠をよくとる、自宅でゆっくり過ごす、ハーブティーやアロマを楽しむ、湯船につかる、マッサージに行くなど、自分自身がリラックスできる状態を作りましょう。特にマッサージは、人と触れ合うことで自律神経が整うホルモンが分泌されるので、体の凝りだけでなくストレスも緩和されやすくなります。
3. 仕事や家事を軽くする
PMSの症状がある時期だけでも、毎日の仕事量を減らしてゆっくりできる時間を確保してください。仕事に家事にと毎日忙しく働いていると難しいと感じるかもしれませんが、時間に余裕ができると心と体のバランスがとりやすくなります。
4. アルコール、カフェイン、甘いものは避ける
アルコール、カフェイン、甘いものを普段から摂っている人は、摂っていない人よりもPMSになりやすいと言われています。PMSの症状が出る時期だけでも、これらの食べものや飲みものは控えめにしましょう。また甘いものには体を冷やす作用があり、体の冷えはPMSや月経困難症、不妊にもつながります。知らないうちに体を冷やさないためにも、甘いものの食べすぎにはくれぐれも注意してください。
5. 朝日を浴びる
PMSの症状の中でも、睡眠障害が起きてしまう人は多い傾向にあります。不眠・過眠どちらの場合でも、朝日を浴びることは対策・対処方法として有効です。朝日を浴びると自律神経が整い、ホルモンバランスの乱れを整えやすくなります。
6. 食事やサプリメントで鉄分、タンパク質を摂る
日本人は鉄分摂取量が少ないとされており、血液検査で貧血と診断されなくても慢性的に鉄分が足りていない可能性があります。鉄が欠乏するだけでPMS症状が現れやすくなり、生理時の貧血や身体不調の原因にもなります。鉄を意識的に摂ることで鉄過剰症になるのではと心配される方もいるかもしれませんが、食べ物やサプリメントの摂取だけではとてもなりえないので安心してください。
タンパク質は体の調子を整えるだけではなく、精神安定効果も期待できます。タンパク質が分解されてできる、トリプトファンと呼ばれる必須アミノ酸はメンタル不調を改善する働きがあります。食事だけでタンパク質を十分に摂取するのが難しい場合は、プロテインを取り入れてみるのもおすすめです。
7. 漢方を取り入れてみる
漢方には三大漢方婦人薬と呼ばれる3つの漢方薬があり、これらはPMSの症状にも有効であると考えられています。ここでは、それぞれの漢方の特徴について解説します。漢方薬はPMSなどの婦人科疾病で頻繁に処方されているので、気になる方は医師に相談してみてください。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
比較的体力がある方で、手足が冷えてのぼせる、下腹部が張る、便秘、頭痛、肩こり、めまい、むくみ、にきび、しみなどの皮膚トラブルがある場合に用いられます。漢方の考えにおける「血」の巡りが悪い方におすすめです。
加味逍遙散(かみしょうようさん)
比較的体力がない方で、情緒不安定、イライラ、不安、落ち込み、胸・お腹の張り、便秘といった症状に用いられます。漢方の考えにおける「気」の巡りが滞っている方におすすめです。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
体力虚弱の方で、貧血、めまい、頭重、肩こり、足腰の冷え、むくみ、動悸、耳鳴りなどの改善を目的に使われます。貧血気味の方におすすめです。
婦人科は受診した方がいい?
PMSの症状が辛いとき、あるいは生理中の症状も伴って辛いときは、早めの婦人科受診をおすすめします。PMSの症状だと思っていたものが、子宮内膜症などの基礎疾患による症状が出ている可能性があります。その場合、婦人科で処方される低用量ピルなどのホルモン剤を併用して治療するかもしれないので、早めに診てもらいましょう。
もちろん基礎疾患はなくとも、PMSの症状改善を目的に受診しても全く問題ありません。無理はせずに医師に相談しましょう。
パートナーや家族にPMSの症状を伝えるべき?
同居している家族やパートナーには、自身がPMSの症状に悩まされていることを伝え、理解を得た方がいいと思います。我慢することが減ると心のバランスが保ちやすくなりますし、家族やパートナーも症状を把握することで、状況に合わせたコミュニケーションが取れるようになります。一人で抱え込まないようにしましょう。
PMSは我慢しないで!早めに婦人科に相談を
PMSの症状は必ず改善できます。日頃からできるケアを取り入れながら、気になる症状は婦人科や薬局で相談するようにしてくださいね。
参考:
女子大学生における月経前症状と食生活習慣の関連 栄養学雑誌 (0021-5147)77巻4号 Page77-84(2019.08)
タクティールケアが認知症高齢者の行動・心理症状に及ぼす効果(原著論文) 日本農村医学会雑誌 (0468-2513)68巻1号 Page100-105(2019.05)
女子大学生における月経前不快気分障害の有病率と関連要因(原著論文) 女性心身医学 (1345-2894)19巻3号 Page310-321(2015.03)
月経前症候群(PMS)と五臓スコアとの関係(原著論文) 東洋療法学校協会学会誌 (0911-8071)37号 Page32-34(2014.02)