家族とのイベントや友人の披露宴などでフランス料理のコース料理を食べる際、食事のマナーがわからず困ってしまったことはありませんか。服装や基本の席次、ナイフとフォークの使い方、コース料理の食べ方について、ヒロコマナーグループのマナーコンサルタント・川道映里さんが解説します。
レストランでの装いは「TPPPO」を意識する
高級レストランへ食事へ行く際、どんな服装を心がければ良いのでしょうか。マナーの観点から装いを考える際、大切なことは「TPPPO」だとヒロコマナーグループでは提唱しています。
- T(Time)……時
- P(Place)……場所
- P(Person)……人、相手
- P(Position)……立場
- O(Occasion)……場合
以上の5つのことを考慮して装いを決めるのがおすすめです。それでは、それぞれの押さえておきたいポイントをお伝えします。
服装
服装は店の雰囲気や食事の時間帯に合ったものを選びます。昼に食事へ行くのであれば、肌の露出が少ないワンピースやドレスがおすすめです。夜であれば背中や腕を出した光沢のあるワンピースやドレスでも良いでしょう。男性の場合はジャケットがあると安心ですね。もし不安な場合は、事前に店へ電話して、ドレスコードを確認すると良いでしょう。
その他、身につけているアクセサリーなどは、テーブルや食器に傷をつけないものを選ぶようにしましょう。ロングネックレスやブレスレットは特に避けた方が良いです。テーブルなどを傷つけるだけでなく、物に触れることで鳴るカタカタという音も相手が不快に感じる場合があります。さらに、ご自身にとっても食事の妨げになるでしょう。
ヘアスタイル
女性は特に、食事をする際に髪の毛が邪魔にならないようまとめておきましょう。食事中に髪の毛を手で触るのは控えたい行為です。
バッグ
席に持っていけるように布製で小ぶりのものを用意します。椅子に座った際、椅子の背もたれと腰の間に置くと邪魔になりません。もしテーブルの近くに専用置場があればそこに置きます。また大きなバッグを持っている場合は、入店した際にクロークに預けるのを忘れずに。もし大きなバッグしか持ってきていない場合は、そのバッグを持ち込んでもよいか店に相談すると置き場所を確保してくれるでしょう。ですが、大きなバッグは店や他のお客さまにあたる可能性があります。食事の邪魔にならないようスマートに振る舞うためにも、サブバックがあると安心です。なお、お祝いの席では殺生を想起させる爬虫類系の革や毛皮のバッグは控えたほうが無難です。
足元
エレガントなものを選びます。女性はサンダルやミュール、スニーカーなどは避けた方が無難です。男性もスニーカーは避けましょう。ストッキングは伝線しても慌てないように替えを持っておくと安心です。
基本の席次
部屋のレイアウトや出入口の位置、椅子の向きなどによって席次は変化します。オープンなテーブル席での基本の席次は、出入口から一番遠い席が上座になります。また個室の場合は、暖炉のある方や出入口から遠い方が上座です。上座には目上の人やゲスト、男女の場合は女性が座ります。もし分からない場合は、店の人が最初に椅子を引いた席が上座となりますのでそれに従いましょう。
ただし、必ず基本の席次どおりに座らなければいけないということはありません。例えば、夜の食事の際に下座の方が美しい夜景を見ることができるのであれば、「本来はそちら(上座)にお座りいただくのですが、こちら(下座)の方が美しい夜景を見ることができます。宜しければ、こちらの席(下座)はいかがでしょうか」と相手へ聞いてみるのもありです。マナーは、相手や状況に合わせて臨機応変に変化させていいのです。
カトラリーの基本の持ち方
ナイフやフォーク、スプーンなどをまとめて「カトラリー」と呼びます。また、フォークのまるく盛り上がっている側を「背」、くぼんでいる側を「ハラ」と呼びます。
ナイフとフォークの持ち方
右利きの場合、基本的にナイフは右手、フォークは背を上にして左手に持ち、上から人差し指で押さえます。ただし柔らかい魚料理を食べるときのナイフの持ち方は、上から人差し指で押さえずに、親指と人差し指、中指、薬指でつまんで持ちます。
スプーンの持ち方
スプーンの表面を上に向け、人差し指と中指の第二関節あたりに柄をのせ、親指で上から軽く押さえます。
カトラリーのサイン
食事中に飲みものを飲むときや、ナプキンで口を拭うときなどは、手に持っているカトラリーをいったん置きます。その置き方にも、「イギリス式」「フランス式」「アメリカ式」といくつかのスタイルがあります。日本ではフランス式で食べるのが一般的ですが、店や相手のスタイルに合わせて適宜使い分けましょう。詳しくはこの後解説しますが、下の画像を見てください。
この食事休みのサインに加えて食事終了のサインも、店の人へのサインとなります。いずれのスタイルも共通点はナイフの刃は必ず内側へ向けるということです。ナイフの刃を外側へ向けることは、相手に刃を向けることになるので注意しましょう。これを踏まえた上で、食事休みと食事終了の一般的なサインをそれぞれ見ていきましょう。
食事休みのサイン
イギリス式
ナイフの上にフォークをクロスさせます。これは「私はあなたをナイフで傷つけることはしません」という気持ちを表したものです。
フランス式
フォークの背を上にして、お皿の中でハの字になるように置きます。持ち手の柄の部分は、テーブルに置かないようにしましょう。
アメリカ式
フォークの背を上にして、ハの字にします。カトラリーの持ち手の端は、テーブルに置きます。
食事終了のサイン
イギリス式
フォークのハラを上に向け、ナイフとともに時計の6時の位置に置きます。中央に置くことで、店の人が左右どちらからでも下げやすいといった配慮からなる型です。
フランス式
フォークのハラを上に向け、時計の4時の位置に置きます。
アメリカ式
フォークのハラを上に向け、時計の3時の位置に置きます。
このようにいくつかのスタイルが存在しますが、絶対にこの型を行わなければいけないということはありません。大切なことは、知識としてインプットした上で相手に合わせること。例えば、相手がフランス式で食事をしているのであれば同じようにフランス式で食べる、またイギリスへ行った際は、現地の型やスタイルに従うといった具合です。
フランス料理をスマートに食べるポイント
1. 基本的に音を立てないようにする
相手が不快に感じないように、食べるときは音を立てないようにします。カトラリーを使う際は、力を入れると音が出やすいので注意しましょう。高価な皿を傷つけてしまう恐れがあります。
2. カトラリーは外側から取る
ナイフ、フォーク共に複数並んでいる場合、カトラリーは外側から取るのが基本です。もし分からないものがあれば店の人に訊ねましょう。
3. 洋食器は持ち上げない
基本的にフランス料理では料理の皿は持ち上げません。ただし取っ手が付いたカップ型のスープ皿は持ち上げても構いません。
4. 料理は左側から食べる
ナイフとフォークで切り分けて食べるフランス料理は、一口分ずつ左側から切って食べていきます。
5. 物を落としても自分で拾わない
カトラリーやナプキンなどを落とした場合、正式な場では自分で拾いません。店の人が拾ってくれます。
各料理の食べ方
席についた後、まず迷うのがナプキンを取るタイミング。一般的にそのテーブルで最上位の人が取ったら、それに続いて他の人も取るのがマナーです。タイミングとしてはドリンクを注文した後がスマートです。
ナプキンは2つ折りにして、山になっている側を自分のお腹側に向けてかけます。口などを拭くときは、そのナプキンの左上端の裏側で拭きます。こうすると表から汚れが見えず洋服を汚す心配もありません。
45cm×45cm以下のサイズのナプキンは、2つ折りにしないで表面を上にして広げます。口などを拭くときは表面を使いましょう。
オードブル
料理のスタートとして、華やかな盛り付けで出てきます。ナイフとフォークを使って、左側から一口ずつ切って食べましょう。
スープ
素材のうま味を凝縮させ、店の味がよく表れるのがスープ。ちなみに、スープは「飲む」ではなく「食べる」というのが正式です。食べ方はスープを手前から奥にすくうのがイギリス式で、奥から手前にすくうのがフランス式。この際、左手はひざに置くのがイギリス式、テーブルの上に出すのがフランス式といわれています。フランス式で左手をテーブルに出しておく理由は「私は武器を隠し持っていません」と相手に安心感を与えるための所作となります。
スープが残り少なくなったら、左手でスープ皿の手前側を持ち上げ、奥にスープを集めてすくいましょう。これは、スープ皿の裏側を相手に見せないという配慮からなる所作です。裏側を見せ、相手に不快感を与えてしまうのを避けるために、このようにスープを食べるのです。なお取っ手のついているスープ皿の場合は、手で持って口に近づけて食べても構いません。
パン
皿にのせるのは2個までにし、おかわりは食べ終わってから頼みましょう。パンはひと口大にちぎって、ひと口で食べます。パン屑が落ちても、自分で寄せ集めてはいけません。店の人に任せましょう。このとき大切なことは、微笑みながら「ありがとうございます」と伝えること。レストランでの食事では店の人とのコミュニケーションがとても大切です。
また高級店ではパン皿がなく、テーブルクロスの上に直接パンを置くところもあります。パンを直接置いても良いくらいテーブルクロスが清潔であるというサインなので、直接置きましょう。食べかけのパンを元の位置に戻すときは、ちぎった側が自分に向くように置くと相手からきれいに見えるのでおすすめです。
バターは使用する分だけをパン皿に取ります。バターナイフでひと口分を取り、ちぎったパンにつけます。バターを数名で共有する場合は、その中で最上位の人が取ったあとに順に回します。
魚料理
魚介類のメインディッシュです。左側から魚用ナイフで切って食べましょう。魚用スプーンで切る場合は切り分けた身をソースと一緒にすくって食べても構いません。また、殻付きの海老や貝類などがフィンガーボウルと共に出された場合は、「手を使って食べてもいいですよ」というメッセージになります。指が汚れたらボウルに指を第一関節まで入れて洗い、しずくはナプキンで拭きとりましょう。
もし食べ方がわからない場合は、遠慮せずに店の人に尋ねることをおすすめします。店には、お客さまにこのようにして食べてもらいたいといった意向があるので、ぜひ最適な食べ方を聞いて料理を堪能してください。
肉料理
野菜などと一緒に盛り付けてあることが多い肉料理は、まずメイン食材の肉から食べます。左側からひと口分ずつ切りましょう。そのとき、フォークでしっかりと肉を押さえると安定するので切れやすくなります。
つけあわせはナイフとフォークで挟んで皿の手前に置き、ひと口分に切って食べます。サラダが一緒に出された場合は、大きめの葉物ナイフで切り分けます。または、ナイフとフォークを使って葉物を折りたたみ、フォークに刺して食べるとスマートに食べることができます。
デザートとコーヒー
デザートが盛り合わせになっている場合は、基本的に手前左側から時計回りに食べていきます。アイスクリームが出された場合は、溶ける前に食べましょう。焼菓子はアイスクリームで冷たくなった口の中の温度を整えるもの。アイスクリームとの配分を考えながら食べるといいですね。
続いて、コーヒーの飲み方です。スプーンがカップの手前に置いてある場合は、スプーンをカップの向こう側に置きましょう。これは「今から飲みますよ」というサインになります。最初はミルクなどは入れずにブラックでひと口飲み、味を確かめるのがマナーです。その後は砂糖やミルクで調整しても構いません。ソーサーは持ち上げず、右手でカップをしっかりと持って飲みます。このとき左手をカップに添えると、「このコーヒーは冷めている」というサインになるので気を付けましょう。
料理の写真を撮る際の注意点
近年、SNSに料理の写真を投稿する人が多くなりました。料理人は温かい料理は温かいうちに、冷たい料理は冷たいうちに食べてほしいと思っています。写真撮影に夢中になりすぎて、食事の味が損われることのないように注意してくださいね。美しい料理を見ると、つい写真を撮りたくなる気持ちはあるでしょう。その場合は事前に店の人へ写真を撮らせてもらっていいか確認をしてから撮るのがマナーです。ちょっとした確認で、未然にトラブルを防ぐことができます。
「美しい所作を身につけたい」「この人のカトラリーの持ち方って、間違ってない? 」など細かいことばかりにこだわり、一緒に食事をしている人との会話やコミュニケーションを楽しめないのはもったいないです。テーブルマナーで最も大切なことは、食事の場を通じて周囲の人々と楽しい時間を共有することであり、良いコミュニケーションをとることです。ひと通りのマナーを押さえた上で、相手に合わせた臨機応変な所作を心がけましょう。